「仮名手本忠臣蔵」を現代にも通じるラブストーリーでお届け!“忠義な青年の後悔と懺悔・・・。”

更新日:2017/11/15

第28回 恋する歌舞伎は、「仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)」の五段目・六段目に注目します! 日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう・・・なんて思ってない? 実は歌舞伎はドキドキするような恋愛要素も豊富。そんな歌舞伎の世界に触れてもらうこの連載。古典ながら現代にも通じるラブストーリーということを伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。

恋する歌舞伎:第28回「仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)」の五段目・六段目

【1】過去の失敗のせいで今は田舎暮らし。狩の最中に事件は起こる

塩谷判官(えんやはんがん)の家来、早野勘平(かんぺい)には、腰元のお軽(かる)という恋人がいる。勘平は厚い忠義心をもった男だが、主人が殿中で高師直を斬りつけるという一大事が起きた日に限って、お軽と逢い引をしていた。勘平はその身を恥じて自害をしようとするが、お軽に「今ここで死んでも誰のためにもならない」と説得され、ひとまずお軽の故郷に身を寄せることにする。

そうしてお軽の実家で、猟師として生計を立てている勘平。今日も火縄銃を手に狩にいそしんでいるが、猪か何かを仕留めた手応えがあったため、暗闇の中、獲物に近づいていき手探りで様子を確かめる。すると猪と思いきや、触れてみると人間の感触が・・・。名も知らぬ人を殺めてしまったと焦った勘平は、何か助けるための薬はないかと慌てて何者かの懐を探るが、意外なことに薬ではなく五十両という金を見つけてしまう。ここで勘平の武士の血が騒ぐのだった。

【2】思わぬところで大金ゲット!その傍らで家族は大変な状況に

勘平はつい先ほど、昔の仲間である千崎弥五郎(せんざきやごろう)に偶然出会い、亡き主君の無念を晴らすための仇討ちの計画があることを知らされる。また仇討ちの一味に加わるためには金が必要だということも告げられたばかりだったのだ。

今、見知らぬ人の懐から見つけたこの大金さえあれば、主人の敵討ちに参加することができる。そう思った勘平は、罪悪感は残るものの金を持ち帰り、早速、千崎の元へ金を届けにいったのだった。晴れやかな気分で家に帰った勘平だが、何か空気がおかしいことに気がつく。奥にいたのは祇園の廓の女主人。話を聞くと、「約束通りお軽を迎えに来た」という。実はお軽の父・与市兵衛は、義理の息子が武士に戻るためのお金を、何とか工面したいと常から考えていた。しかし家は貧しいので、娘・お軽を祇園町に売って金をつくることにしたのだ。

【3】猪と間違えて撃ったのは、お義父さんだった!徐々に歯車が狂い出す

しかし義母・おかやの話によると、与市兵衛は娘を売った半金を受け取りに、昨日出かけたが、未だ帰ってこないないという。更には女主人が与市兵衛に渡したという財布の柄が、昨日奪ったものと寸分違わない。勘平は次第に嫌な予感がしてくる。自分が誤って撃ったのは大金を懐に入れた舅なのではないだろうか。落ちぶれた自分を応援してくれていた、大事な人を殺してしまったなんて。

勘平が煩悶する中、お軽との別れの刻限も迫ってくる。結局、労いの言葉も十分にかけてやることができずに、お軽は駕籠に乗せられ祇園町へと売られていく。これが今生の別れとなることは知らずに・・・。と、そこへやって来たのは猟師仲間たち。運んで来たのは義父・与市兵衛の死骸だった! おかやは、夫も娘も同時に失ったことを嘆き悲しむが、勘平が与市兵衛の死体に驚かない様子や、縞柄の財布をみて、義母は勘平が夫を殺したのではないかと疑念を抱く。勘平に問いただすも答えないので、おかやは激しく責め立てる。

【4】色に耽ったばっかりに・・・すべては自分が蒔いた種。臨終間際に見えた真実とは

そこへ折悪く、千崎らが勘平を訪ねてやってくる。昨夜、勘平から受け取った金を討入のリーダーである大星由良助(おおぼしゆらのすけ)に渡したが、「不忠の勘平からの金は受け取れない」と差し戻されたので、金を返しにきたという。これを聞いたおかやは「この人は舅を殺してその金を手に入れたんです!」と訴えるので、一同は益々勘平を非難する。打ちひしがれた勘平は、昨日起こった一連の出来事を語り、舅を殺した自責の念と、徒党に加われない身を嘆き、その場で腹を切る。動揺が起きる中、千崎が与市兵衛の死骸を確認すると、致命傷は鉄砲に撃たれたからではなく、刀傷であることを指摘する。

実はあの狩の一件にはカラクリがあった。元々、与市兵衛は定九郎という山賊に金を奪われ、既に殺されていたのだった。その舅殺しの定九郎を勘平は銃で撃ったのであり、つまりは舅の敵を打っていたことになる。真実がわかり、疑いが晴れたので勘平は徒党の連判状に名を連ねることとなり、瀕死の状態で血判を残す。こうして、亡き主人の仇討に魂だけでも加わることができると、勘平は安堵しながら息を引き取るのだった。

「仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)」の五段目・六段目とは

寛延元年(1748)8月・大阪竹本座で人形浄瑠璃初演。二世竹田出雲、三好松洛、並木川柳による合作。同年12月大阪嵐座で歌舞伎初演。元禄14年、江戸城で浅野内匠頭が吉良上野介に刃傷におよび、内匠頭は即日切腹。翌15年12月、大石蔵助率いる赤穂浪士が、主君の無念を晴らすべく、吉良邸に討ち入った事件を下敷きに作られた。江戸時代、上演されれば大入りとなることから「芝居の独参湯(万能の妙薬)」と呼ばれ、中でも五・六段目は現在も上演頻度の高い場面として知られる。

監修・文/関亜弓
歌舞伎ライター・演者。大学在学中、学習院国劇部(歌舞伎研究会)にて実演をきっかけにライターをはじめ、現在はインタビューの聞き手や歌舞伎と他ジャンルとのクロスイベントなども行う。代表を務める「歌舞伎女子大学」では、現代演劇を通して歌舞伎の裾野を広げる活動をしている。

イラスト/カマタミワ

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※記事は2017年11月15日(水)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります