お酒好き2人の強力タッグ!両手を縛られても飲む方法とは!?

更新日:2020/08/06

日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう・・・なんて思ってない? そんな歌舞伎の世界に触れてもらうこの連載。古典ながら現代にも通じるストーリーということを伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。今回は、2020年8月開催の『八月花形歌舞伎』で上演の「棒しばり(ぼうしばり)」に注目します!

恋する歌舞伎 第61回
「棒しばり(ぼうしばり)」

「棒しばり(ぼうしばり)」

【1】酒好きの部下たちを野放しにできない。上司が考えた奥の手とは

大名・松兵衛(まつべえ)の下で働く太郎冠者(たろうかじゃ)と次郎冠者(じろうかじゃ)は、大のお酒好き。それをよく知っている松兵衛は、自分が留守の間に、家にある大事な酒を盗み飲みされないか気が気でない。そこで松兵衛はある作戦を思いつく。まずは太郎冠者を呼び出し、自分の留守中に次郎冠者が悪さをしないようにするための策はないかと持ちかける。すると得意げに「次郎冠者は最近“棒術”の稽古に励んでいるので、それを披露させ、棒に縛りつけてしまうのはどうか」と提案するのだった。それは妙案と、松兵衛は続いて次郎冠者を呼び出す。

「棒しばり(ぼうしばり)」

【2】巧みな心理作戦が功を奏し、これで一安心。のはずが・・・

なにも知らない次郎冠者は、主人から突然、棒術を披露するように促される。はじめは稽古をしていることを隠す次郎冠者だが、すでに知られているのなら仕方がない。と、その気になって棒を取りに行く。そのすきに2人は紐を用意し、手はずを整えるのだった。棒を使って次郎冠者は勇ましい棒術を披露するが、“夜の棒”という技に差し掛かったところで、共謀した松兵衛と太郎冠者によって棒に縛りつけられてしまう。したり顔の太郎冠者だったが、意外なことに松兵衛は、太郎冠者をも後ろ手にして縛り上げてしまう! もともと、2人ともに身動きを取れないようにする計画だったのだ。これで酒を飲まれる心配もないと、主人は意気揚々と出かけて行く。

「棒しばり(ぼうしばり)」

【3】飲みたい気持ちが原動力!こんな時こそ発揮されるパートナーシップ!?

取り残された2人は、自分たちが縛られたのは留守の間に酒を飲まれないための周到な計画だったとわかり、がっくりと肩を落とす。しかし落ち込むよりも、酒が飲みたいという気持ちが勝り、縛られたままで酒蔵に忍び込む。そして2人は自由がきかない手を緻密に動かし、酒を飲むことに成功する。フォーメーションを組み直しながら盃を交わし合う内に、良い具合に酔いが回ってくる太郎冠者と次郎冠者。2人はやがて、酒の肴に舞を舞うことにする。まずは太郎冠者が小舞を披露し、続いて次郎冠者は棒を使って踊り、やがて連れ舞(つれまい※)を始めるのだった。
※2人以上の人が同じ振り付けを一緒に舞うこと

「棒しばり(ぼうしばり)」

【4】まさかの事態に怒り心頭!酔っ払いには叱り声など聞こえない

宴が最高潮に達したとき、松兵衛が帰ってくる。「悪さができないように施したうえで家来たちに留守を任せたものの、やはりなにか胸騒ぎがする」と呟くが・・・。嫌な予感は的中。そこには上機嫌で酔った太郎冠者と次郎冠者がいるではないか。なんという醜態と叱りつけるがどこ吹く風。次郎冠者は縛られた棒を使って、主人を突く始末。誰にも手をつけられない2人は、千鳥足で逃げていくのだった。

「棒しばり(ぼうしばり)」とは

大正5年(1916)1月市村座初演。岡村柿紅作、五世杵屋巳太郎作曲。狂言の「棒縛」を題材にしている。初演時は六世尾上菊五郎を次郎冠者を、七世坂東三津五郎が太郎冠者を演じた。2人が考案した「両手が縛られた状態で踊る」振付が大当たりとなり、今日まで人気作品としてたびたび上演されている。

監修・文/関亜弓
歌舞伎ライター・演者。大学在学中、学習院国劇部(歌舞伎研究会)にて実演をきっかけにライターをはじめ、現在はインタビューの聞き手や歌舞伎と他ジャンルとのクロスイベントなども行う。代表を務める「歌舞伎女子大学」では、現代演劇を通して歌舞伎の裾野を広げる活動をしている。

イラスト/カマタミワ

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第二部では「棒しばり」を上演!幸四郎、猿之助、愛之助、勘九郎、七之助らが出演する『八月花形歌舞伎』

八月花形歌舞伎

歌舞伎座が『八月花形歌舞伎』で待望の再開をする! 公演は4部制で、親子の情愛を描いた「連獅子(れんじし)」、ユーモアあふれる「棒しばり」、桜咲き誇る奈良の吉野を舞台にした美しい舞踊劇「義経千本桜 吉野山」、切ない大人の恋物語「与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)源氏店」を上演。どれも、初心者にもわかりやすく、歌舞伎ならではの華やかさと楽しさを存分に体感できる。また、松本幸四郎、市川猿之助、片岡愛之助、中村勘九郎、中村七之助、市川中車など、若手歌舞伎役者が出演するのも嬉しい。1部につき1幕のみの上演で、時間も短く(休憩なしの約1時間)、リーズナブルなので気軽に足を運んでみて!

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※記事は2020年8月6日(木)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります