媛スマ、愛育フィッシュ、養殖魚、全身トロ、愛媛県、愛南町

水産王国・愛媛で育つ全身トロの「幻の高級魚」、媛スマ~注目の新品種はこうして誕生した。No.009

更新日:2023/11/22

「10年に一度の逸材」と呼ばれ、瞬く間に市場を席巻した人気のぶどう、シャインマスカットのように、末永く愛されるヒット品種を―。愛媛県が世界で初めて完全養殖に成功した「媛(ひめ)スマ」は、「全身トロ」「脂ののったカツオ」と評される抜群のおいしさを誇りながら、天然ものは非常に希少で地元でのみ消費されてきた「幻の高級魚」。冬に旬を迎える極上の魚を、東京で、愛媛で、ご賞味あれ。

媛スマ、愛育フィッシュ、養殖魚、全身トロ、愛媛県、愛南町
愛媛県が世界で初めて完全養殖に成功した「媛スマ」

まさしく全身トロの脂のり! 
水産王国・愛媛の技術の結晶「媛スマ」

愛媛県南西部、宇和海(うわかい)に面した愛南町(あいなんちょう)の、リアス海岸沿いの穏やかな海の上に「媛(ひめ)スマ」の養殖場はあります。黒潮由来の温かい海水と高い透明度に恵まれた宇和海は古くから養殖漁業が盛んで、マダイを筆頭に魚類養殖生産日本一を誇る水産王国・愛媛を支えてきました。

この海で長年マグロ養殖を営む尾崎洋祐(おざきようすけ)さんが媛スマに取り組みはじめて今年で5年。生け簀(す)の中を猛然と泳ぎまわる媛スマを見やり、ぽつり。
「毎年、なにかひとつクリアするとまた違う課題が出てくるんです(笑)」

媛スマ、愛育フィッシュ、養殖魚、全身トロ、愛媛県、愛南町
愛媛県愛南町の海で媛スマを育てている尾崎洋祐さん。もともとは養殖クロマグロの生産者で、クロマグロのかたわら令和元年(2019年)から媛スマの養殖に取り組む

そもそも天然のスマは、ほかの魚の漁に紛れ込むなどしてごくたまに水揚げされる程度。

「全身トロのよう」「マグロとカツオのいいとこどり」と賞賛される脂のりとおいしさゆえに地元だけで消費され、大都市にはほとんど出回りません。

その美味と成長速度に注目した愛媛県が2013年に愛媛大学との共同研究を開始し、2016年に人工孵化(ふか)から一貫して育てる完全養殖に世界で初めて成功。「媛スマ」と名付けられた現在も、品質向上のための試行錯誤が続きます。

媛スマ、愛育フィッシュ、養殖魚、全身トロ、愛媛県、愛南町
愛媛県と大分県の間にある宇和海(豊後水道の愛媛県側の海域)。媛スマは現在、この宇和海を含めて県内4カ所で養殖されている

獰猛(どうもう)ながら繊細で、稚魚の生残率がほかの養殖魚よりも低く、その原因も含めて未だに謎が多い媛スマ。

尾崎さんは、生け簀内の飼育密度を下げて魚のストレスを減らし、「餌(えさ)代が大変」と苦笑しながらもイワシやアジなどの生餌をたっぷり与えます。水揚げは魚体を傷つけないために一本釣りで、瞬時に血抜きして氷水に浸ける船上活〆(いけじめ)と当日出荷を徹底。最後まで細心の注意を払います。

「稚魚の頃も心配は尽きませんが、冬の出荷シーズンも休みなく作業が続きます」と尾崎さん。

決してマグロやカツオの代替品ではない、唯一無二のおいしさは、こうして地道に、丁寧に作られています。

均整の取れた美しい姿も媛スマの魅力のひとつ。県担当者も「銀色の紡錘形とトラ柄模様で、すごくカッコいい魚です」と惚れこむほど

PICK UP! >> 媛スマ(ひめすま)

愛媛県が完全養殖の技術を確立した「媛スマ」。

もともとスマは熱帯~亜熱帯に分布する回遊魚で、名前はシマガツオが転じたスマガツオに由来する。引き締まった紡錘形、背側のシマ模様と胸側の黒斑点が特徴。現地ではこの黒斑点がお灸の跡に見えることから、ヤイト(灸)の別名を持つ。

その味わいは「全身トロのような身質」「脂ののったカツオのよう」「マグロとカツオのいいとこどり」と絶賛されるほど。天然ものはほかの魚を狙った漁に紛れ込むなどして水揚げされるのみで、水揚げ量が非常に少ないこともあって地元の漁師や漁港の関係者の間で消費されてきた。

媛スマの養殖技術を愛媛県が確立したことで、これまで「幻の高級魚」であったスマのおいしさを、安定して楽しむことができるようになった。

媛スマは成長が速いのも優れた点で、初夏に稚魚を放してから約7カ月後には1.5㎏以上の出荷サイズに。さらに2.5㎏以上、脂質含有率25%以上など一定基準をクリアしたものがトップブランドの「伊予の媛貴海(ひめたかみ)」となる。

品種/媛スマ
育成地/愛媛県
品種登録/2016年
分類/スズキ目サバ科スマ属

上/岩塩、わさび、ネギ生姜と、それぞれの味わいの違いを楽しめる、『新宿栄寿司』の媛スマの三貫セット1320 円 左中/皮目を炙って霜降りにした、媛スマの焼き霜造り1980 円。適度に脂が落ちて締まった刺身を岩塩と薬味でいただく 右中/本店では、1尾から2人前しか取れない、かま焼き(880円)がお品書きに加わる日も 下左/全身に脂を蓄えた媛スマ 下右/『新宿栄寿司 本店』は東京メトロ新宿三丁目から徒歩すぐ

東京都内で「媛スマ」を食べるなら
⇒新宿栄寿司(しんじゅくさかえずし)

豊洲を中心に厳選したネタを使い、リーズナブルでおいしい寿司を提供する『新宿栄寿司』は、都内で媛スマをいただける貴重なお店。好評だった昨年に引き続き、今冬も媛スマの魅力をダイレクトに味わう焼き霜造りと三貫握りが期間限定で登場する。愛南町の漁港から直送される媛スマは鮮度が高く、スジ感の少ないきめ細かい舌ざわりとクセのない赤身のうまみ、さらっと上品にとける脂の甘みに、ベテランの寿司職人も「養殖魚の概念が変わる」と太鼓判。媛スマの出荷時期は概ね12月頃~春頃、期間中は週1~2回程度の出荷となる予定。入荷状況は事前にお店までご確認を!

新宿栄寿司

■本店
TEL.03-3351-2525
住所/東京都新宿区新宿3-6-2
営業時間/火~土11:30~22:00(21:30LO)
月・日・祝 ~ 21:30(21:00LO)
定休日/年末年始(12/31~1/3)

■西口店
TEL.03-3340-2525 
住所/東京都新宿区西新宿1-18-16
営業時間/火~土11:30~22:00(21:30LO)
月・日・祝 ~ 21:30(21:00LO)
定休日/年末年始(12/31~1/3)

※媛スマの提供は12月初旬開始予定。
詳細はInstagramでお知らせ
新宿栄寿司Instagram

上/『愛南市場食堂』の愛南びやびやかつお刺身定食1550円。煮物かフライなどの小鉢、サラダ、お新香にごはんとお味噌汁がつく。肉厚の刺身はもっちりで感動的なおいしさ。「びやびや」は鮮度が非常に高く、身の締まった状態のこと 下左/マダイやブリの養殖も盛んな愛南町。こちらも人気メニューの鯛のごまだれ丼は、もっちりとうまみのある刺身に特製のゴマダレをたっぷりとかけていただく贅沢などんぶり。ブリの刺身とお味噌汁、お新香がセットになって1450円 下右/『愛南市場食堂』は深浦漁港の愛南漁協の敷地内にある

愛媛県で「媛スマ」を食べるなら
⇒愛南市場食堂(あいなんいちばしょくどう)

釣りあげたその日に水揚げされる「日戻りカツオ」のなかでも、諸条件をクリアした鮮度抜群のカツオのみが名乗ることのできる「愛南びやびやかつお」。深浦漁港にある『愛南市場食堂』には、この幻のカツオを求めて全国から客が訪れます。店主の田下安宏さんが「愛南びやびやかつお」と同じくらい絶賛するのが、“さばいた包丁に滴(したた)る” ほどの媛スマの濃厚な脂。冬場のイチオシ、媛スマ刺身定食1550円では刺身か炙(あぶ)りかを選ぶことができますが、炙(あぶ)りにすると「身が無くなる!」と心配になるくらいに炎が上がるそう。仕入れた当日はモチモチ、翌日にはとろける食感の変化も媛スマの魅力と田下さん。

愛南市場食堂

TEL.0895-73-2556
住所/愛媛県南宇和郡愛南町鯆越166-4(漁協敷地内)
営業時間/9:30 ~ 15:00(14:30LO)
日・祝 10:00 ~
定休日/月曜, 日曜以外の市場休市日, 正月
※媛スマの提供は12月初旬開始予定
詳細はInstagram またはLINE でお知らせ
※LINE:電話番号で友だち検索

NOTE

宇和海にある尾崎洋祐さんの媛スマの養殖場

【取材ノート】
愛南町の船着き場から20分ほどエンジン船に乗って媛スマの養殖場へ(写真上)。クロマグロ用の巨大な円形の生け簀の隣にある、小型の正方形の生け簀のなかを媛スマが勢いよく泳ぎまわっていた(同左下)。媛スマの生け簀は一辺12メートル正方、このなかにおよそ2300匹の媛スマを飼育しているそう。稚魚のときは毎日2回、成長してからは毎日1回、イワシやアジなどの生餌を与える。撮影のために少量の餌をまいてもらったところ、食欲旺盛な媛スマが猛然と集まって水しぶきをあげていた(同右下)。

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見晴るかす広がる宇和海の青く穏やかな海

【取材ノート】
取材時はあいにくの荒天だったが、その前日は天気もよく海も青く澄んでいて、船の通り過ぎた曳航のあとがどこまでも美しかった。この穏やかな海で媛スマが健やかに育てられている。

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愛南町の名所のひとつ、外泊の石垣の里

【取材ノート】
取材の合間に、愛南町の西南部にある外泊(そとどまり)の「石垣の里」を散策(写真上)。入り江に面した急斜面の中腹まで民家が立ち並び、それぞれが軒先近くまで整然と積み上げられた石垣に囲まれている。この石垣は海風や台風、季節風に備えるためであり、当地に暮らす人々の営みと知恵を感じる風景だ(住所/愛媛県南宇和郡愛南町外泊)。石垣の里から海を眺めると、ここもまた魚の養殖のための生け簀が広がっていた(左下)。

愛南町、鯆越(いるかごえ)の海の夕暮れ

【取材ノート】
すべての取材を終えた後の美しい夕景。『愛南市場食堂』そばの入り江にて。鮮度抜群の媛スマをいただきに、冬場にぜひとも再訪したい。

PHOTO/KAZUHITO MIURA
※メトロミニッツ2023年12月号「今日もどこかで第2のシャインマスカットが生まれている。」に加筆して転載

※記事は2023年11月22日(水)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります