風景画の第一人者ターナーの新しい表現を擁護した先見性
丸の内の三菱一号館美術館では、2019年3月14日(木)から6月9日(日)まで「ラスキン生誕200年記念 ラファエル前派の軌跡展」を開催する。美術批評家ジョン・ラスキンが自ら見い出し、当時のアート・シーンで開花した芸術家たちの傑作が、英米の美術館から集結。油彩画、水彩画、素描、ステンドグラス、タペストリ、家具など約150点が展示される。
美術批評家のラスキンを語る上でまず知っておきたいのは、当時すでに風景画家の第一人者だったJ.M.W.ターナーとの交流。1843年、当時24才のラスキンは著作集『現代画家論』第1巻を発表して一躍有名に。本の中では、ターナーがそれまでの画風とは違う荒々しい描き方を始めたことで非難されていたのを、擁護している。
実際に独自の新しい表現は、その後のフランス印象派にも影響を与えたというから、ターナーの先進性とラスキンの先見性は時代の先を行っていたのかもしれない。
中世の美術に回帰しようとするラファエル前派も力強く評価
7名の画学生によって、1848年に結成された前衛芸術家集団「ラファエル前派同盟」。活動の中心となったダンテ・ゲイブリエル・ロセッティやジョン・エヴァレット・ミレイは、イギリスの美術史に大きな功績を残している。
ラファエロ以降の型通りの様式を重んじる絵画表現が主流だった当時の英国で、それ以前の中世の美術のように分かりやすく誠実な表現を取り戻そうとしたのが、「ラファエル前派」の考え方。
当初は、その革新性が悪意のある批評にさらされたけれど、ラスキンは彼らの試みを高く評価し、1851年には日刊高級紙「タイムズ」で力強い擁護を行っている。その後、ロセッティやミレイとの交流も始まり、ラファエル前派は人々にも受け入れられてゆくことに。
ラファエル前派やラスキンとの出会いで生まれた異色の画家
ラファエル前派同盟によって、人生を大きく変えてしまったのが、エドワード・バーン=ジョーンズ。オックスフォード大学で聖職をめざしていたが、彼らの作品に感銘を受け、ラスキンの芸術論や建築論に心酔するあまり、1855年には大学を去り芸術の道へ進んだという。
ラファエル前派のロセッティに弟子入りし、その2年後には親友のウィリアム・モリスらとともに、オックスフォード大学の学生会館に壁画を描くまでに。敬愛するラスキンからのアドバイスでイタリアへ赴き、ルネサンス期の巨匠の絵画に学んだり、素描に励んだりと、研さんを積む。
やがて、1877年に最先端の美術を紹介するグロヴナー・ギャラリーが開かれると、19世紀末の英国で最も賞賛される画家となる。ラファエル前派同盟とラスキンに出会ったことで、バーン=ジョーンズの人生は大きく花開いた。
モダンデザインの父、モリスの活動もラスキンの思想から
大学で出会って以来、生涯の友となったエドワード・バーン=ジョーンズとウィリアム・モリスは、共同で多くの作品を手がけている。モリスもラスキンの本を愛読して大きな影響を受け、聖職をあきらめ画家・デザイナーの道へ。
1858年には、24才で初の詩集を発表。その後も物語詩などで詩人としての評価を得る一方で、1861年には家具やステンドグラス、壁紙、織物など、あらゆる装飾芸術を扱う「モリス・マーシャル・フォークナー商会」を立ち上げる(会社は、その後「モリス商会」に改組)。モリスの活動が先駆けとなった、生活と芸術を一致させようとする「アーツ・アンド・クラフツ運動」の起源は、ラスキンの思想にあったという。
今回の展覧会では、ラスキンが見い出した芸術家たちの作品を楽しむと同時に、全ての人を芸術に近づけた彼の確かなまなざしにも注目したい。
イベントDATA
- イベント名
- ラスキン生誕200年記念 ラファエル前派の軌跡展
- 開催場所
- 三菱一号館美術館
- 会期
- 2019/3/14(木)〜6/9(日)
- 開館時間
- 10:00〜18:00
※祝日を除く金曜、第2水曜、6/3(月)~7(金)は21:00まで
※入館は閉館の30分前まで
- 休館日
- 月曜(ただし、4/29、5/6、6/3と、トークフリーデーの3/25、5/27は開館)
- 入館料
- 一般 1700円、高校・大学生 1000円、小・中学生 無料
※前売券は一般のみ1500円
「アフター5女子割」
第2水曜の17:00以降は、当日券一般(女性のみ)1000円
※他の割引との併用不可
- ホームページ
- ラファエル前派の軌跡展 特設サイト
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