その先に見えた小さな夢みたいなもの_ローカリズム~編集長コラム【連載】

更新日:2022/06/20

東京都・築地
編集部が全国から集めた
日本のいいものが揃う
僕たちの秘密基地

メトロミニッツの「お店」が17日間限定でオープンします

 夢を持つこととか夢を語ることを躊躇するようになったのはたぶん自分のせいだけど、最近は世の中も少し停滞した気分が蔓延していて、実際に夢という言葉を見ることも聞くことも、前より少なくなったような気がします。

 僕の夢は小説家になることで、その夢は大人になった今も心の中にいつも居座っています。一方で編集者は僕にとって夢とは少し違って、たぶんそれが夢じゃないからこそ、僕は今でも飽きずに編集の仕事ができているのだと思います。

 そう。僕は雑誌を作る仕事を長くしています。そしてそれを続ければ続けるほど、積み重なった感情があります。それは「屋台でたこ焼きを売るように、作ったものは手渡しで売りたい」という気持ちです。

 マスメディアという言葉にあるように、雑誌は大衆への発信を前提に成り立っています。そして本を校了したら、僕らはもう次の本を作っていて、それが「どのように」「誰の手に」届いているのか? という過程を見ることはほとんどありません。もちろん言うまでもなく、多くの人に読んでもらうことは喜びです。でもうまく言えないけど、僕は「大衆」に喜んでもらいたいわけじゃない。だから僕はいつの日からか、それを「顔を見ながら手渡したい」と思うようになりました。

 お店をやろうと思ったのは、それが理由です。メトロミニッツは今年11月で、創刊20年を迎えます。20年間、毎月10万冊ずつ、地下鉄のラックに本を置いて、みなさんに読んでいただきました。のべ2千万冊以上の本が、世の中に届いたことになります。でも、僕はあなたの顔を知りません。こんなに感謝をしていても、です。

 もちろんお店をすることは楽なことではないでしょう。僕らはただの編集者です。でも、世界にはやってみなくちゃわからないことがたくさんある。そしてここまで準備して感じたことは、編集者は夢とは違ったけど、お店をやることは、その先に見えた小さな夢みたいなものかもしれないってこと。

 せっかくですから「ネットでは買えないもの」を揃えています。たとえば、20周年の記念に、国立のブリュワリーに協力していただき、イチからクラフトビールをつくっていただきました。味も、ラベルも、すべてオリジナルです。この場所では限定72本。

 すべてのものが指先ひとつで自宅に届けられるこの時代において、これは僕たちの店に来て、僕たちから買っていただくことになります。面倒ですが、その売るとか買うとか、そういう行為の中に、僕たちが探しているなにかがあるはずだと信じて、お店で店番をすることにします。お待ちしています。

Illustration/YOSHIE KAKIMOTO
※メトロミニッツ2022年7月号より転載 

※記事は2022年6月20日(月)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります