VOICE OF CHEESE 日本のチーズ職人「百人百話」 Vol.13 北海道・十勝、道央エリア 日本チーズの“こえ”に出会う旅

更新日:2019/12/20

今、着実に盛り上がりを見せている日本のナチュラルチーズ。国内の工房数は10年前の倍近くに増加し、国際コンクールで入賞を果たすチーズが続々と現れています。生乳を発酵・熟成させて作るナチュラルチーズは、自然の力と職人の製造技術のたまもの。そして何より作り手の想いが込められていることが、美味しさの必須条件です。チーズが生まれる現場から、作り手の“こえ”をお届けする本連載。

VOICE 49 北海道・清水町「十勝千年の森 ランラン・ファーム」斉藤真さん

(画像左)「美しさは美味しさの証拠。自社放牧の山羊のミルクと近隣の牛のミルクから生まれる“きれいなチーズ”です。」/「十勝千年の森 ランラン・ファーム」斉藤真さん (画像右上)3haの土地で40頭ほどの山羊を放牧 (画像右下)フランスのシェーブルに倣い、炭をまぶした山羊乳100%の「十勝シェーブル・炭」。断面も美しい 

雄大な日高山脈を望む牧草地で草を食むのは、牛ではなく真っ白い山羊たち。「搾乳の合図の鐘を鳴らすと、自然と集まってくるんです」。そう語るのは、山羊たちの飼育からチーズ製造までを担う斉藤真さん。

斉藤さんがチーズ作りを始めたのは今から15年前のこと。「山羊のミルクは香りが移りやすい。だからまずは山羊の体臭から改善しようと思って」と、それまで畜舎のみで飼育していた山羊の放牧をスタートしました。その結果、狭い畜舎にいるより山羊の体が清潔に保てる上、山羊たちものびのび、ストレスフリーに過ごせるように。

搾乳などを行う畜舎も通気と掃除を徹底、驚くほど家畜臭が少ない環境を実現しました。今では“山羊のチーズ=臭い”というイメージを覆す優しい味わいのチーズが、「ランラン・ファーム」の代名詞に。国内の名だたるコンテストでの受賞歴を誇ります。

「作りたいのは美しいチーズ」と斉藤さん。「チーズはきれいな方が確実に美味しい。形が偏ると熟成が均一に進まないんです。外側を炭や酵母で覆うチーズは、炭と酵母が外気を遮断し雑カビを抑える。きれいに覆われている方が美味しいんですよ」。

そして同時に目指すのが“旨み”のあるチーズ。「例えば、酸凝固のように独特のパサパサ感があるタイプでも、旨みがあれば食べた瞬間に唾液が出て、わっと味わいが広がるんです」。日頃から味の強いものを控え、毎年スタッフ全員で味覚のチェックを行うなど、自らの舌を磨きます。

今の目標は、「こぢんまりした、地元に愛される牧場になること」。代表作の山羊のチーズの他、親しみやすい牛のミルクのチーズも多く手掛けるのは、一部の愛好家のためではなく万人のために門戸を開いている証拠。進化を続ける斉藤さんの今後から目が離せません。

(画像左上)山羊の他、近隣の牧場から届く牛の生乳を使用。毎週合わせて1000L前後を仕込む (画像右上)熟成庫にはゴーダなどがずらり。フレッシュから熟成まで幅広く手掛ける (画像左下)マーレキアーロ」のシェフ・日髙雅史さんも、畜舎の環境の良さを体感。「斉藤さんが『旨みを出したい』と語る通り、山羊のチーズは旨みもあり食感もユニーク。興味深い話ばかりでした」 (画像右下)ハーブやスパイスが香る「十勝シェーブルオリーブオイル」(右)1598円(120g)、牛乳100%の酸凝固タイプ「牛鐘(カウベル)」(左)831円(90g)

十勝千年の森 ランラン・ファーム

TEL.0156-63-3800
住所/北海道清水町羽帯南10線
SHOP/直売あり。その他、新千歳空港「Wine&Cheese北海道興農社」などで販売

VOICE 50 北海道・江別市「米村牧場チーズ工房プラッツ」米村常光さん(右)千代子さん(左)

(画像左)「土壌作りへの長年の追求をチーズ作りに生かして。熟成による味の変化も楽しんでもらいたい。」/「米村牧場チーズ工房プラッツ」米村常光さん(右)千代子さん(左) (画像右上)人が集う場所にと、ドイツ語で“広場”を意味する「プラッツ」を工房名に (画像右下)健康な土壌が健康な牛を育む

1946年から酪農を続ける「米村牧場」。2代目の常光さんは、長年微生物の力を利用した完熟堆肥作りを研究、独自の循環型酪農を確立し、全国の酪農家に広く知られる存在です。

そんな常光さんの運命を変えたのは、15年ほど前、妻・千代子さんが持ち帰った一切れの外国産チーズ。芳醇な旨みと香りに感動した常光さんは、その勢いでヨーロッパへ! チーズがどんな環境から生まれているかを視察し、帰国後、自らチーズ製造を始めます。

現在メインで手掛けるハードタイプのチーズは、生乳に含まれる土壌の微生物由来の酵素の働きにより、長期熟成するほどに変化する味わいが魅力。三笠市「山﨑ワイナリー」のワインの澱に3週間漬け込む「ワイン・ドゥ・チーズ」など、ユニークな商品も人気です。

(画像左)旨みの変化を感じられるよう、熟成期間を変えたチーズを販売 (画像右)「ワイン・ドゥ・チーズ(ピノノアール)」1166円/100g

米村牧場チーズ工房プラッツ

TEL.011-384-6288
住所/北海道江別市角山555
SHOP/直売あり

VOICE 51 北海道・むかわ町「ASUKAのチーズ工房」北川飛鳥さん(左)久仁子さん(右)

(画像左)悪者扱いされる菌も他方から見れば善玉菌。あえてチーズに残して生乳の特徴を生かします。/「「ASUKAのチーズ工房」北川飛鳥さん(左)久仁子さん(右) (画像右上)菌が持つさまざまな力がチーズに現れる (画像右下)モツァレラ「わたげ」、白カビタイプ「雪の音」など約8種を製造する

農業高校時代にチーズの虜となり、大樹町の「半田ファーム」で修業後、実家「毛利牧場」内に工房を設立した飛鳥さん。10年目の現在は、母・久仁
子さんと二人三脚でチーズ製造を続けます。

使うのはもちろん実家の牛たちの生乳。主な餌の自家製サイレージ(発酵飼料)に含まれる菌は、チーズに多彩な影響を与えます。「例えば、この穴は酪酸菌によるもの。異常発酵を引き起こしやすく悪者扱いされる反面、腸内環境を整える善玉菌でもある。女子には嬉しい“ヤセ菌”だから、発生のタイミングを計算し、あえて残すようにしています」。

地元に愛されるチーズをと、町の名産品・ししゃもの出汁と粉末を使った「しおかぜ」なるストリングチーズも開発。愛する酪農と故郷の魅力を、チーズを介して伝えます。

(画像上)約60頭の牛を放牧する「毛利牧場」。牧場主は飛鳥さんの父 (画像下)「ストリング・しおかぜ」885円(80g)

ASUKAのチーズ工房

TEL.0145-42-5416
住所/北海道勇払郡むかわ町汐見281
SHOP/直売なし。その他、むかわ町「ぽぽんた市場」、新千歳空港「さっぽろ東急百貨店」、札幌市「丸井今井きたキッチン」などで販売

VOICE 52 北海道・安平町「はやきたチーズ工房 夢民舎」 宮本正典さん(左)山本雄二さん(右)

(画像左)「国産チーズ発祥の地早来の町の名を冠した地域に誇れるここだけの商品を。」/「はやきたチーズ工房 夢民舎」 宮本正典さん(左)山本雄二さん(右) (画像右上)2年の研究期間をかけて1997年に念願のブルーチーズが完成 (画像右下)毎日3000L前後を仕込み、10種以上のチーズを製造
する

1930年代に日本初の大手チーズ工場が誕生した安平町早来。その工場の移転後、国産チーズの灯を絶やすまいと有志によって設立されたのが「夢民舎」です。宮本さんもその1人。

「当時のメンバーはPTA仲間。知識はほぼ後付けでした」。努力が実ったのが、1998年の第1回「ALL JAPAN ナチュラルチーズコンテスト」。「『カマンベール』が特別審査委員賞を受賞し、審査委員の1人は本場カマンベール村の村長さん。夜寝られないほど嬉しかったです」。

その後は次々と人気商品を考案。クリームチーズとブルーチーズを絶妙にブレンドした「ダブルチーズ」は、初心者にも愛好家にも喜ばれる味わいです。早来とともに歩んで30年。夢中でチーズ作りを続けてきた宮本さんの志は今、工場長の山本さんら後進にしっかり受け継がれています。

(画像左)「ダブルチーズ」1004円(120g) (画像右)今や全国にファンを持つ工房になった「はやきたチーズ工房 夢民舎」

はやきたチーズ工房 夢民舎

TEL.0145-26-2355
住所/北海道勇払郡安平町早来大町141
SHOP/系列店「レストランみやもと」で直売あり。その他、東京・千代田区「北海道どさんこプラザ」などで販売

【東京でも4人のチーズが買えます!】SHOP|清澄白河「チーズのこえ」

今回紹介した4つの工房のチーズを東京で購入するなら、日本で唯一の国産ナチュラルチーズ専門店「チーズのこえ」へ。チーズコンシェルジュが選んだ約40工房、年間300種類以上のチーズを取り揃えています。

TEL.03-5875-8023
住所/東京都江東区平野1-7-7 第一近藤ビル1F
営業時間/11:00~19:00
定休日/不定休

【終了しました】北海道・十勝&道央エリアのチーズを味わうイベント

共創料理 with マーレキアーロ

Metro min.編集部が独自にセレクトした名店と、日本各地のチーズの生産者とのコラボレーションによるイベント「共創料理」。第13弾は取材陣とともにチーズ工房を訪れたイタリア料理店「マーレキアーロ」の日髙雅史シェフが腕を振るいます。まずは「十勝千年の森 ランラン・ファーム」の斉藤真さんのお話をお聞きしながら、ウェルカムドリンクとチーズの食べ比べを。その後、日髙シェフがそのチーズを使用して作る全4皿の特別コースが登場します。

場  所/マーレキアーロ(東京都港区西麻布2・24・9)
日  時/2020年2月15日(土)11:30~14:30
料  金/3000円(ウェルカムドリンク、チーズ食べ比べ、全4皿のコース)
募集人数/16名(抽選)※着席スタイル
応募締切/2020年1月5日(日)

イベント実施の様子

概要
北海道・清水町「十勝千年の森 ランラン・ファーム」斉藤真さんのチーズへの想いを聞きつつ、イタリア料理店「マーレキアーロ」の日髙雅史シェフによる、「十勝千年の森 ランラン・ファーム」のチーズを使用した特別料理を味わった。
参加者の感想(抜粋)
斉藤さん、今野さんのトーク、チーズの勉強が出来て楽しかったです。シェフのチーズを使った料理、素敵な空間とても良かったです。

お料理も、ゲストスピーカー皆さんのお話も、すべて興味深く、素敵な体験となりました。この企画そのものがとてもいいと思います。
メトロミニッツ「日本のさかな~東京湾~」特集

メトロミニッツ2020年1月号「日本のさかな~東京湾~」特集

背後に大都市を抱え、沿岸住民はおよそ3000万人。湾岸地域にはタワーマンションが立ち並び、現在は2020年に向けて、新たな開発も進行中。今月はそんな東京湾、特にそこに暮らす「魚たち」が主役の特集です。埋め立てが始まった徳川家康の時代から、長きにわたって人々に翻弄されてきた東京湾ですが、今もまだ「豊かだ」と言うことができるのは潤沢な海洋資源があればこそ。本特集は、匹数を減らながらも何とか豊かさを守ってくれている、東京湾の魚たちの未来のためにお届けします。

後援:独立行政法人 農畜産業振興機構「国産チーズ競争力強化支援対策事業」

Photo 松園多聞 Text 唐澤理恵
※メトロミニッツ2020年1月号「日本のさかな~東京湾~」特集の記事転載
※本ページで記載の価格は全て「チーズのこえ」の販売価格となります
※掲載店舗や商品などの情報は、取材時と変更になっている場合もございますので、ご了承ください

※記事は2019年12月20日(金)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります