絶海にこだまする悲痛な叫び。永遠の孤独を選んだ男の心中は?

更新日:2018/08/09

第37回 恋する歌舞伎は、『平家女護島(へいけにょごのしま)俊寛(しゅんかん)』に注目します! 日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう・・・なんて思ってない? そんな歌舞伎の世界に触れてもらうこの連載。古典ながら現代にも通じるストーリーということを伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。

恋する歌舞伎:第37回『平家女護島(へいけにょごのしま)俊寛(しゅんかん)』

平家女護島 俊寛

【1】寂しい島でその日暮らしの男たち。そこへ久々の嬉しいニュース!

南海の孤島・鬼界ヶ島。この寂しい島で、その日その日をどうにか生き延びている3人の男がいた。3年前に都より島流しにされた、俊寛僧都(しゅんかんそうず)、丹波少将成経(たんばのしょうしょうなりつね)、平判官康頼(へいはんがんやすより)である。彼らは都で全盛をきわめる平家のリーダー・平清盛に謀反を企てた罪で、流人となったのだ。位もあり華やかな暮らしをしていた彼らが、今では硫黄を採り、漁師に魚と換えてもらい、海藻を拾って暮らしている。

しかし今日、久々に明るい知らせが。成経がこの土地の海女・千鳥と恋仲になり、結婚の約束をしたので祝杯をあげたいというのだ。年長の俊寛が音頭をとり、鮑の貝殻を盃に、山の清水を酒に見立ててのささやかな宴がはじまる。俊寛はこの慶事に「娘ができたようだ」と喜び、これからは四人で家族のように暮らそうと約束するのだった。

平家女護島 俊寛

【2】都からの迎えの船は希望の光か、それとも・・・!?

そこへ、都から大きな船がやってくる。なんでも清盛の娘・徳子が懐妊したので、その安産祈願の為に大赦(※)が行われたという。

船から降りてきた上使・瀬尾(せのお)は、喜ぶ皆の前で赦免状を読み上げる。しかし悲しいことに、帰還が赦されたのは成経と康頼だけで、俊寛の名前はなかった。清盛は俊寛を謀反の首謀者と見なしており、絶対に帰してはならぬと厳命されていたのだ。同じ罪、同じ場所に配流されたのに、自分だけ許されないことに納得できない俊寛。何度も書面を確認するが、やはり見当たらない。そんな中、船から姿を見せたのはもう一人の上使・丹左衛門(たんざえもん)という男。彼の計らいで、俊寛も赦免となり船に乗れることになった。

※皇室の慶事に際し、有罪の者に対してその刑を消滅、軽減させること

平家女護島 俊寛

【3】無慈悲に引き裂かれてしまう、つい先ほど生まれた擬似家族の絆

3人の男たちと、先ほど成経の妻となった千鳥は喜んで乗船しようとするが、千鳥だけ遮られてしまう。俊寛たちは事情を話すが、瀬尾は聞く耳を持たない。そこで成経は、千鳥と共に島に残るといい出す。また俊寛も康頼も「四人揃って船に乗ることができないのなら島に残る」という。その様子を見た丹左衛門は、瀬尾に男たちの申し出を聞くよう取りなす。しかしその願いを拒絶した上に「俊寛の妻は清盛に従わなかったため処刑された」と酷い事実を暴露する・・・。そして3人は瀬尾によって、船へと無理やり押し込められるのだった。

一人浜に残された千鳥は嘆き悲しみ「鬼界ヶ島に鬼はなく、都にこそ鬼が住んでいる」と言い、もう生きていても希望はないと岩に自分の頭を打ち付けて死のうとする!

平家女護島 俊寛

【4】未来を悲観し、若い夫婦に希望を託した男。これから長い長い孤独の日々が始まる

千鳥の哀しむ様子をみて、いてもたってもいられなくなった俊寛は「自分は清盛に憎まれた上に、妻までも殺され都へ戻る意味がなくなった」と語る。そして瀬尾に、自分が島に残る代わりに千鳥を船に乗せて欲しいと懇願するのだが、取り合ってもらえない。そこで覚悟を決めた俊寛は、瀬尾の刀を奪ったかと思うと、突如斬りつけたのだ! そして丹左衛門に「上使を斬った罪で島に残るので、 どうか千鳥を乗船させて欲しい」と頼む。その心情を察し、千鳥の乗船を許す丹左衛門。俊寛は抗う千鳥を無理やり船へ乗せるのだった。

やがて船をつなぎとめていた綱が解かれ、いよいよ別れの時となる。今までは仲間と共に励まし合い、この寂しい島での生活を乗り越えてきた。しかしこれからは真の孤独が待っているのだ。島に一人で残ると決意したものの、完全に思い切ることはできない。海の彼方に遠のいていく船を、その姿が消えても尚、見送り続けるのだった。

『平家女護島(へいけにょごのしま)俊寛(しゅんかん)』とは

近松門左衛門作。享保四(1719)八月大阪竹本座初演。翌年一月大阪中の芝居にて歌舞伎初演。「平家物語」を基にした能を浄瑠璃にした全五段中の二段目にあたる。鎌倉時代に成立した『平家物語』、室町時代に作られた能の『俊寛』、そして江戸時代の近松の本作『平家女護島』の三作とも俊寛が島に取り残される設定だが、自ら島に残ることを選ぶのが浄瑠璃(近松)の俊寛である。

監修・文/関亜弓
歌舞伎ライター・演者。大学在学中、学習院国劇部(歌舞伎研究会)にて実演をきっかけにライターをはじめ、現在はインタビューの聞き手や歌舞伎と他ジャンルとのクロスイベントなども行う。代表を務める「歌舞伎女子大学」では、現代演劇を通して歌舞伎の裾野を広げる活動をしている。

イラスト/カマタミワ

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※記事は2018年8月9日(木)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります