園芸店と公園をめぐる グリーン&ピースフルな練馬の休日/東京都練馬区

園芸店と公園をめぐる グリーン&ピースフルな練馬の休日/東京都練馬区

緑あふれる練馬区は私たちの巨大なガーデンである。この地に生まれ育った作家、ワクサカソウヘイさんが自説を唱えながらグリーンの茂みに分け入る、ごきげんな練馬の休日。

更新日:2024/04/20

練馬とはつまり、 私たちのガーデンである

「おめでとうございます! 東京都に住んでいるあなたは、すでに大きな庭を所有しています!」

もしそんなことを唐突に言われたら、きっと誰もが眉をひそめることだろう。そして詐欺の可能性を強く疑うことだろう。
ところが、この祝いの文句は、まったくもって間違ったことを言っていない。あなたが東京住まいの人だったら、巨大な庭をもう既得しているようなものなのである。

どういうことか。
その庭とは、練馬区のことだ。暖かい季節ともなればその風景の中で花や緑や蝶たちがとめどなく主張を繰り返す、練馬区のことである。
私は生粋の練馬っ子だ。練馬区に生まれ、練馬区で育ち、いまもなお練馬区に住居を構えている。数十年もこの地で呼吸を続けているうちに、ようやく気がついた。ここは、「ガーデン」としての性質を強く持っている地なのだ、と。

ちょっと歩けば、いつでも草の匂いが濃い『城北中央公園』や『光が丘公園』が現れる。『バードサンクチュアリ』で望遠鏡を覗き込めば、カワセミやアオサギ、運がよければオオタカに臨めたりもする。元よりここは二十三区内において最大の農地面積を有するエリア、公園を訪れなくても、グリーンの気配は路の途中のあちらこちらに溢れている。ツツジ畑が現れたかと思ったら、モンシロチョウの舞うキャベツの連なりがあり、無数に点在する貸し農園では菜の花や玉ねぎたちが収穫の時をいまかいまかと待っていて。ああ、どこを切り取っても、ここはガーデン。

東京メトロの副都心線や有楽町線を使えば、池袋駅から十分ほどで練馬区の氷川台駅や平和台駅にアクセスできて、そしてそこに広がるのは、ビルだらけの街とは打って変わって大きな空。都会のすぐ傍らに位置しているこの感じが、また裏庭としての存在価値を高めている。そういえば、豊島園駅近くにある天然温泉浴場の名前は『庭の湯』であったりもする。そうか、練馬区は自分が気づくよりもずっと前から、庭としての自覚を持っていたのか。

私が現在住んでいる集合住宅、そこには庭などあるはずもなく、狭いベランダが備え付けられているばかりである。でも、なにも困らない。玄関から飛び出せば、そこはもう広大な庭園なのだ。

グリーンカレーを食べ、としまえんの在りし日を思う

練馬区のガーデンとしての景色をより強く実感したいのであれば、なによりも園芸センター巡りを強く勧めたい。このエリアには、近所に愛される小規模店舗から、区外にも名を響かせる有名店舗まで、多種多様な園芸センターが存在しているのだ。そこで植物たちの姿を気の済むまで眺めれば、ますます庭散策の味わいは高まってくる。気に入った鉢を持ち帰り、ベランダに置いてみれば、自宅とガーデンの距離はさらに縮まる。暮らしが緑化する。

私が愛してやまない地元の園芸センターといえば、まず氷川台にある『内田園芸』。この店舗の敷地内にある、体温が宿っているような手作り感のある温室、そこへと足を踏み入れると、必ず予期せぬ植物との出会いがある。多肉植物、食虫植物、花を咲かせたバナナ、枝からこぼれ落ちそうなレモン。春夏秋冬、その時々でそこにある植物群の顔ぶれは変化し、だから今日はどれを購入しようかと、訪れるたびに心が色めく。私はここの温室を「自分の庭の一角に設けた自慢のゾーン」だと勝手に認識して、気の向くままに四季折々の風景を目に映している。

近所には『バンハオ』という人気のタイ料理屋があり、『内田園芸』の帰りにバジルやパクチーたっぷりのそこのランチを楽しめば、気分はもはや裏庭でのピクニックだ。もうひとつ、私が勝手に自慢のゾーンとしているのは、練馬駅の近くにある『渋谷園芸』。二階建ての店舗の中には、まるで植物園のごとき密度で緑たちが生い茂る。屋外には花
や野菜が敷地を埋め尽くすようにして陳列され、エレベーターの中にすら観葉植物たちを立ち並べるなど、一切の隙を見せることをしない。四捨五入すればここはもうジャングルである。

こうした園芸センターを訪れるたび、ああ、なんと私の庭は豊かなのか、と悦に浸る。すぐ近くに緑がある暮らしとは、実に贅沢なものである。
いや、練馬区は、私だけの庭ではない。あなたがここをガーデンだと思える気概さえ持っていれば、それはもう、そういうことだ。そういうことでしかない。

だから、もう一度だけ言いたい。おめでとうございます、あなたはすでに、大きな庭を所有しています。

内田園芸

珍奇植物の品揃えも抜群!
練馬きっての名園芸店

大きな温室内は百花繚乱、まさに練馬の“秘密の花園”。多肉植物や珍奇植物の品揃えも豊富で、しかも都心で買うよりもかなりお求めやすいお値段。店主の内田桂司〈けいじ〉さん(写真右下の左)と、1964年の東京五輪の聖火台を飾ったこともあるという、練馬特産の菊花談義に花が咲く筆者。

内田園芸

うちだえんげい
TEL.03-3933-6368
住所/東京都練馬区平和台1-23-5
営業時間/9:00~17:00
定休日/月曜(祝日の場合は営業)

banhao

タイ国政府のお墨付き!
地元民に人気のタイ料理店

タイ国政府の認定を受けている名店、バンハオ。その味は地元の練馬区民から「奇跡」と称えられる。グリーンカレーのご飯セット1100円、空芯菜の炒め物990円、タイの屋台ラーメン1100円(パクチー増し)、春雨と挽肉のスープ1045円、ココナッツ風味のもち菓子550円とテーブルの上に緑が並ぶ。

banhao

バンハオ
TEL.03-6915-7752
住所/東京都練馬区平和台3-6-14 1F 
営業時間/ランチ11:30~14:30(14:00LO) ディナー17:00~21:30(21:00LO)
定休日/水曜

光が丘公園

メトロミニッツ、練馬区、グリーン、光が丘公園、ワクサカソウヘイ

緑に癒される憩いの公園
バードサンクチュアリも!

芝生が広がる広場。木々が折り重なる森。鳥たちが集まる池。大きな空。光が丘公園はまさしく私たちの「庭」だ。バードサンクチュアリは都会の野鳥の楽園。望遠鏡を覗けば大きな池に集まるカモやカワセミの姿が。鳥を愛する者同士が語り合い、情報交換をする観察舎も併設されており、人間にとっても憩いの場。

光が丘公園

ひかりがおかこうえん
TEL.03-3977-7638(光が丘公園サービスセンター)
住所/東京都練馬区光が丘4-1-1   
開園時間/常時開園 ※バードサンクチュアリは土・日・祝の9:00~16:30(年末年始除く)
料金/入園無料

としまえん思い出コーナー

としまえん思い出コーナー、メトロミニッツ、練馬区、グリーン、豊島園、ワクサカソウヘイ

練馬の民の心に
生き続ける永遠の園

練馬の散歩中に訪れた、かつての「としまえん」跡地。現在は大人気ファンタジー作品の体験施設が目当ての若者たちが行き交う、その一角にあるメモリアルコーナーには、当時の入場門で活躍していた案内看板が。まだこの看板だけは「としまえん」が閉園したことに気づいていない感じがあって、グッとくる。

としまえん思い出コーナー

としまえんおもいでコーナー
住所/東京都練馬区向山3-25

渋谷園芸

まるで英国ガーデン!
観葉植物コーナーは壮観

小さな鉢植えから2m近い大物まで元気に生い茂る、渋谷園芸の観葉植物売り場。スタッフに相談すると、インテリアや生活スタイルに合った品種や手入れ方法を丁寧に教えてくれる。屋外スペースには、太陽の光を浴びて静かに息をする植物たち。まるでイギリスの裏庭に迷い込んでしまったかのような光景が広がる。

渋谷園芸 練馬本店

しぶやえんげい ねりまほんてん
TEL.03-3994-8741
住所/東京都練馬区豊玉中4-11-22
営業時間/9:30~18:00 ※季節により異なる
定休日/無休(元旦のみ休み)

ワクサカソウヘイさん

作家。1983年、東京都練馬区生まれ。文筆業のほかに舞台やコントライブの構成作家としても活動。最新刊は『出セイカツ記』(河出書房新社)

PHOTO/KENSUKE HOSOYA TEXT/SOHEI WAKUSAKA

  • LINEで送る
※記事は2024年4月20日(土)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります

TOP