生誕110年 東山魁夷展@国立新美術館《道》+《緑響く》PC
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六本木の国立新美術館で「生誕110年 東山魁夷展」開催。貴重な障壁画の再現展示も

更新日:2018/11/05

2018年10月24日(水)から12月3日(月)まで、六本木の国立新美術館では「生誕110年 東山魁夷展」を開催。情感あふれる美しい風景画で国民的画家と呼ばれた東山魁夷の、代表作を網羅した約70件を展示する。また、東山芸術の集大成である、奈良・唐招提寺の壮大な障壁画も会場に再現。20世紀とともに生きた画家の創作の全貌を、心ゆくまで味わって。

左/《道》1950年 東山魁夷 東京国立近代美術館蔵 右/《緑響く》1982年 東山魁夷 長野県信濃美術館 東山魁夷館蔵

生誕110年 東山魁夷展@国立新美術館《残照》
《残照》1947年 東山魁夷 東京国立近代美術館蔵

「国民的風景画家」への出発点は、心が重なった自然の光景

1947年(昭和22年)に日展で特選を受賞した《残照》は、後に「国民的風景画家」と呼ばれた東山魁夷の、1つの出発点となった作品。この作品を発表する直前、東山は戦争によって肉親を失うなどして、人生のどん底にいたという。そんな中、写生のために山頂に座って夕陽が山の峰をさまざまな色に染め上げながら沈む姿を見つめていた画家は、自然の作り出す美しい光景と自分の心が重なり合う充実感を味わう。

それ以降、素直な目と心で自然を見つめ、その生命の輝きに自分の心を重ねた風景画を描くようになったそう。東山の風景画の大きな特色は、分かりやすい構図と明るく澄んだ色彩。その作品は、日本の風景に親しんだ私たちにとって、素直に心になじむ美しさを持っている。

生誕110年 東山魁夷展@国立新美術館《花明り》+《冬華》
左/《冬華》1964年 東山魁夷 東京国立近代美術館蔵 右/《花明り》1968年 東山魁夷 株式会社大和証券グループ本社蔵

北欧や古都・京都など、連作によって新しい魅力が開花

展覧会では、代表作である《残照》や《道》《緑響く》のほかに、ヨーロッパや京都の面影を描いた風景画なども展示する。

1962年(昭和37年)、東山は西洋美術の中でも精神的で静かな文化に親近感を覚えていた、北欧の旅へ。行ってみると北欧の風景は想像通りで、帰国後に発表した連作は幻想的で清澄な画面が高評価を得る。作品に青い色が多用されたこともあり、ここから「青の画家」のイメージも生まれたそう。

また、1968年(昭和43年)には皇室から新宮殿の大壁画制作を依頼され、日本的な図柄を求めて古都・京都の街を描くことにも着手。同年に「京洛四季」展で連作が発表され、大壁画とともに、北欧シリーズとは異なる“日本回帰”の作風が新たな魅力として加わることに。

生誕110年 東山魁夷展@国立新美術館《濤声》(部分)
唐招提寺御影堂障壁画のうち、《濤声》(部分)1975年 東山魁夷 唐招提寺蔵

唐招提寺御影堂の障壁画を再現展示!東山芸術を間近で体感

1971年(昭和46年)、奈良の唐招提寺から障壁画の制作と内部装飾の依頼を受けた東山は、考え抜いた末に正式に話を受ける。

障壁画は、鑑真和上の像を安置する御影堂のもの。8世紀に、5度の渡航に失敗して失明しながらも、6度目にやっと来日を果たした高僧・鑑真を想い、彼が見たかったであろう日本の風景や故郷・揚州など中国の風景を描いている。制作にあたっては、改めて日本中を取材して周り、鑑真の故郷である中国にも訪問。構想から実に10年の歳月をかけて完成し、1981年(昭和56年)にすべてを奉納した。

今回は、この障壁画(襖絵と床の壁面:全68面)を会場に再現して展示する。御影堂は、修理のために今後数年間は現地でも見られないそうで、その内部をほぼそのままに間近でみられるのは貴重なチャンス。LED照明に浮かび上がる東山芸術を、奈良の御影堂に行った気分で堪能できる。

生誕110年 東山魁夷展@国立新美術館《行く秋》
《行く秋》1990年 東山魁夷 長野県信濃美術館 東山魁夷館蔵

描くことは祈ること。心を写す美しい風景画を堪能して

障壁画制作の構想を練る中で、1972年(昭和47年)にだけ画面上を駆ける白馬が現れたそうだけど、その後行方不明に。代表作の1つである《緑響く》は、そのことを残念に思って10年後に再制作されたものとか。後に東山は、あの白馬は「祈り」であったと語っている。

描くことは「祈り」であり、そこにどれだけ心をこめられたかが問われると気付いた東山は、70歳を超えて以前のように写生旅行へ出かけるのが難しくなっても、これまでのスケッチなどを元に制作を続けた。

そうして生み出された作品たちは日本でも外国でもなく、心の中に形作られた風景画となって輝きを増す。東山魁夷の作品が、今も日本だけでなく世界の人々を感動を呼び続けているのは、祈りの心に支えられているからかも。美しい祈りに満ちた風景画を、この機会に堪能してみては。

生誕110年 東山魁夷展@国立新美術館 ポスター画像

イベントDATA

イベント名
生誕110年 東山魁夷展
開催場所
国立新美術館 企画展示室2E 
会期
2018/10/24(水)~12/3(月)
開館時間
10:00~18:00
※毎週金・土は ~20:00
※入場は閉館の30分前まで
休館日
毎週火曜
観覧料
一般1600円、大学生1200円、高校生800円、中学生以下は入場無料
関連イベント
講演会「窓と帽子―東山魁夷の芸術を読み解く」
日時:2018/11/10(土)13:00~14:30(12:30開場)
講師:野地耕一郎(泉屋博古館 分館長)
定員:260名(先着順、申込不要)
聴講:無料(本展または「改組 新 第5回 日展」の観覧券(半券可)の提示が必要)
ホームページ
生誕110年 東山魁夷展 HP

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※記事は2018年11月5日(月)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります