「アルプスの少女ハイジ」や「平成狸合戦ぽんぽこ」など、数々の名作アニメーションを世に出した高畑勲監督。その業績を振り返る初めての回顧展「高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの」が、2019年7月2日(火)から10月6日(日)まで、竹橋の東京国立近代美術館で開催中。会場では、これまで未発表だった制作ノートや絵コンテといった貴重な資料も公開。高畑監督の仕事を通して、魅力的な作品世界を堪能しよう。
「アルプスの少女ハイジ」セル付き背景画 (C)ZUIYO 「アルプスの少女ハイジ」公式ホームページhttp://www.heidi.ne.jp/
初公開の制作ノートなど貴重な資料で演出術の秘密に迫る
高畑監督といえば、誰もが知っている「アルプスの少女ハイジ」(1974年)を生み出し、その後も「母をたずねて三千里」(1976年)、「赤毛のアン」(1979年)などの演出を手がけたアニメーション映画監督。それまで冒険ファンタジーが主流だったアニメーションの世界に、日常生活を丹念に描写して人間ドラマを描き出すという、新たな表現方法を開拓したパイオニアとしての評価も高い。
80年代になると、「じゃりン子チエ」(1981年)や「火垂るの墓」(1988年)など、日本の風土やリアルな生活を描きながら、戦争の歴史を改めて考えさせるようなスケール感のある作品を制作している。今、私たちがあたりまえに見ているアニメーションも高畑監督の手法があったからこそ、だと思うと、その影響がいかに大きなものだったかが分かるはず。
展覧会では、絵を描かない監督がどうやって歴史に残るアニメーションを作ったのか、クリエイターたちとの交流や制作過程を通して明らかにしてゆく。展示の中には、今回初公開となる制作ノートや絵コンテなどの貴重な資料もあり、アニメ好きにはたまらない展覧会となりそう。
アニメーション映画への情熱の出発点と新しい表現について
展覧会は4章で構成されている。第1章は「出発点ーアニメーション映画への情熱」として、アニメーションの演出家を目指した高畑監督の出発点を振り返る。1959年に東映動画(現・東映アニメーション)に入社後、演出助手として関わった「安寿と厨子王丸」(1961年)では、新発見となる絵コンテをもとに、若き高畑青年が創造したシーンを分析する。その後も、新人離れした技術とセンスを発揮して、画期的な手法で数々の作品を制作。この章では、なぜこれらの作品が画期的だったのかを、明らかにする。
第2章「日常生活のよろこびーアニメーションの新たな表現領域を開拓」では、「アルプスの少女ハイジ」、「母をたずねて三千里」、「赤毛のアン」という一連のテレビの名作シリーズで新境地を切り開く過程を追う。毎週1話を完成させるという時間の制約のなかでも、工夫を凝らした表現で日常生活を丹念に描写して、リアルな人間ドラマを作り出した高畑監督の演出の秘密に迫る。
日本に特化した作品群と伝統の視覚文化を掘り起こした成果
第3章で取り上げるのは「日本文化への眼差しー過去と現在との対話」。「じゃりン子チエ」以降は日本を舞台とした作品に特化して、日本の風土や庶民のリアリティーあふれる生活の様子をいきいきと表現するようになる。1985年に設立に参画したスタジオジブリでは、「火垂るの墓」や「おもひでぽろぽろ」(1991年)、「平成狸合戦ぽんぽこ」(1994年)など、日本の現代史に注目した作品を制作。日本人の戦争にまつわる体験を、現代に続くものとして語りなおした話法などに注目する。
第4章では「スケッチの躍動ー新たなアニメーションへの挑戦」として、新しい表現スタイルを模索し続けた姿を追う。例えば、90年代に絵巻物研究に没頭して日本の視覚文化の伝統を掘り起こした成果は、「ホーホケキョ となりの山田くん」(1999年)とアカデミー長編アニメ映画賞への本選にノミネートされた「かぐや姫の物語」(2013年)で実を結ぶ。デジタル技術を使って手描きの線を生かし水彩画風に描いた表現は、従来のセル画にはないもの。詩・美術・音楽・映画などあらゆるジャンルに通じた、博学で趣味の広い高畑監督ならではの成果と言えそう。
懐かしい作品の魅力を再認識!ジャンルを超えた情熱も紹介
展覧会の中では、高畑監督の「演出」というポイントに注目して、多面的な作品世界の秘密をひも解く。
会場の音声ガイドナレーターには、連続テレビ小説「なつぞら」に坂場一久役で出演中の俳優・中川大志さんが決定。高畑監督と時代をともにした仲間たちのインタビューも交えて、案内をする。
また、フランスの詩人、ジャック・プレヴェールの詩を高畑監督が翻訳し、画家の奈良美智が絵をつけた詩画集『鳥への挨拶』(ピア、2006年)から誕生した、奈良美智のオリジナルドローイング作品全75点のうちの24点も出品される。高畑監督の、ジャンルを超えた情熱が、この展示でも垣間見られる。
日本でアニメーションを見て育った人なら、きっと知っている名作の数々。その作品たちを生み出した高畑監督が、日本のアニメーションに何を遺したのか? 懐かしい作品との再会を果たしながら、作品世界の魅力を再認識しよう。
レストラン「ラー・エ・ミクニ」には特別メニューも登場
東京国立近代美術館の本館2階にあるフレンチとイタリアンが融合したレストラン「ラー・エ・ミクニ」では、展覧会の開催期間中に特別ランチメニュー「かぐや姫のお昼御膳」(5940円)を提供する。写真はこちらの特別メニューのデザートで、「桃のコンポートと桃のシャーベット、パイ生地のキャラメリゼ」などが美しいプレートに並ぶ。
期間中にこのメニューを予約すると、ワンドリンクサービス(乾杯用スパークリングまたはソフトドリンク)や、窓際最優先の案内(1日5席まで)などのサービスもあるそう。展覧会と一緒に、かぐや姫気分でランチの御膳を楽しんで。
ここだけで買える名作アニメのオリジナルグッズもいろいろ
ミュージアムショップで販売される展覧会オリジナルグッズは、「パンダコパンダ」「アルプスの少女ハイジ」「赤毛のアン」「平成狸合戦ぽんぽこ」「かぐや姫の物語」など、懐かしのアニメーションから最近の作品までさまざま。
それぞれに、「ポストカード」(各216円)、「A4クリアファイル」(各432円)、「A6ノート」(各432円)、「しおり」(各216円)、「ブックカバー」(各540円)、「手ぬぐい」(1836円)、「ネックレス」(4104円)などがある。
この展覧会でしか手に入らないオリジナルグッズを、好きな作品の思い出とともにゲットしよう。
イベントDATA
- イベント名
- 高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの
- 開催場所
- 東京国立近代美術館 1F 企画展ギャラリー
- 会期
- 2019/7/2(火)~10/6(日)
- 開館時間
- 10:00~17:00 (金曜・土曜は10:00~21:00 )
※入館は閉館30分前まで
- 休館日
- 月曜(7/15、8/12、9/16、9/23は開館)、7/16(火)、 8/13(火)、9/17(火)、9/24(火)
- 入館料
- 一般 1500(1300)円、大学生 1100(900)円、高校生 600(400)円、中学生以下無料
- 電話番号
- 03-5777-8600 ハローダイヤル
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