VOICE OF CHEESE 日本のチーズ職人「百人百話」 Vol.12 東北エリア 日本チーズの“こえ”に出会う旅

更新日:2019/11/30

今、着実に盛り上がりを見せている日本のナチュラルチーズ。国内の工房数は10年前の倍近くに増加し、国際コンクールで入賞を果たすチーズが続々と現れています。生乳を発酵・熟成させて作るナチュラルチーズは、自然の力と職人の製造技術のたまもの。そして何より作り手の想いが込められていることが、美味しさの必須条件です。チーズが生まれる現場から、作り手の“こえ”をお届けする本連載。

VOICE 45 岩手県・一戸町「おさんぽジャージー三谷牧場」三谷雅子さん・剛史さん

(画像左)「自分たちのジャージー牛のミルクを初めて飲んだ時の感動。その美味しさがそのまま伝わるフレッシュチーズを目指しています。」/「おさんぽジャージー三谷牧場」三谷雅子さん・剛史さん (画像右上)日当たりのいい斜面に位置する約5haの放牧地には、山からの伏流水が流れる沢もある (画像右下)柔らかめ、塩加減強めなど、シェフたちからのリクエストに合わせた「金のチーズ」も製造。「注文に応えるのも楽しい」と三谷夫妻

放牧地に入るや否や、集まってくる牛、牛、牛。頭をなでると目を細め、なんとも気持ちが良さそう。これまで多くの牧場を訪れた取材班も、ここまで人懐っこい牛たちは初めて!「この子は優しい性格で、こっちの子はちょっと問題児。みんな個性があってかわいいんですよ」。目尻を下げながら話すのは、15年前にこの地で牧場を始めた三谷夫妻。現在は約20頭のジャージー牛の生乳を搾りながら、チーズやヨーグルトを生産しています。

元々ジャージー牛を飼い始めた理由は、岩手県に多い急な傾斜地での放牧に、ホルスタインより小柄な体格が適しているから。当初は牛乳として全量を農協へ出荷する予定だったと剛史さん。「でも、自分たちで育てたジャージーのミルクがあまりにも美味しくて。この味を活かした加工品を作ろ
うと火が点いたんです」。

さらに2人を驚かせたのが、季節ごとに変化する生乳の風味。「夏なら青草の香りがする黄みがかったミルク。冬は白くてよりマイルドになる。それに気付いて、改めて酪農は面白いなと感じました」。素材の特徴をストレートに味わってほしいと、チーズはフレッシュタイプのみを製造。脂肪分が高いジャージー牛の生乳らしさが前面に出た「金のフロマージュブラン」や、甘みがあふれるモッツァレラ「金のチーズ」など、どれも他とは一線を画す、鮮烈な味わいの逸品が揃います。

一本気で職人肌な剛史さんと朗らかでマイペースな雅子さんは、作り手としてもベストコンビ。「チーズ作りはほぼ独学。なりゆきも多くて」と謙遜しつつ、「やっぱり牛が勝負。適正規模の酪農で牛に負担をかけないことが、乳質にも繋がります」と酪農家の自負も。今や有名レストランからの注文が引きも切らない事実が、その実力の高さを証明済みです。

(画像左上)毎日100~150Lの生乳を加工。生乳に余計な力をかけないよう、運搬もミルク缶で手運び (画像右上)「 きれいな環境とお2人の人柄が印象的。笑顔の裏の努力がすごいと思います」と「ビストロ コティディアン」のシェフ・須藤亮祐さん (画像左下)人気のヨーグルト。上部のクリームの層は、生乳の脂肪分が高い証拠 (画像右下)モッツァレラの製法をベースに作った「金のモッツァレラチーズ」(右)880円/100g、「金のフロマージュブラン」(左)600円/140g

おさんぽジャージー三谷牧場

TEL.0195-36-1348
住所/岩手県二戸郡一戸町奥中山字西田子1276
SHOP/直売なし。その他、JR盛岡駅「大地館」、東京都中央区「いわて銀河プラザ」などで販売

VOICE 46 青森県・弘前市「弘前チーズ工房カゼイフィーチョ・ダ・サスィーノ」笹森朋子さん・通彰さん

(画像左)「スタートはレストランの厨房から。地産地消をテーマにした“料理人のチーズ”です。」/「弘前チーズ工房カゼイフィーチョ・ダ・サスィーノ」笹森朋子さん・通彰さん (画像右上)口中でクリームが弾ける極小ブッラータ「弘前ブラッティーナ」 (画像右下)ワインセラーで熟成中のチーズ

全国から美食家が集う青森県のレストラン「オステリアエノテカ ダ・サスィーノ」。イタリア現地の星付き店で修業後、“カンパニリズモ”(郷土愛)をテーマに、自家農園で育てた野菜や自ら釣った魚、ぶどう栽培から手掛けるワインなどを提供し、究極の地産地消を実践するのがシェフの笹森通彰さんです。

2003年の開店後ほどなく、「キレがあり心地良い飲み口」と評する地元産ジャージー牛乳との出合いからチーズ作りを始めた笹森さん。2014年に工房を設立すると、すぐに国内外のコンクールで受賞し注目の的に。

目指すのは、世界最高レベルのチーズに触れてきた経験をもとに塩味や食感、サイズを工夫し、1皿の完成度を高める“料理人のチーズ”。妻・朋子さんとともに、シェフならではの味を追求します。

(画像左)毎週100kgほどの生乳を仕込む。「モッツァレラ」は直営店のピザにも使用 (画像右)「弘前ブラッティーナ」1080円/100g

弘前チーズ工房 カゼイフィーチョ・ダ・サスィーノ

TEL.0172-33-2139
住所/青森県弘前市土手町62-1
SHOP/「 ピッツェリア・ダ・サスィーノ」にて直売あり。その他、上記電話にて注文受付

VOICE 47 秋田県・羽後町「明通りチーズ工房」中村厚子さん・佐藤円さん

(画像左)16年間腕を磨いてようやくできた工房。個性的なチーズにも挑戦していきたい。/「明通りチーズ工房」中村厚子さん・佐藤円さん (画像右上)「 品質は絶対間違いなし!」と中村さんが太鼓判を押す雄勝管内の生乳を使用 (画像右下)廃校となった小学校を利用した工房

「実は私、チーズが嫌いだったの。でも農業研修で行ったスイスのナチュラルチーズが本当に美味しくって」。お茶目に語る中村厚子さんは酪農家の妻。スイスでの経験から地元の牛乳の活用方法としてチーズ製造を思いつき、農協内にチーズ部会を発足させたのは1999年のことでした。

名門「ニセコチーズ工房」の立ち上げにも関わり、チーズ作りのプロとして活躍していた佐藤円さんに師事すること苦節16年。県内唯一のチーズ工房として独立後は、2人で毎週300kgの生乳を仕込みます。

“クセがなく食べやすい味”を掲げつつ、白カビとウォッシュの製法を組み合わせた「カマンベールウォッシュ」を開発するなど、実験的でユニークな取り組みにも意欲的。酪農家のお母さんの執念が、美味しく花開きました。

(画像左)桜の花の塩漬けを使った熟成タイプのチーズは限定販売 (画像右)「カマンベールウォッシュ」900円/50g

明通りチーズ工房

TEL.0183-55-8540
住所/秋田県雄勝郡羽後町床舞字軽内180-4
SHOP/直売あり。その他、羽後町「道の駅うご 端縫いの郷」、秋田市「メルカートわかばマイスター」などで販売

VOICE 48 宮城県・大崎市「STUDIOどどいち」早坂良枝さん

(画像上)「一度離れて気付いたチーズ作りへの想いをできたてのミルキーなフレッシュチーズに込めて。」/「STUDIOどどいち」早坂良枝さん (画像右)早坂さんの実家は米農家。工房周辺には一面の田んぼが

北海道の酪農大学を卒業後、フレッシュチーズの名手である職人・寺田和弘さんの元で経験を積んだ早坂良枝さん。事情によりチーズの道を離れ、実家に戻った直後に起きたのが東日本大震災でした。

地域のためにできることを自問自答する中、再確認したのがチーズ作りへの思い。師である寺田さんの店同様、できたてのチーズを気軽に提供する、人々の生活に根差した場所を作りたい。そんな早坂さんの想いを後押ししたのが、近隣の大郷町で放牧酪農を営む菊池牧場の生乳です。

2016年に念願の工房を設立、自身が惚れ込む生乳を100%使い、師匠譲りの製法で作るモッツァレラやリコッタチーズが口コミで人気に。現在は産休のため製造を休止中ですが、ミルク感たっぷりのチーズの再登場が待たれます。

(画像左)独自製法で作る、ふんわり柔らかな食感のモッツァレラ「あわゆき」 (画像右上)リコッタ「わたゆき」には味噌漬けのタイプも (画像右下)「あわゆき」780円/100g

STUDIOどどいち

TEL.非公開
住所/宮城県大崎市田尻大沢百々一48
SHOP/現在直売、オンラインショップともに休止中

【東京でも4人のチーズが買えます!】SHOP|清澄白河「チーズのこえ」

今回紹介した4つの工房のチーズを東京で購入するなら、日本で唯一の国産ナチュラルチーズ専門店「チーズのこえ」へ。チーズコンシェルジュが選んだ約40工房、年間300種類以上のチーズを取り揃えています。

TEL.03-5875-8023
住所/東京都江東区平野1-7-7 第一近藤ビル1F
営業時間/11:00~19:00
定休日/不定休

【終了しました】 東北エリアのチーズを味わうランチ

共創料理 with ビストロ コティディアン

Metro min.編集部が独自にセレクトした名店と、日本各地のチーズの生産者とのコラボレーションによるイベント「共創料理」。第12弾は取材陣とともにチーズ工房を訪れたフランス料理店「ビストロ コティディアン」の須藤亮祐シェフが腕を振るいます。まずは「おさんぽジャージー三谷牧場」の三谷剛史さんのお話をお聞きしながら、ウェルカムドリンクとチーズの食べ比べを。その後、須藤シェフがそのチーズを使用して作る全4皿の特別コースが登場します。

場  所/ビストロ コティディアン(東京都港区麻布十番3-9-2 タモン麻布 2F)
日  時/2020年1月25日(土)11:30~14:30
料  金/3000円(ウェルカムドリンク、チーズ食べ比べ、全4皿のコース)
募集人数/18名(抽選)※着席スタイル
応募締切/2019年12月9日(月)

イベント実施の様子

概要
岩手県・一戸町「おさんぽジャージー三谷牧場」三谷剛史さんのチーズへの想いを聞きつつ、フランス料理店「ビストロ コティディアン」の須藤亮祐シェフによる、「おさんぽジャージー三谷牧場」のチーズを使用した特別料理を味わった。
参加者の感想(抜粋)
生産者の方と直接お話ができたことに加え、そのチーズを活かした創作料理が輪をかけて美味しかった。生産して製品ができるまでのご夫婦のエピソードも素敵でした。

普段お伺いすることのできないチーズ作りのお話をお伺いでき、また作られたチーズを頂きながらシェフの素敵なメニューとワインのマリアージュ。幸せな時間でした!チーズのこえの方の的確なご質問により興味もわきチーズへの理解も深まったと思います。
メトロミニッツ「ウイスキーとチョコレート」特集

メトロミニッツ2019年12月号「ウイスキーとチョコレート」特集

今月の特集は、ウイスキーのようにちょっと小難しいけど心優しい“くま”と、チョコレートのように誰からも愛される気立ての良い“うさぎ”、このふたりが主人公です。出会った瞬間から、互いの相性が抜群に良いことがわかり、この度、ふたりはマリアージュ。何を隠そう、出会いはお見合いで、その後、性格診断をしたり、引き菓子を選んだり、会場探しをしたりして、すてきなマリアージュに向けてアプローチをしてきた、ふたり。本特集では「ウイスキーとチョコレートがあれば、もっと幸せになれること」、ふたりを通じて、皆さんに存分に味わっていただけたらと考えています。

後援:独立行政法人 農畜産業振興機構「国産チーズ競争力強化支援対策事業」

Photo 松園多聞 Text 唐澤理恵
※メトロミニッツ2019年12月号「ウイスキーとチョコレート」特集の記事転載
※本ページで記載の価格は全て「チーズのこえ」の販売価格となります
※掲載店舗や商品などの情報は、取材時と変更になっている場合もございますので、ご了承ください

※記事は2019年11月30日(土)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります