旬、レシピ、メニュー、野菜、料理、調理法、埼玉県、羽生市、夏野菜、ナス、ズッキーニ、新玉ねぎ

農家さん直伝! 野菜の本当においしい食べ方~埼玉・ナスとズッキーニ~【連載エッセイ】

更新日:2022/06/20

その野菜の本当においしい食べ方を、人気フードライターの白央篤司さんが、農家さんのキッチンを訪ねて教えてもらう連載エッセイ。意外にも農業の盛んな埼玉県。ご紹介したい農家さんが多くて、今回、早くも3回目の登板です。県北部の羽生市へ、蝶々が飛ぶ田園風景のなか、ナスとズッキーニが旬真っ盛りのボンズファームの台所からお届けします。

夏に食べたい! ナスの
ひんやり驚きのレシピ

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左/冷たいナスのヴィシソワーズ 右/ヒスイナスの素麺のせ

あの涼感、忘れられない。ナスの冷製スープを飲んだことはあるだろうか? 「皮付きのまま玉ねぎと炒めて、コンソメと豆乳を加えてミキサーにかけただけなんですよ。味つけは塩コショウで」とはにかんだ感じで大貫伸弘さんが言う。しかしアクもえぐみもなく、喉に爽やかで心地いい。畑からもぎたての鮮度の良さゆえだろうか。聞けば「あのみのり」という、柔らかい身質が特徴の品種と。いやはや、ナスはこんな使い方もできるんだなあ。

続いて出してくれたのは、淡い緑色が特徴のヒスイナスを刻んで片栗粉をつけ、ゆでたのをのせた素麺。ヒスイナスの表面がツルッとして、唇に触れた瞬間から涼しげだ。そう、涼やかな料理の2連発が嬉しかった。取材日は実に暑い日で、食べるごとに体がクールダウン。夏場の畑仕事はどれだけつらいことだろう。大貫さんはいつもこういう料理で体を癒しているんだな。

Bonz farmは埼玉県の北側、羽生市にある。先日、都内の飲食店で大貫さんの野菜をいただく機会があった。剛健な味わいというのか・・・みっちり詰まった根菜のたくましさ、香りの強さが印象的で、こんな野菜を作る人の食卓が知りたくなって今回取材を申し込んだ次第。大貫さんは生まれも育ちも羽生市で、今年36歳。住宅街の只中に畑がある。駅から歩くこと10分ぐらい、蝶が飛んでいるなと思ったら、大貫さんの畑を目指していたようで、はからずも蝶が先導してくれてたどり着いた。

「収穫しなかったブロッコリーなんかが育って、開花するとやってくるんです。この時期は蝶の天国ですよ」と笑う大貫さん。畑に無数の蝶が群がる様は、なかなかに幻想的な光景だった。その中を大貫さんが夏野菜の収穫にいそしむ。野球選手のバリー・ボンズに似ていると昔に言われ、以来あだ名がボンズになって、農園の屋号にまでなった。

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上/ズッキーニのガーリックソテー。上にかけているのは、炒ったパン粉に刻んだローズマリーとパセリを混ぜ込んだもの 下/新玉ねぎのレンジ蒸し。シンプルながら、新玉ねぎの美味しさを味わうにはこれで十分と感じる逸品

「今はズッキーニも旬です、ニンニクと焼いただけですが」と出してくれたものが実にう・ま・い。縦に大きく切ることで、みずみずしさがダイレクトに感じられるのが発見だった。しかし大貫さん、料理上手である。「いえいえ全然。でも、昔レストランでホールとして働いていたときに受けた刺激が今に活きているかもしれません」。

レンチンしただけですけど、と最後に出してくれた新玉ねぎが素晴らしくて、噛んでいる間ずっとワクワクした。横半分に切り、8等分に切れ目を入れて塩コショウとバターをのせ、しばしレンジにかけるシンプルな作り方だが、これ以上何の足し算も不要という味わい。ぜひぜひ皆さん、真似してみてください。

あ、そうだ。「これだけは母が作ったものです」と出してくれたのが、ナス入りの野菜の味噌炒め。昔から定番の、大貫家の味だそう。味噌は自家製、こっくりとした甘めの味つけが印象的。農作業の疲れを取るのに必要な甘さであり、明日のエネルギー源でもあるんだろうな。

帰りは玄関先まで見送ってくださった。昔はやっぱり、こんなに住宅はなかったんですかと問えば、「僕が生まれた頃はうちから駅が見えたそうです」と。そう、住宅街の中に畑があるんじゃなくて、田畑がだんだんと住宅になっていったんだよな。帰り道、今歩いているここは何畑だったんだろう…と想像しつつ、駅へ向かった。

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【取材風景より】大貫伸弘さんの母・文子さんがふるまってくれた夏野菜の自家製味噌炒め。疲れた体に染み入るような、しっかりと甘く、それでいてやさしい味わい

埼玉県、羽生市、夏野菜、ナス

【取材風景より】大貫伸弘さんの畑から、成長途中の白ナス。英語でナスは「eggplant」、白ナスは確かに卵みたいだ

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【取材風景より】羽生市ののどかな田園地帯の中に広がる大貫伸弘さんの畑。無農薬・化学肥料不使用で、露地栽培にこだわり、多品種の野菜を育てている

埼玉県、羽生市、夏野菜、ナス、ズッキーニ

【取材風景より】兼業農家の家庭に生まれたものの、学生の頃は農業を継ぐつもりはなかったという大貫伸弘さん。次第に自分が継がなければ家や田畑はどうなるんだろうという思いが芽生えたそう。その後、飲食店でアルバイトをするうちに食に興味を持ち、食関連の営業職に就く。さらにレストランに転職して、そのときに食べた久松農園(茨城県土浦市)の野菜に感銘を受けたことから、久松農園の門をたたく。久松農園での約2年の修業を経て、2015年に独立。今は、畑で穫れた野菜でツマミを作り、妻さんと毎晩晩酌するのが楽しみだという

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Bonz farm(ボンズファーム)

羽生市で年間50品目、100種を栽培。兼業農家の家庭に生まれた大貫伸弘さんが、飲食関係の会社員とレストラン勤務、久松農園(茨城県土浦市)での修業を経て、2015年に創業。無農薬・化学肥料不使用で育てた野菜は、県内外の料理人から厚い支持を集めている

文・白央篤司

はくおうあつし フードライター。「暮らしと食」、郷土料理をテーマに執筆。『オレンジページ』、CREA WEB、朝日新聞ウィズニュースなどで連載中。主な著書に『にっぽんのおにぎり』(理論社)、『ジャパめし。』(集英社)、『自炊力』(光文社新書)など

PHOTO/KEI KATAGIRI
※メトロミニッツ2022年7月号「行ってきました、農家さんの台所。」に加筆して転載

※記事は2022年6月20日(月)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります