親子を救ったジェントルマン。刀鑑定に秘めた思惑とは

更新日:2019/05/21

第46回 恋する歌舞伎は、六月歌舞伎座で上演予定の「梶原平三誉石切(かじわらへいぞうほまれのいしきり)・通称「石切梶原(いしきりかじわら)」に注目します!

日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう・・・なんて思ってない? そんな歌舞伎の世界に触れてもらうこの連載。古典ながら現代にも通じるストーリーということを伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。

恋する歌舞伎 第46回
「梶原平三誉石切(かじわらへいぞうほまれのいしきり)」

「梶原平三誉石切(かじわらへいぞうほまれのいしきり)」

【1】藁をもすがる思いでやってきた親子。手に持つ刀の価値に注目が集まる

ここは鎌倉鶴岡八幡宮の社前。平家の武将・梶原平三景時(かじわらへいぞうかげとき)、大庭景親(おおばかげちか)それぞれに付き添う大名たちが弓の稽古をしている。元々、景時は大庭兄弟と仲は良くなかったが、景時の勧めで盃を交わすことになった。とそこへ、刀を持った老人とその娘らしき女がやってくる。この親子は、青貝(螺鈿細工)師・六郎太夫と娘・梢(こずえ)。急に金が入り用になったために、家宝の刀を鑑定してもらい買い取ってもらいとやってきたのだ。大庭は、ちょうど刀の目利きとして名高い梶原景時がいると、景時に鑑定をしてくれないかと依頼する。早速景時が丁寧に刀を検めると、無銘ながら実に見事な刀であったので大庭に「是非買い求めて家宝にするべき」と勧めるのだった。

「梶原平三誉石切(かじわらへいぞうほまれのいしきり)」

【2】「人間二人も真っ二つ!」このセールストークが仇になる・・・

目利きの梶原がそこまでいうのならと、大庭は即購入することにする。六郎太夫が300両という値を提示したというので、早速用意をしようとすると、弟の俣野五郎が「斬れ味を確かめてからでないと買うべきではない」としゃしゃり出てくる。しまいには「もしやこの親子は偽物を掴ませて、大金をせしめるつもりなのでは」とあらぬ疑いをかける始末。
それを聞いた景時は、今ここで試し斬りをしてみて、刀の斬れ味を確かめようではないかと提案する。六郎太夫が、この刀は「人間を二つ重ねても切れる斬れ味」だというので、死罪の決まった囚人を二つ重ねて本当に切れるか確かめようというのだ。しかし獄屋の役人は死刑囚は一人しかいないという。それならば今日は試し斬りができないので、大庭は六郎太夫に刀を持ち帰れと命令する。

「梶原平三誉石切(かじわらへいぞうほまれのいしきり)」

【3】命を賭けてまで刀のすごさを証明したい、そのワケとは

六郎太夫はひどく落胆するが、急に思いついたように「刀の鑑定書を家におき忘れてきてしまった」と言い、娘に一人で取りに行かせる。
梢が立ち去るやいなや、六郎太夫は「自分を二つ胴の一人として使ってほしい」と言い出したのだ!大庭は躊躇なくその申し出を受け入れ、剣菱呑助(けんびしのみすけ)という罪人と、この老人を重ねて試し斬りをする手はずを整える。準備ができ、俣野が試し斬りをしようとするところへ「刀の目利きをした自分に断りなく試し斬りをするのは無礼だ」と景時が主張するので、刀を降り下ろす役目は景時が担当することになる。
そこへ、折り悪く梢が帰ってきてしまい、父が今にも斬られようとしているところを見て動転する。必死に大名たちにこの試し斬りを止めるよう懇願するが、足軽によって退けられ梢は気を失ってしまう。刀の斬れ味が本物であれば、このまま六郎太夫は罪人と一緒に斬られてしまうのだ!

「梶原平三誉石切(かじわらへいぞうほまれのいしきり)」

【4】親子の命も娘婿の行く末も救ったのには、理由があって・・・

固唾を?む中、景時が刀を降り下ろすと…なんと斬られたのは呑助だけ。六郎太夫は無傷であった。つまり二つの胴も真っ二つだという斬れ味の刀というのは嘘になる。大庭たちに所詮はこんなことだろうと思ったと、笑いながら帰っていくのだった。
残された六郎太夫は、300両が整わなければ生きている意味がないと自害をしようとする。実は梢の夫にどうしても金が必要で、それを用意するために刀を売ろうとしていたのだった。そこへ景時がやってきて「刀の斬れ味は本物であり、自分が300両で買うつもりだから安心しなさい」というのだ。訳を聞くと、刀の尺裏に源氏に縁のあるものの印である<八幡>という印を見つけ、景時は平家として見られている自分だが、実は源氏に心を寄せていることを明かす。
そして親子を手水鉢の傍に引き寄せ、水に映る二人の影を真っ二つに斬ってみせる。すると硬くて重い、石の手水鉢が二つに割れたのだ!先ほどの二つ胴では、六郎太夫の命を助けるためにわざと罪人だけを斬ったのだ。刀の斬れ味は今証明された。屋敷へと向かう梶原と、その後を笑顔で追う親子なのだった。

梶原平三誉石切(かじわらへいぞうほまれのいしきり)とは

享保十五(1730)年、人形浄瑠璃で大阪竹本座初演。長谷川千四・文耕堂合作。歌舞伎では同年八月大阪角の芝居で初演。歌舞伎では悪役として描かれることが多い梶原という男が、この演目では智勇優れた武将として登場する。クライマックスの手水鉢を真っ二つに斬るシーンは見た目にも派手で印象的。切り割ったあと、「剣も剣」「切り手も切り手」のセリフに続き「役者も役者」と客席から大向こうが掛かる事もある。

2019年 『歌舞伎座六月大歌舞伎』

監修・文/関亜弓
歌舞伎ライター・演者。大学在学中、学習院国劇部(歌舞伎研究会)にて実演をきっかけにライターをはじめ、現在はインタビューの聞き手や歌舞伎と他ジャンルとのクロスイベントなども行う。代表を務める「歌舞伎女子大学」では、現代演劇を通して歌舞伎の裾野を広げる活動をしている。

イラスト/カマタミワ

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※記事は2019年5月21日(火)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります