メトロミニッツ、北海道余市町

髭男爵ひぐち君の余市町ワイナリー巡礼/北海道・余市

更新日:2022/10/23

「ドメーヌ タカヒコ」の誕生以降、10年間で13軒もワイナリーが増え、現在その数は15軒(2022年9月末時点)。そんな余市の街を「余市町ワイン大使」の髭男爵ひぐち君とともに巡りました。

メトロミニッツ、北海道余市町
案内人/余市町ワイン大使 髭男爵 ひぐち君
1999 年にお笑いコンビ・髭男爵を結成。2015 年にワインエキスパートの資格を取得。日本ソムリエ協会に認定された名誉ソムリエ。今年5 月、「余市町ワイン大使」に就任。毎週、オンラインサロンで日本ワイン会も開催中

人生を変える1杯に出会える
日本ワインの最重要地

訪れた日本のワイナリーやブドウ農家の数は200以上! ワインエキスパートの資格を持ち、日本ワインの伝道師として活躍するひぐち君。その人生を変えたのは、2017年に出会った余市のワインでした。

「ワインの資格を取って初めて受けたイベントの仕事で余市のワイナリー、ドメーヌ タカヒコのワインを飲み、造り手の曽我貴彦さんに会いました。日本のワインは淡い味わいの中にうまみやだし感があり、だから和食のような繊細な料理に合うとお話しいただき、開眼。以来、日本ワインに夢中になりました」

今年2月に余市で開かれた食材セミナーに招かれたひぐち君は、5年ぶりに曽我さんに再会します。

「『ずっと好きでした』と告白しちゃいました。『あ、そうなんだ』という反応でしたが(笑)。僕の余市のワインへの愛があふれて止まらず、町の皆さんと盛り上がりました」

熱意を受け、町はひぐち君を今年5月に「余市町ワイン大使」に任命。月1回、余市を訪問し、余市のワインの魅力を深掘りして伝える活動に従事しています。大使としてまず志願したのが、「木村農園」での農作業。

「1年を通してのブドウ栽培を知りたくて。木村農園はワイン用のブドウ農家のレジェンドです」

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余市の伝説のブドウ農園である木村農園に毎月農作業に通うひぐち君。この日は木村さんのレクチャーを受けながら黙々と除葉作業を行う。ポケットにはメモ帳。「ひぐち君は非常に真面目」と木村さん

余市町では約40年前からワイン用のブドウ栽培が始まり、北海道のみならず日本各地のワイナリーに供給し、一大ブドウ産地として発展してきた歴史があります。中でも木村農園は1985年からピノ・ノワールの栽培を始めたパイオニア。

「千歳ワイナリー」や「ココ・ファーム・ワイナリー」、「農楽蔵」、「10Rワイナリー」など日本を代表するワイナリーにブドウを提供し、以前はドメーヌ タカヒコも木村農園のピノ・ノワールを使用していました。

日本海を見下ろす登地区の丘の上にある、木村農園に到着したひぐち君。8.5haの畑には、古いもので樹齢約40年のブドウの木が深く根を張ります。ひぐち君は5月に不要な芽を摘む芽かき、6月に枝の誘引作業を経験。今回は収穫しやすいよう実の周りの葉をむしり取る除葉に勤しみます。木村さんに細かく質問し、目を輝かせてノートにメモ。

メトロミニッツ、北海道余市町
「ブドウの実は成熟するにつれランダムに色付き、この姿を『ヴェレゾン』と言います。幻想的できれいですよね」とひぐち君。木村農園ではピノ・ノワールのほか、ケルナー、シャルドネ、ピノ・ムニエも栽培

「ブドウ畑に来て、農作業を体験したからこそわかることが面白くて。ブドウの開花の様子はソムリエでも知らない方は多いと思います」

夏は山側から、冬は日本海から風が吹き抜け、この風通しのよさが病気を防ぎブドウを健やかに育てます。「年々ブドウの出来がよくなってきているのを実感。温暖化の影響も大きいですね」と代表の木村幸司さん。作業中のひぐち君も爽やかな風を感じ、ひと息ついていました。

メトロミニッツ、北海道余市町
人生を変えたワインを造るドメーヌ タカヒコを訪れ、曽我貴彦さんとテイスティングをするひぐち君。曽我さんは100年後も継続してこの土地でワインが無理なく造れるように日々考えを巡らしている

ワインの醍醐味が体現された
土地に世界から注目が集まる

ひぐち君の次の行き先はドメーヌタカヒコ。2010年に設立され、そのワインは、世界一と名高いデンマークのレストラン「noma」で採用されるなど高い評価を受けています。

「タカヒコさんのことを勝手に師匠と思っています(笑)。醸造家ではなくヴィニュロン、つまり農夫でありたいという考え方で、土地の風土や文化をワインの中に表現する実践者です。例えば虫との付き合い方ひとつとってもお話がとても面白い!」

ちょうど収穫を待つ時期で、醸造所内やタンクの掃除、ブドウの糖度の分析などが行われていました。「近寄りやすく、相手の懐にも入っていけるひぐち君の存在は、日本ワインが抱える課題解決につながると期待しています」と曽我貴彦さん。

余市町は2011年にワイン特区に認定され、以降、この10年で13ものワイナリーが一気に誕生。ひぐち君は15軒すべてを訪問しました。

「フランスで技術を学んだ職人肌の醸造家や、モダンな感性を持った若い夫婦、カルディコーヒーファームによる大規模なワイナリーなど、バラエティ豊か。タカヒコさんに学び、独立された方々も皆さん個性が際立ち、唯一無二の素晴らしいワインを生み出している。余市に世界から熱い視線が集まるのもうなずけます」

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余市滞在中はいつも地元の飲食店へ行き、余市のワインを堪能する。「ワイン食堂 ヨイッチーニ」は余市産北島豚のハンバーグや蝦夷鹿のソーセージが名物。「裏メニューも豊富にあります」とシェフの相馬さん

夕食は、以前から行きたかった「ワイン食堂 ヨイッチーニ」へ。シェフの相馬慎悟さんは、登地区の農園「ソウマファーム」でブドウを育てる農家の一面も。親交のあるドメーヌタカヒコ、ドメーヌモン、ランセッカに自身のブドウで醸造を依頼した「ソーマニヨンシリーズ」が味わえると興奮(グラス900円~)。

「ヨイッチーニだけでなく、東京ではなかなか飲めない余市のワインが、町内の飲食店では気軽に楽しめることに驚愕。余市に来て味わってほしいと、ワイナリーが地元に多く流通させているからなんです」

余市は魅力的な食材も多数。冬のニシン、夏のウニ、6年かけ実現された余市牡蠣、うまみあふれるヘラガニや北島豚、ほどよい酸味のイチゴなどワインに合わせたいものばかり。

「余市のワインと食材のペアリングを発見するのも大使の使命です! ふるさと納税でワインと組み合わせた返礼品も提案していけたら」

一昨年よりふるさと納税返礼品に、町内のほぼ全てのワイナリーのワインが登場。なかなか買えないワインが入手可能とあって、毎年6000本以上がすぐになくなるほど大人気。今年は11月3日に受付開始予定です。

「ワインは造る人、ブドウ、その土地など、知れば知るほどおいしくなるお酒です。余市はその醍醐味が最も感じられる土地だと確信。僕が体感した余市の魅力を伝え続けたい」

PHOTO/MEGUMI SEKI  WRITING/ATSUSHI SATO
※メトロミニッツ2022年11月号特集「日本ワインの現在地2022」より転載

※記事は2022年10月23日(日)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります