VOICE OF CHEESE 日本のチーズ職人「百人百話」 Vol.1 北海道 十勝エリア 日本チーズの“こえ”に出会う旅

更新日:2019/06/04

今、着実に盛り上がりを見せている日本のナチュラルチーズ。国内の工房の数は10年前の倍近くに増加し、国際コンクールで入賞を果たすチーズが続々と現れています。生乳を発酵・熟成させて作るナチュラルチーズは、自然の力と職人の製造技術のたまもの。そして何より作り手の想いが込められていることが、美味しさの必須条件です。この連載ではチーズが生まれる現場を訪ね、作り手の“こえ”をお届けします

VOICE 01 北海道・足寄町 「しあわせチーズ工房」 本間幸雄さん

(画像左)「しあわせチーズ工房」 本間幸雄さん(画像右上)山の斜面を利用して作った熟成庫にて。チーズの表面を拭くなど日々の管理が一番楽しいと本間さん。「熟成が上手くいっている時の庫内の空気がたまらなく気持ちいい!」(画像右下・中央)フランス製の銅釜で一度に500ℓの牛乳を仕込む(画像右下)工房は2016年創業

目指しているのは"土地の味を作る"こと。ここには素晴らしい酪農家がいて最上級の牛乳があるからです

「私が好きなチーズは、コンテやグリュイエールのような複雑さと長い余韻を持つもの。でも駆け出しの頃は理想の味が出せず悩むこともありました」。そう話す本間幸雄さんは、銅釜と直火を使った伝統的な製法でチーズを仕込む注目の若手職人。高校時代からチーズ職人に憧れ、卒業後は各地の工房でチーズ作りに邁進してきました。試行錯誤しながら本間さんが行き着いた味の決め手は、原材料である生乳の質。

実は、日本の牛乳のほとんどは牛舎で育つ牛のもので、広大な北海道でさえ、放牧牛は全体の1割にも満たないそう。「自分が好きなヨーロッパのチーズは、放牧された牛の生乳で作られることがほとんど。そこで各地の農家さんに放牧牛の牛乳を分けてもらって作ったら、とにかく美味しくて! 牛乳のことを何も知らなかったんだとショックでした」。そんな本間さんが酪農の勉強のため門を叩いたのが、現在の工房の隣にある「ありがとう牧場」。

牧場主の吉川友二さんは、自然に近い状態の牧草地に牛を放牧し、四季に沿った循環型農業を実践する酪農家です。「吉川さんの牧場の牛乳は草の香り。上手く熟成させると、それがより強く感じられます。今は自分が好きなタイプのチーズにこだわるより、土地の個性を表現する方が面白い」。

本間さんの代表作「幸(さち)」は一昨年のJapan Cheese Award 2016で金賞を受賞。のびのび育った牛の牛乳の香りと旨みが凝縮されたチーズには、足寄の自然が詰まっています。

(画像左)コクがあるのにさっぱり、爽やかな風味の牛乳(画像右上)「しあわせチーズ工房」で使用する牛乳を作る「ありがとう牧場」の吉川さんは放牧酪農の本場・ニュージーランドで学んだ後、2000年に足寄町へ移住。「農業は環境保護」との考え方のもと、牛、人、土地、経済に負担を強いない農業を実践中(画像左下・左)キャラメルのような甘みがあるハードタイプの「幸」1069円/100g。(画像左下・中)地元産の羊乳で仕込む「羊のハード」2916円/100g。(画像左下・右)「しあわせラクレット」788円/100g

しあわせチーズ工房

TEL.0156-26-2585
住所/北海道足寄郡足寄町茂喜登牛141-4
SHOP/直売あり(訪問の際は要連絡)。その他、札幌「ブーランジェリーコロン」、「フーズバラエティすぎはら」、帯広「藤丸百貨店」などで販売

VOICE 02 北海道・足寄町「ありがとう牧場」 宍倉優二さん

(画像左)「チーズも季節ごとに味が違う。四季に寄り添う酪農をしながら自分にしかできないブルーチーズを届けます。」/「ありがとう牧場」宍倉優二さん(画像右上)4日に1回、20kgのチーズを仕込む少量生産(画像右下)「オンネトー」1177円/100g

フリーカメラマンからチーズ職人へ転身し、右ページで紹介した「ありがとう牧場」で働く宍倉優二さん。酪農の仕事とチーズ作りを両立させる、日本でも数少ない職人の1人です。

「自然環境の中に身を置きたいと農業の道へ進んだ時、初めて本格的なナチュラルチーズを食べ、その美味しさに衝撃を受けました。そして牛を育てながらチーズを作る、フランスのフェルミエ(農家製チーズ工房)の暮らしに惹かれるようになったんです」。

現在、手掛けているのはブルーチーズのみ。「1種類だけというスタイルが、物ごとを突き詰めたい自分の性格に合っている気がします」。そんな宍倉さんが目指すのは、バターのような口溶けとミルク感を持つチーズ。「初夏にたっぷり牧草を食べた牛の牛乳で作るチーズは、香りが最高。季節によって味が違うのも、チーズの面白さだと実感しています」

(画像上)搾乳舎に併設した工房(画像下)程良い塩味でまろやかなブルーチーズ「オンネトー」。足寄町にある美しい沼から名付けられた

ありがとう牧場

TEL.0156-26-2082
住所/北海道足寄郡足寄町茂喜登牛98-4
SHOP/直売なし。「道の駅 あしょろ銀河ホール21」などで販売

VOICE 03 北海道・足寄町 「あしょろチーズ工房」佐々木 司さん

(画像左)「チーズも季節ごとに味が違う。四季に寄り添う酪農をしながら自分にしかできないブルーチーズを届けます。」/「あしょろチーズ工房」佐々木 司さん(画像右上)元々道の駅併設の商業用施設だった広い工場。1日で1tの 牛乳を仕込める(画像右下)「ころ」439円/50g

酪農王国・十勝には、全国で唯一JAが運営するチーズ工房が。その「あしょろチーズ工房」に所属する佐々木さんは、十勝の有名チーズ工房出身の実力派職人です。

現在は町内の農家から届く牛乳で、常時10種のチーズを生産中。「種類が多いのは、自分の好みのチーズに出合ってほしいから。小規模ながら生産量も保ち、誰もが食べやすく価格も抑えめのチーズを作る。そしてチーズの魅力を知ってもらうことが、私たちの使命なんです」。

独自の工夫は、主力商品の「ころ」にも。棒状のモッツァレラチーズをカットし、約2週間転がしながら熟成させたこちら、まるでホタテの干し貝柱のような食感と、噛めば噛むほどあふれ出る旨みが特徴。ユニークなネーミングと見た目が相まって、幅広い世代に人気だそう。「足寄は同世代の職人が活躍する場所。刺激を受け合えるいい環境です」

(画像上)足寄湖を望む好ロケーション!(画像下)手で転がしながら熟成させる「ころ」

あしょろチーズ工房

TEL.0156-25-7002
住所/北海道足寄郡足寄町中矢673-4
SHOP/直売なし。足寄町内のAコープ、直売所「寄って美菜」などで販売

VOICE 04 北海道・帯広市 「十勝加藤牧場」加藤佳恵さん

(画像左)「クリームのように甘いジャージー牛の牛乳。その味を知っているからこそできるチーズがあります。」/「十勝加藤牧場」加藤佳恵さん(画像右上)当初はたったの8頭からスタートしたジャージー牛も今はこの通り(画像右下)「ゴーダチーズ」1177円/100g

300頭以上の牛を飼育する「十勝加藤牧場」。そのうち120頭が茶色い毛色のジャージー牛です。ホルスタインに比べ搾乳量は減るものの、その分脂肪分が高い濃厚な牛乳が採れるのがジャージーの特徴。

「30年前に父が『これからは量より質の時代』と、他に先駆けジャージー牛を飼い始めたのが原点です」と語るのは、その牛乳でチーズを作る加藤佳恵さん。現在は月1回、市の研修施設内の工房でゴーダチーズを仕込みます。

製造を始めて数年、「まだ試行錯誤中で、納得いかない味の時も多くて」と謙遜する加藤さん。ゴーダ1種に絞っているのも、チーズ製造の基本となる種類ゆえ。「でも私たちは、ジャージー牛の牛乳の美味しさを一番知っている。だからこそできるチーズがあるはずだと信じています」。来年には牧場の敷地内に工場を新設予定。加藤さんの夢は広がります。

(画像上)ジャージー牛を導入した父・加藤賢一さんと(画像下)“ゴールデンミルク”と称される美味しい牛乳

十勝加藤牧場

TEL.0155-60-2107
住所/北海道帯広市美栄町西8線130
SHOP/直売なし。帯広市内の「藤丸百貨店」などで販売

【東京でも4人のチーズが買えます!】SHOP|清澄白河「チーズのこえ」

今回紹介した4つの工房のチーズを東京で購入するなら、 日本で唯一の北海道産ナチュラルチーズ専門店「チーズの こえ」へ。チーズコンシェルジュが選んだ約35工房、年間 300種類以上のチーズを取り揃えています。

TEL.03-5875-8023
住所/東京都江東区平野1-7-7 第一近藤ビル1F
営業時間/11:00~19:00
定休日/不定休

【終了しました】2018年10月6日(土)開催! 北海道のチーズを味わうランチパーティ

イベント名
共創料理 with ロッツォシチリア
開催場所
ロッツォシチリア(東京都港区白金1-1-12 内野マンション 1F)
開催日程
2018年10月6日(土)
開催時間
11:30~14:30(予定)
料金
3000円(ウェルカムドリンク付き着席ランチ)
募集人数
25名(抽選)
メトロミニッツWEB「一流の料理人がいる名店案内」に加盟しているレストランと、日本各地の様々な生産者とのコラボレーションによる特別企画「共創料理」。その第1弾となる本イベントで腕を振るうのはシチリア料理の名店「ロッツォシチリア」の中村嘉倫シェフ。取材陣とともに北海道の生産者を訪ね、その高い品質に「日本のチーズの概念が変わった!」とも。イベントでは中村シェフが「しあわせチーズ工房」のチーズを使用して作る1日限りの特別メニューや、今回ご紹介した4生産者のチーズ食べ比べを、「しあわせチーズ工房」の本間幸雄さんのお話をお聞きしながら楽しめます。
メトロミニッツ「遠征レストラン」特集

メトロミニッツ2018年9月号「遠征レストラン」

デジタル雑誌
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後援:独立行政法人 農畜産業振興機構「国産チーズ競争力強化支援対策事業」

Photo 松園多聞 Text 唐澤理恵
※メトロミニッツ2018年9月号「遠征レストラン」特集の記事転載
※本ページで記載の価格は全て「チーズのこえ」の販売価格となります
※掲載店舗や商品などの情報は、取材時と変更になっている場合もございますので、ご了承ください

※記事は2019年6月4日(火)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります