VOICE OF CHEESE 日本のチーズ職人「百人百話」 Vol.3 北海道・道北エリア 日本チーズの“こえ”に出会う旅

更新日:2019/06/04

今、着実に盛り上がりを見せている日本のナチュラルチーズ。国内の工房数は10年前の倍近くに増加し、国際コンクールで入賞を果たすチーズが続々と現れています。生乳を発酵・熟成させて作るナチュラルチーズは、自然の力と職人の製造技術のたまもの。そして何より作り手の想いが込められていることが、美味しさの必須条件です。チーズが生まれる現場から、作り手の“こえ”をお届けする本連載。

VOICE 09 北海道・旭川市 「伊勢ファーム」伊勢昇平さん

(画像左)「ただ美味しいだけじゃない。地元・江丹別の素材で作る唯一無二のブルーチーズで、本気で世界一を目指します。」/「伊勢ファーム」伊勢昇平さん(画像右上)「伊勢ファーム」伊勢昇平さん(左)「イズム」原田隼太郎シェフ(右)(画像右下・中央)週4回、1日150ℓの生乳をこのバットで仕込む。半月状の形状はフランス式。チーズ製造は2011年からだが、2015年に技術向上を目指して渡仏、帰国後はより安定した味を作れるようになり自信が付いたと伊勢さん(画像右下)現在はブルーチーズ一筋。名産地であるフランス・オーベルニュ地方と江丹別の気候が似ているのがその理由

冬はマイナス30℃を下回り、夏は35℃に達する日もあるほど寒暖差が激しい旭川市江丹別町で「世界一のチーズを作る!」と宣言するのが、「江丹別の青いチーズ」を手掛ける伊勢昇平さんです。

酪農を営む両親のもと帯広畜産大学に進学、卒業後は有名チーズ工房で基礎を学び、フランス修業経験も持つ伊勢さんですが、「昔は親の仕事が嫌で。地元にもコンプレックスがありました」と語ります。「自分を肯定したくて世界を目指そうと考えた時、いいなと思ったのがチーズ職人の道でした」。

幸い、放牧地で青草を食べて育つ実家の牛の生乳は、風味豊かでチーズ向き。完成したブルーチーズは独特の香りが苦手な人でも食べやすいと好評で、国際線ファーストクラスの機内でも提供されるように。

「でも美味しいチーズなんてヨーロッパには山ほどある。江丹別でしかできない、絶対替えの利かないチーズを作りたい」。現在取り組むブルーチーズの“アレンジ熟成”はその真骨頂。「地酒の酒粕で覆ったり、地元産ワインに浸したりして追熟させます。美味しいだけでなく、他にはない付加価値を付けたいんです」。

そして次なる目標は「江丹別を世界一面白い場所にすること」と伊勢さん。「周りを巻き込んで“田舎の存在意義”を示したい。実際に知人が移住して店を開くことが決まっていますが、僕のチーズはそのプラットフォーム。この街自体がブランドになったら面白いでしょう」。美味しいチーズには、熱きフロンティア精神も詰まっているのです。

(画像左)現在は6ヘクタールの土地に18頭の牛を放牧、家族で協力しながら面倒をみる。新鮮な牛乳で作るソフトクリームも人気商品(画像右上)もともと伊勢さんのチーズのファンだったという「イズム」原田隼太郎シェフ。「初めて食べたアレンジ熟成のチーズも相当美味しい。香りの化学反応がすごい」と感動(画像右下・中央)道外でも人気の「江丹別の青いチーズ」1240円/100g(画像右下)右の2つは、「ふらのワイン」のワイン、「高砂酒造」の日本酒の酒粕で追熟したもの。今後さまざまなアレンジ熟成に挑戦予定だそう

伊勢ファーム

TEL.0166-73-2148
住所/北海道旭川市江丹別町拓北214
SHOP/直売あり(伊勢ファームショップ「カウ&カーフ」)その他、東京・愛宕「フェルミエ」、北海道・札幌「北大マルシェCafé&Labo」などで販売

VOICE 10 北海道・興部町 「ノースプレインファーム」大黒宏さん

(画像左)「ここオホーツクの有機生乳を使って、テロワールを表現するのが夢。」/「ノースプレインファーム」大黒宏さん(画像右上)オホーツクの冷涼な気候が美味しさを育む(画像右下)「おこっぺハードチーズ」 910円/100g

オホーツク海に近い「ノースプレインファーム」は、飼料から加工品まで有機認証を得た牧場。一方、1990年代初頭にいち早くチーズ作りを始め、かの「生キャラメル」を最初に発売するなど、酪農の6次産業化の先駆者としても有名です。

現在は120ヘクタールの牧場で育つ50頭の牛の生乳から、7種のチーズを製造。代表の大黒宏さんは「牛が草を食べ、糞が土に還り草となる。そんな循環が一番自然」と語ります。驚くほど香り豊かな有機生乳で作るチーズは、牧草が茂る夏、雪に閉ざされる冬といった気候風土を反映し、季節で味が変化。

「でも土地の個性が出ているかと言えば、まだまだ。地域の味を作るには、第一次産業から加工、小売・流通までを町で担わないと」。真のテロワールの表現を目指し、地元密着型店舗や媒体作りに邁進するなど、飽くなき挑戦は続きます。

(画像上)直営ショップ内のカフェは地元の人気スポット(画像下)「オホーツクおこっぺ有機牛乳」。コクと甘み、後味の爽やかさは特筆もの!

ノースプレインファーム

TEL.0158-88-2000
住所/北海道紋別郡興部町北興116-2
SHOP/直売あり(直営ショップ「ミルクホール」)

VOICE 11 北海道・興部町 「チーズ工房 アドナイ」堤田ひかるさん、 まことさん、もといさん

(画像左)「美味しいチーズを適正な価格で多くの人に届ける。それが全てです」/「チーズ工房 アドナイ」堤田まことさん(右)、もといさん(左)(画像右上)3軒の酪農家から購入する生乳を、月に12トンほど仕込む(画像右下)「フロマージュ・ド・エール つばさのチーズ」1650円/180g

近隣の牧場から届く生乳でチーズを作る、生粋の職人一家が堤田家。元々乳製品メーカーの社員だった父・克彦さんが興部町へ移住し、ゼロから工房を始めたのが1994年のこと。

当初「10人中2人が気に入ってくれればいい」と考えていたチーズは料理人たちに支持され高評価を受けてきましたが、目下のところ目指すのは、美味しさはもちろん「できる範囲で生産量も増やし、価格も手頃なもの」と克彦さん。根底にあるのは、日本でもチーズがもっと一般的に食べられる存在になればという強い想いです。

フレッシュからウォッシュ、セミハードまで揃う15種のチーズを始め、ヨーグルトや本格的な焼き菓子まで、選ぶのが楽しくなる品揃えの豊富さも出色。寡黙ながら情熱的な克彦さんの志を継いで現在製造を担うのは、若き三兄弟。今後の活躍に注目が集まる気鋭のチーズ工房です。

(画像上)ヨーロッパの伝統製法をベースに、独自の工夫で作られるチーズたち (画像下)全国の作り手から師事される克彦さん

チーズ工房 アドナイ

TEL.0158-82-3133
住所/北海道紋別郡興部町字興部914-12
SHOP/直売あり

VOICE 12 北海道・美深町「きた牛舎」島英明さん

(画像左)「ジャガイモに載せたりサラダに入れたり。みなさんの食卓に馴染むチーズでありたい。」/「きた牛舎」島英明さん(画像右上)熟成庫には最大100玉のチーズが。吊るされているのは「カチョカヴァロ」(画像右下)「牧場のラクレット」 1410円/120g

父が牛の仲買人だったという島英明さん。人と牛が共に暮らす原風景を残したいと、会社勤めを辞め、2010年にチーズ工房を設立しました。

今では日々、隣接する「島牧場」で朝搾乳された生乳を新鮮なうちに仕込み、6種のチーズを作ります。中でも自信作は、加熱するととろりと溶ける「牧場のラクレット」。「美深の名産品・ジャガイモと合わせ、地元の方々にも食べてもらいたくて」と島さん。ジャガイモはもちろん、パンに載せても、もちろんそのままでも。多彩な味わい方が楽しめます。

自分のチーズを“おとなしい味”と表現する島さんですが、つまりそれは、誰にとっても食べやすい優しい味ということ。「野菜や塩とさっと和えるだけでも十分美味しい。難しく構えることなく、毎日の食卓で気軽に食べてほしいんです」。甘いミルクの風味に、島さんの温かい人柄が重なります。

(画像上)冷凍のピザ生地も独自開発 (画像下)工房で働くスタッフは現在4名。「後継者募集中です」と島さん

きた牛舎

TEL.01656-8-7633
住所/北海道中川郡美深町川西50-7
SHOP/直売あり(「しまミルク加工所」)

【東京でも4人のチーズが買えます!】SHOP|清澄白河「チーズのこえ」

今回紹介した4つの工房のチーズを東京で購入するなら、 日本で唯一の北海道産ナチュラルチーズ専門店「チーズの こえ」へ。チーズコンシェルジュが選んだ約35工房、年間 300種類以上のチーズを取り揃えています。

TEL.03-5875-8023
住所/東京都江東区平野1-7-7 第一近藤ビル1F
営業時間/11:00~19:00
定休日/不定休

【終了しました】2018年11月24日(土)開催! 北海道のチーズを味わうランチパーティ

イベント名
共創料理 with イズム
開催場所
イズム(東京都渋谷区神宮前3-39-9 ヒルズ青山B1F)
開催日程
2018年10月27日(土)
開催時間
11:30~15:00(予定)
料金
3000円(ウェルカムドリンク、チーズ食べ比べ、全6皿のコース)
募集人数
18名(抽選) ※着席スタイル
メトロミニッツWEB「一流の料理人がいる名店案内」に加盟するレストランと、日本各地の生産者とのコラボレーションによるイベント「共創料理」。第3弾は、取材陣とともに北海道を訪れたフランス料理店「イズム」の原田隼太郎シェフが腕を振るいます。まずは「伊勢ファーム」の伊勢昇平さんのお話をお聞きしながら、ウェルカムドリンクとチーズの食べ比べを。その後、原田シェフが「伊勢ファーム」のチーズを使用して作る全6皿の特別コースが登場します。
メトロミニッツ「東京のパン」特集

東京のパン

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後援:独立行政法人 農畜産業振興機構「国産チーズ競争力強化支援対策事業」

Photo 松園多聞 Text 唐澤理恵
※メトロミニッツ2018年11月号「東京のパン」特集の記事転載
※本ページで記載の価格は全て「チーズのこえ」の販売価格となります
※掲載店舗や商品などの情報は、取材時と変更になっている場合もございますので、ご了承ください

※記事は2019年6月4日(火)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります