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【新潟県・十日町市】十日町の里山には人が集っています

更新日:2023/09/20

『大地の芸術祭』開催地として知られる新潟県十日町市。ここはアートを道しるべに足を運んだその先で、人々の思いや暮らしに触れたことで好きになり、何度も通うリピーターが続出する聖地なのです。アートとともにある日常がどんどん愛おしくなるそんな行きつけローカルの旅へ。

十日町市新水集落には2006年開催の『大地の芸術祭』で制作された「かま ぼこフェイス」(作: 開発好明)が点在。 雪が積もらないように作られた、この地域でよく見られるかまぼこ型ガレージが多彩な表情でお出迎え

アートがある風景と交流が当たり前の愛おしい日常へ~新潟県・十日町市

「鉢&田島征三 絵本と木の実の美術館」で行われるライブを松浦麻弥さんと森川惠一さんがサポート

人との交流がおもしろくて通ってみたら、第2の故郷になりました

最初、目にしたときは「田園地帯にアートが!」と驚いたものだけど、地域芸術祭のパイオニア『大地の芸術祭』の舞台となっている新潟県十日町市では、そんな光景はもはや日常。初開催の2000年から20年以上たった現在、季節を問わず人々がやってきては、かつて廃校や空き家だった場所に集い、にぎやかな笑い声が響いています。

「知らない土地って入っていきづらいですよね。でもそこにアートがあれば別。初めての場所に堂々と行けるし、地元の人と話ができるのも楽しいんです」と言うのは、週末は作品巡りに時間を費やすという新潟市在住の本望明子さん。「しかも、今年は“3年に一度の会期”じゃないから、人が多くなくてゆっくり見られるのもいいんです」

「マテリアルショップカタルシスの岸辺 十日町店&『死蔵データグランプリ2022-2023』記録展」

通常、『大地の芸術祭』の開催は3年に一度で、次回は2024年に開催予定。会期外は数日間、企画展やイベントが行われていたのですが、今年は春から秋まで休むことなく作品を公開、いつ行っても楽しめるようになっているのです。

そんな十日町へは、何度も訪れる人が多いのも特徴的。誘われてなに気なく足を運んでみたら、土地と結びついたアート作品を巡るうちに、人々の暮らしや思いに触れ、気付いたらその土地のことが好きになり、「戻ってきたいなぁ」と思うようになるのだと言います。

星峠の棚田

実際、開催拠点のひとつ、奴奈川(ぬながわ)キャンパスへ行くと、この場所が小学校だったときの卒業生と遭遇。なに気なく会話が始まり、廃校になる前、学校がどのように使われ、授業が行われていたかの話になり、耳を傾けていると、かつての様子が浮かび上がるかのような不思議な感覚に。こうした小さな交流も十日町市の当たり前。愛おしい日常をもっと感じたいと思うのでした。

大地の芸術祭

3年に一度のトリエンナーレで知られる、新潟県越後妻有地域の十日町市と津南町を舞台に開催されるアートの祭典。今年は通年プログラム「2023 年の越後妻有」を11月5日(日)まで実施中。新作を含む200点以上の作品や企画展・イベントもあり、アート空間で食や宿泊も楽しめる。共通チケット一般 2500円

この町が「こへび隊」3組の行きつけになった理由

松浦麻弥さんがツアーガイドを担当。内海昭子「たくさんの失われた窓のために」

何度も通っているうちに
人も、地域も、食も好きになる

『大地の芸術祭』のサポーター「こへび隊」の多くが十日町市のリピーター。それぞれのペースで活動することで、さらに深いつながりを感じるようになったという3組の人たちに話を聞きました。

「今日はちょうどよく風が吹いて、カーテンがたなびいていて、きれいですね」。里山を望む見晴らしのいい場所にある作品「たくさんの失われた窓のために」を前に、『大地の芸術祭』オフィシャルツアーに参加した20人ほどのお客さんへと、ツアーガイドの松浦麻弥さんはにこやかに解説をします。コロナ禍に新潟県湯沢町に移住した松浦さんは、平日はリモートで東京の会社の仕事をこなし、月に数回、芸術祭のサポーター「こへび隊」として、ツアーガイドなどのボランティアをしています。

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亀岡大助さん、ななこさんは、企画展をサポート。伊藤誠「上を向いて歩こう」

「こへび隊」は芸術祭を支えるボランティアスタッフで、登録すれば、誰もが1日からでも参加が可能。サポート内容は、会期前は作品設置、会期中は作品の受付や案内とともに、松浦さんがやっていたようなツアーガイドのほか、棚田の田植えや稲刈り、冬の雪囲いなど。地域の人と一緒にわいわいと取り組むので、自然と仲よくなることが多いといいます。

夏休みの数日間を利用して父娘で「こへび隊」に参加しているのは、東京からやってきた亀岡大助さん、ななこさん。白衣を着用した2人は伊藤誠の企画展「上を向いて歩こう」の案内人。小学6年生のななこさんは物怖じすることなく来場者に声をかけ、好奇心旺盛な目を輝かせながら誘導していきます。

「娘は人との交流を楽しんでいて、誰とでも仲よくなる。地元の人に採れたての野菜をもらったり、近所の湧き水に案内してもらったり。こへび隊として出会う大人たちの話を聞くのがおもしろいらしいんです」とお父さんは嬉しそう。

「FC越後妻有」 Photo: Nakamura Osamu

東京で仕事をしながら月3回は週末にやってくる森川惠一さんと十日町市の強いつながりは、地域の棚田を残すため、担い手がいなくなった田んぼを耕作する芸術祭のプロジェクト「まつだい棚田バンク」の会員になったことから。「地域の方と一緒に作業をしていると顔なじみになって、場所も人も食も好きになった。そして、春夏秋冬、リピートを繰り返すように」。農業の担い手として移住、結成された女子サッカーチーム「FC越後妻有」のメンバーとも一緒に農作業をした仲で、毎試合応援に行っているとのこと。

「こへび隊」のみなさんに共通しているのは、この場所を「第2の故郷」だと思っていること。いつだって、戻ってきたい場所になっているのです。

こへび隊のみなさん。地元の人と、遠方からくる人、スタッフが一緒にさまざまなことに取り組む

こへび隊

『大地の芸術祭』の活動を支えるボランティア・サポーターで、居住地、年齢、職業など、さまざまなバックグラウンドを持った約3,000 人が登録。活動内容は、アート制作をはじめ、芸術祭や地域を元気にするプロジェクトのサポート。登録すれば1日からでも参加できる。

INTERVIEW■3組の隊員にこへび隊の魅力を聞いてみました

こへび隊/亀岡大助さん・ななこさん 東京都在住 リピーター歴2年 ※写真は伊藤誠「上を向いて歩こう」

こへび隊01■亀岡大助さん・ななこさん

「こへび隊」になることで
観光以上のつながりが持てる

 数年前、家族で『瀬戸内国際芸術祭』に行ったことで娘がアートのおもしろさに開眼。昨年から『大地の芸術祭』の「こへび隊」に参加しています。主なサポートは作品受付や案内。昨年は森の中に丸一日座って案内したり、今年は白衣を着て作品を装着するお手伝いをしたりしました。なにより娘は普段出会わない大人たちと関わりを持つのが楽しいらしく、どんどん地域になじんでいます。

 私にはいなかがないので、娘に帰る場所を作ってあげたいという思いがありましたが、旅に出ても地域の人と観光以上の交流を持つことが難しい。けれども、「こへび隊」を口実にすることで、みなさんに受け入れていただき、そのつながりがどんどん広がっていくのが感じられ、「次もまた来たいな」という気持ちになります。来年は娘も中学生。同じ年頃の「こへび隊」仲間を作って、一緒に行きたいと張り切っています。

こへび隊/松浦麻弥さん 新潟県在住 リピーター歴2年 ※写真は内海昭子「たくさんの失われた窓のために」

こへび隊02■松浦麻弥さん

作品とともに地域のことを
ツアーガイドで伝えたい

「こへび隊」になったのは、十日町市でよく行くゲストハウスでその存在を教えてもらったことがきっかけ。芸術祭の裏側が知れておもしろいだろうなという気持ちで、2022年から参加しました。実際、作品の受付のサポートをやってみると、お客さんだった自分が「受け入れる側」になって、これまでとは違う関わり方ができることに魅力を感じ、昨年からはオフィシャルツアーのガイドもやるようになりました。

とはいえ、覚えることがいっぱい。仕事の合間を縫って知識をつけるために勉強にいそしんでいます。大切にしているのは、作品や作者の思いとともに、地域の良さを知ってもらうこと。来場した方に「いいところだね」と褒めてもらうことで、地域の方々が地元の良さを再確認しているんですよね。そんなことを積極的に伝えることで、ツアーに参加したからこそ得られる体験を提供できればいいなと思っています。

こへび隊/森川惠一さん(写真右) 東京都在住 リピーター歴8年

こへび隊03■森川惠一さん

地元の人と飲み交わしつつ
ひとりでもファンを増やしたい

 雨天で行けなかった登山の代わりに訪れた2012 年の『大地の芸術祭』。わけのわからないものから美しいものまであって、作家さんの発想に感激。2015 年から人、地域、食に魅せられてリピーターに。2017 年に「まつだい棚田バンク」の会員として農作業のお手伝いをするようになると、自分たちで収穫した米のおいしさにも感激。2019年からは「こへび隊」として、作品制作やイベントの手伝い、受付のほか、ツアーガイドもしています。

 趣味は、受付をしている地元の方への差し入れ。こちらの方はシャイなので、5 回通って顔を覚えてもらうと「まぁ、よう来なさった」となります。地元の人と飲み交わしたり、芸術祭とは関係のない集落のイベントのお手伝いをしたり、一緒に農作業をしたFC 越後妻有の応援へ行ったりしながら、十日町のファンを増やして、地域を元気にする活動をしていきたいです。

PHOTO/MEGUMI SEKI WRITING/KAYA OKADA
※メトロミニッツ2023年10月号より転載 

※記事は2023年9月20日(水)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります