VOICE OF CHEESE 日本のチーズ職人「百人百話」 Vol.7 北海道・釧路エリア 日本チーズの“こえ”に出会う旅

更新日:2019/06/20

今、着実に盛り上がりを見せている日本のナチュラルチーズ。国内の工房数は10年前の倍近くに増加し、国際コンクールで入賞を果たすチーズも続々と現れています。生乳を発酵・熟成させて作るナチュラルチーズは、自然の力と職人の製造技術のたまもの。そして何より作り手の想いが込められていることが、美味しさの必須条件です。本連載はチーズが生まれる現場から、作り手の“こえ”をお届けします。

VOICE 25 北海道・標茶町「長坂牧場チーズ工房」長坂泰裕さん、浩行さん

(画像左)「牛にも人にもストレスが少ない循環型の放牧飼育を実践。だからこそできる美味しさを、兄弟で追い求めていきたい。」/「長坂牧場チーズ工房」長坂泰裕さん、浩行さん(画像右上)「小さい工房だから、個性のあるチーズで勝負を」(泰裕さん)。1日300ℓの牛乳を週3日仕込む(画像右下)初夏から秋は、牛が若草を食べたら別の区画に放牧、その間にまた草を成長させる「輪換放牧」を実践。「牛も農地を耕す作業員」と浩行さん

「牛は賢い。美味しい餌があれば、自分から放牧地へ出ていくんです」。広大な大地でむしゃむしゃと草を食む牛たちを眺めながらそう話すのは、北海道・標茶町(しべちゃちょう)で「長坂牧場」を運営する長坂浩行さん。

先代が始めた放牧飼育を引き継ぎ、牛にも環境にも、さらに人にも負担の少ない酪農を実践、酪農のコンクールで最高位の農林水産大臣賞を受賞するなど、高い評価を得ている酪農家の1人です。ここでは牛も“自立動物”、お産も基本は牛まかせ!

「人がいなくてもちゃんと産んで、世話もしますよ。牛は工業製品ではありませんから、なるべく自由に、ストレスなく過ごさせてあげたい」。そう語る浩行さんの心強いパートナーは、チーズ工房を切り盛りする弟の泰裕さんです。

2016年から実家へ戻り、チーズ作りを開始した泰裕さん。日本のナチュラルチーズ業界を牽引してきた「共働学舎」で3年間、ラクレットなどの製造に携わった経験を持ちますが、「『共働学舎』と同じやり方で作っても、全然うまくいかなくて。今のラインアップになったのはつい最近です」と語ります。

現在は、旨みをたたえた長期熟成ハードチーズ「みのり」、芳醇な香りが口の中でとろけるウォッシュタイプのセミソフトチーズ「このみ」など、個性豊かなチーズを安定して製造できるようになりました。

職人肌だけに、自らこだわりを語ることは少ない泰裕さんですが、浩行さんはそんな彼のチーズを、「まっすぐ作っているのが分かる、優しい味」と表現します。

健康な牛を育て美味しい生乳を搾る浩行さんと、その味を素直に表現する泰裕さん。良き理解者同士の兄弟が、それぞれの分野に向き合って二人三脚で作り上げる、唯一無二のチーズがここにあります。

(画像左) 取材日も、ちょうど数時間前に自然分娩で生まれたばかりの仔牛が!(画像右上)「もちろんそのままで美味しいけれど、料理のアイデアも沸きますね」と「インクローチョ」のシェフ守屋直さん(画像右・中央)現在は「みのり」、「このみ」の他、赤ワインで磨いて熟成させる「わいん」を常時製造。一度つまむと止まらない、絶妙な味わい(画像右下)「みのり」(右)961円/100g、「このみ」(左)788円/100g

長坂牧場チーズ工房

TEL.015-488-6355
住所/北海道川上郡標茶町字中チャンベツ原野基線11-8
SHOP/直売なし オンラインショップ

VOICE 26 北海道・厚岸町「森髙牧場」森髙貴大さん、裕子さん

(画像左)「牛乳の風味を活かしたゴーダチーズの1本勝負。子どもたちが喜ぶ姿がうれしくて、うれしくて。」/「森髙牧場」森髙貴大さん、裕子さん(画像右上)工房近くの放牧地で約100頭の牛を飼育。ソフトクリームも販売(画像右下)「ゴーダチーズ」939円(125g)

創業60余年、地元の牛乳屋さんとして愛される「森髙牧場」のスタートは、「美味しい牛乳をみんなに飲んでほしい」という想いから。

「だからうちは牛乳ありき。牛を日光の下で放牧して、栄養のある牧草を食べさせて。そうやって育てたら、乳脂肪分がすごく高くなったの」。明るく話すのは、息子の貴大さんと一緒にお店に立つ森髙裕子さん。

12年前に裕子さんが始めたのが、自慢の牛乳を使ったチーズ作りでした。ミルク感たっぷりの味わいは、ぱくぱく食べたいシンプルな美味しさ。年齢問わず人気があるのも納得です。

表からは見えないけれど、衛生管理が徹底され、独自の工夫を盛り込んだ設備にもこだわりが。安全で高品質なものを届けたい。そんな森髙家の想いが、美味しさを支えています。

(画像上)人が絶えない人気スポット(画像下)「牛乳の味がそのまま出る」と作るのはゴーダのみ。現在は貴大さんが製造担当

森髙牧場

TEL.0153-52-7707 
住所/北海道厚岸郡厚岸町宮園1-375
SHOP/直売あり

VOICE 27 北海道・鶴居村「酪楽館」小山田愛さん

(画像左)「“酪農の村”の牛乳の味と先輩からの技術を守り、特産品として親しまれる村のチーズを目指します。」/「酪楽館」小山田愛さん(画像右上)現在は小山田さんとスタッフの2人が働く(画像右下)「鶴居 シルバーラベル」734円/100g

タンチョウの飛来地として知られる鶴居村は、“酪農の村”としても有名。鶴の給餌場近くにある「酪楽館」には、毎朝、農家から集めた新鮮な牛乳が届きます。

デンマークで修業した初代職人から技術を学んだのが、職人歴7年目の小山田愛さん。日本人の口に合うチーズをという初代の意思を継ぎ、クセを抑えたゴーダタイプの熟成チーズなどを手掛けます。

「先輩に教わった味と製法を守って、美味しく安全なものを届けられれば」と謙虚な小山田さんですが、地名を冠した「鶴居」は、「ALL JAPAN ナチュラルチーズコンテスト」で6回連続受賞中。

名実ともに“地チーズ”となった「鶴居」の根幹が、村の宝である牛乳を活かし工房の味を守る、小山田さんの誠実な仕事にあることは言うまでもありません。

(画像上)週5日、1日400ℓの牛乳を仕込む(画像下)熟成期間80日以上の「シルバーラベル」、半年以上の「ゴールドラベル」などが揃う「鶴居」

酪楽館

TEL.0154-64-3088
住所/北海道阿寒郡鶴居村字雪裡435
SHOP/直売あり。その他、釧路市「釧路和商市場」、札幌市「大丸札幌店」などで販売

VOICE 28 北海道・標茶町「風牧場」高橋遊馬さん

(画像左)「チーズ作りの楽しさは作るほどにうまくなること。まだ始めて2年目ですが、今後は新商品も開発したい。」/「風牧場」高橋遊馬さん(画像右上)「佐藤牧場」代表の佐藤肇さん。北海道ならではの放牧酪農にこだわる(画像右下)「ゴーダチーズ」939円(100g)

摩周湖の伏流水が湧き出る自然豊かな地で放牧酪農を行う「佐藤牧場」。その直営店舗兼工房「風牧場」では、都内の高級スーパーでも扱うヨーグルト飲料「プリティア」を生産するなど、加工品に力を入れています。

現在、チーズの製造を担うのが、弱冠21歳の高橋遊馬さん。一昨年に林業から転職、未経験で入社したものの、元々研究好きの性格にハマったのがチーズでした。

「チーズも科学。1℃の違いでどう変化するかなど、実験しながら勉強中です」と初々しくも頼もしい高橋さん。

毎月約200ℓの牛乳を仕込む少量生産で、地元向けの親しみやすいチーズを作りますが、「大手とは違う味があると伝えたい」と意欲を燃やします。若き職人の夢がどう羽ばたくのか。今後に注目したいチーズ工房です。

(画像上)国道沿いのログハウスが直売所(画像下)現在はゴーダやモッツァレラ、カマンベールなど5種のチーズを製造

風牧場

TEL.015-486-2131 
住所/北海道川上郡標茶町字熊牛原野10線東5-9
SHOP/直売あり

【東京でも4人のチーズが買えます!】SHOP|清澄白河「チーズのこえ」

今回紹介した4つの工房のチーズを東京で購入するなら、日本で唯一の国産ナチュラルチーズ専門店「チーズのこえ」へ。チーズコンシェルジュが選んだ約40工房、年間300種類以上のチーズを取り揃えています。

TEL.03-5875-8023
住所/東京都江東区平野1-7-7 第一近藤ビル1F
営業時間/11:00~19:00
定休日/不定休

【終了しました】北海道エリアのチーズを味わうランチ


共創料理 with インクローチョ

メトロミニッツWEB「一流の料理人がいる名店案内」に加盟するレストランと、日本各地の生産者とのコラボレーションによるイベント「共創料理」。第7弾は取材陣とともに北海道を訪れたイタリア料理店「インクローチョ」の守屋直シェフが腕を振るいます。まずは「長坂牧場チーズ工房」の長坂浩行さんのお話をお聞きしながら、ウェルカムドリンクとチーズの食べ比べを。その後、守屋シェフがそのチーズを使用して作る全4皿の特別コースが登場します。

場  所/インクローチョ(東京都渋谷区代官山町9-7 サンビューハイツ代官山101)
日  時/2019年7月20日(土) 11:30~14:30
料  金/3000円(ウェルカムドリンク、チーズ食べ比べ、全4皿のコース)
募集人数/16名(抽選) ※着席スタイル
応募締切/2019年7月5日(金)

イベント実施の様子

概要
北海道・標茶町の「長坂牧場チーズ工房」長坂浩行さんのチーズへの想いを聞きつつ、イタリア料理店「インクローチョ」の守屋直シェフによる、「長坂牧場チーズ工房」のチーズを使用した特別料理を味わった。
参加者の感想(抜粋)
今までただ食べるだけでしたが、色々なお話を聞き、作り手の想いを感じながら食べる楽しみを知れてよかったです

色々なチーズの食べ比べが出来、料理との組み合わせも自分では思いつかないものなので楽しかった。

夏のトリセツ

記録的な猛暑だった昨年の夏、海外メディアからは「2020年の対策は大丈夫か」と不安視する声も。確かに、最近の東京の「夏」の取り扱い方がわからない方も多いのかもしれません。そこで今月は、夏を乗り越えるためのアイデア、アイテムなど、夏と上手に付き合うためのヒント集をお届けします。事前にきちんと対策をして、今年の夏こそ、快適に過ごしていきましょう。

後援:独立行政法人 農畜産業振興機構「国産チーズ競争力強化支援対策事業」

Photo 松園多聞 Text 唐澤理恵
※メトロミニッツ2019年7月号「夏のトリセツ」特集の記事転載
※本ページで記載の価格は全て「チーズのこえ」の販売価格となります
※掲載店舗や商品などの情報は、取材時と変更になっている場合もございますので、ご了承ください

※記事は2019年6月20日(木)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります