VOICE OF CHEESE 日本のチーズ職人「百人百話」 Vol.19 北海道・道北&オホーツクエリア 日本チーズの“こえ”に出会う旅②

更新日:2020/11/20

今、着実に盛り上がりを見せている日本のナチュラルチーズ。国内の工房数は10年前の倍近くに増加し、国際コンクールで入賞を果たすチーズが続々と現れています。生乳を発酵・熟成させて作るナチュラルチーズは、自然の力と職人の製造技術のたまもの。そして何より作り手の想いが込められていることが、美味しさの必須条件です。チーズが生まれる現場から、作り手の“こえ”をお届けする本連載。

VOICE81 北海道・名寄市「チーズ工房 マヤッカ」兼平輝明さん(右)鈴木直樹さん(左)

(画像左)「工房名「マヤッカ」の意味はフィンランド語で「灯台」。チーズを通じ、多くの人を助け導く存在になれたら」/「チーズ工房 マヤッカ」兼平輝明さん、鈴木直樹さん (画像右)市内で生産される生乳を、月に350kgほど仕込む。生乳の味を感じられるよう、塩味はかなり控えめ

名寄市で福祉事業を展開する会社「ファロ」により、障害者の就労支援施設として誕生した「チーズ工房 マヤッカ」。「野菜やパンを作る就労支援施設は多いですが、他と違うことがしたくて。名寄の牛乳を使えば地域にも貢献できると思いました」と話すのは、「ファロ」の所長・兼平さんです。

職人にスカウトしたのは、隣町のチーズ工房に勤めていた鈴木さん。知識や技術は持つ鈴木さんでしたが、製造を教えるのも、支援施設で働くのも初めて。2011年の設立当初は「もう大変でした」と笑います。うまくいくようになったのは、「スタッフのことを信じ、作業に口出ししないようにしてから」。

兼平さんに相談しながら、個々の性格の違いに合わせて仕事を細分化。製造量が安定すると、イベント出店で出会った各地のお客さんの応援も後押しに。工房は今、ものづくりの喜びと誇りを知る職人集団に成長しました。「次は、彼らがチーズ作りを教える番になってほしい」と2人。新たな目標へと漕ぎ出しています。

(画像左上)6カ月熟成させるゴーダチーズも売れ筋 (画像右上)濃厚なヨーグルトは3種揃う (画像右下)「ストリングスチーズ」766円/100g

チーズ工房 マヤッカ

TEL.01654-8-7070
住所/北海道名寄市西1条南6-20
SHOP/直売あり。その他、名寄市「道の駅 もち米の里☆なよろ」、新千歳空港内「さっぽろ東急百貨店 新千歳空港売店」などで販売

VOICE 82 北海道・中頓別町「高橋牧場チーズ工房」高橋憲一さん

(画像左)「熟成時の独特の食感は伝統製法ならではのもの。40年以上作り続けるカマンベールです」/「高橋牧場チーズ工房」高橋憲一さん (画像右上)本場同様、250gの大きめサイズ (画像右下)工房は元牛舎。近くの道の駅にあるカフェ「森のキッチンHARU」も経営

牧場を運営していた20代の頃、隣町のチーズ研究所でカマンベールと出合った高橋さん。熟成で味わいが変化する面白さに魅了され、自宅でチーズ製造を始めます。

個人経営の工房がまだ少ない時代に、アメリカから乳酸菌を個人輸入、フランスのテキストを取り寄せ翻訳するなど、趣味の枠を超えた高いクオリティは評判に。50歳を前に牧場をたたみ、2000年、晴れて工房を設立しました。

一貫して取り組むのは、AOC認証を受けるフランス・ノルマンディ地方の伝統製法。ルーシュと呼ばれるお玉を使い、型に生地を流して作ります。

熟成の過程も楽しめますが、美味しさのピークは製造後1カ月ほど。中心に繊細な“芯”が残り、周りはとろりと濃厚。その一体感こそ、カマンベール一筋に歩んできた職人の真骨頂です。

(画像左)週20~40個ほどを製造。牛を放牧で育てる若手酪農家の生乳を使う (画像右)「ルーシュ」2052円/250g

高橋牧場チーズ工房

TEL.01634-6-1598
住所/北海道枝幸郡中頓別町弥生23
SHOP/直売なし。中頓別町「道の駅 ピンネシリ」で販売(不定期)

VOICE 83 北海道・雄武町「ブルーグラスファーム」渡辺和基さん

(画像左)「オホーツク海が育てた元気な牧草が牛の主食。ユニークな製造方法のチーズにも挑戦中です」/「ブルーグラスファーム」渡辺和基さん (画像右上)ストリングタイプやスモーク後熟成させるオリジナルのチーズなど6種が揃う (画像右下)約130haの牧草地を管理

“ブルーグラス”=青草という牧場名通り、牛の餌となる牧草が渡辺さんのこだわり。オホーツク海脇の牧草地で海風を浴びたミネラル豊富な青草を、初夏から秋に収穫、干し草やサイレージ(発酵飼料)として牛にたっぷりと与えます。

そうして生まれる牛乳の美味しさを直接消費者に届けたいと、2004年に工房とショップをオープン。学生時代に学んだ加工技術と各地の施設での研修経験を糧に、チーズ作りを始めました。

穏やかな語り口の渡辺さんですが、「チーズって、なぜかみんな同じように作るんだよね」とぽつり。静かなる反骨精神は、独自性あふれるラインアップに顕著です。

例えば、ゴーダタイプの「モルディ」は、工房に住む“地カビ”の力で1年以上熟成。豊かで複雑な風味は他では味わえません。

(画像左)牛の餌は牧草がメイン。明るい牛舎は臭いもなく環境の良さが伝わる (画像右)「モルディ」529円/25g

ブルーグラスファーム

TEL.0158-84-3483
住所/北海道紋別郡雄武町字北雄武355-1
SHOP/直売あり。その他、雄武町「Aコープ雄夢」で販売

VOICE 84 北海道・砂川市「岩瀬牧場」岩瀬康子さん(上) 岩瀬あゆみさん(下)

(画像左)「さっぱり美味しい生乳をフレッシュなチーズに。直営レストラン限定で楽しめる自慢の味です」/「岩瀬牧場」岩瀬康子さん、 岩瀬あゆみさん (画像右)明治25年創業の老舗牧場。約200頭の牛を飼育する

ケーキやジェラートが並ぶ「岩瀬牧場」の売店は、お客さんが絶えない超人気スポット。牧場が加工を始めるきっかけは、現社長の妻で専務を務める康子さんの“牛乳愛”からでした。

「この牛乳、美味しいでしょう? 365日食べても飽きないお米みたいに、毎日さらりと飲めるんです」。

自慢の味を近所の人に届けたくて、小さな菓子店を開いたのが27年前。以来、手作りで加工を続けます。チーズは2カ月に一度、約300kgの生乳からモッツァレラを製造し、敷地内のレストランで提供するピザやパスタに利用。

現在チーズ製造を担う長男の妻・あゆみさんは、「色々なチーズを食べても、うちの生乳の味がするこのモッツァレラが一番美味しい」と笑顔。代々受け継がれる愛情が、たっぷり詰まったチーズです。

(画像左上)自家製チーズが載る、直営レストラン「リヴィスタ」の「マルゲリータ」 (画像右上)レストランの窓からは美しい牧場の景色が見える (画像下)「ふれっしゅもっつあれらチーズ」

岩瀬牧場

TEL.0125-53-5071
住所/北海道砂川市一の沢237-6
SHOP/直売あり(チーズの販売は不定期)。その他、砂川市「砂川サービスエリア」などでソフトクリームやジェラートを販売
※オンラインショップでの販売はアイスクリーム、スイーツのみ

【東京でも4人のチーズが買えます!】SHOP|清澄白河「チーズのこえ」

今回紹介した4つの工房のチーズを東京で購入するなら、日本で唯一の国産ナチュラルチーズ専門店「チーズのこえ」へ。チーズコンシェルジュが選んだ約40工房、年間300種類以上のチーズを取り揃えています。

TEL.03-5875-8023
住所/東京都江東区平野1-7-7 第一近藤ビル1F
営業時間/11:00~19:00
定休日/不定休

メトロミニッツ「New“フルサト”ツーリズム」特集

メトロミニッツ2020年12月号「TOKYO FOOD JOURNAL 2020」特集

今年の「食」のシーンを振り返り、時代のキーワードをピックアップ。東京の「食」の豊かさを総決算してみよう、というテーマで、2015年の年末に始まった特集「東京フードジャーナル(TFJ)」。今回で3回目となります。本当は、今年オリンピックが来て、東京の「食」のシーンに新たな動きがあるはずだと、この特集に再び挑戦する予定でした。しかし、今、想像していたのとは全く違う世の中に。それでもメトロミニッツは東京の豊かな「食」の話題を求め、街へ出ることにしました。今、何かに取り組む人々に会いに行き、コロナ禍でも光っている時代のキーワードを見つける、東京の「食」めぐり2020をお届けします。

後援:独立行政法人 農畜産業振興機構「国産チーズ競争力強化支援対策事業」

Photo 松園多聞 Text 唐澤理恵
※メトロミニッツ2020年12月号「TOKYO FOOD JOURNAL 2020」特集の記事転載
※本ページで記載の価格は全て「チーズのこえ」の販売価格となります
※掲載店舗や商品などの情報は、取材時と変更になっている場合もございますので、ご了承ください

※記事は2020年11月20日(金)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります