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日本一のスナック天国へ!宮崎県・ニシタチのスナック物語

更新日:2022/03/20

知る人ぞ知る“日本一のスナック街”といえば、宮崎県最大の繁華街である宮崎市の通称・ニシタチ。謎めいた扉の先は、大人のカルチャースクールであり、哲学であり、宇宙だった!? ニシタチで2020年にスナック紹介スナック「スナック入り口」をオープンさせた、ママの田代くるみさんにスナックの魅力を伺いました。魅惑のニシタチスナックを体験して。

画像/スナック入り口ママ・田代くるみさん

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■食彩 華酔亭(茶圓イツ子ママ)/この道60年のレジェンドママがなんでも包み込んでくれる、実家のような安心感。手作りのお通しも絶品

人生が詰まったコスモへ誘う、スナックの入り口

日本独自のカルチャーであり、夜の街になくてはならない「スナック」。興味はあるけれど初心者にはハードルが高く、飛び込む勇気がないという人も多いのではないでしょうか。そんな迷える小羊とスナックの橋渡しをするニュータイプのスナックが、2020年11月、宮崎県最大の繁華街である通称ニシタチに誕生。その名も「スナック入り口」です。ママを務める田代くるみさんは32歳という若さで、接客業の経験はゼロ。高校まで宮崎で過ごし、大学卒業後はライターとして東京で活動していたことから、現在も編集者とママの二足のわらじを履く異色の経歴を持ちます。

コンビニすらない地方の小さな町にも、必ず1軒はあるスナック。全国に星の数ほど存在しますが、実に宮崎県は過去に人口10万人当たりのスナック数で日本一を記録し、なかでも宮崎市の中心部にあるニシタチは“日本一のスナック街”として知られています。そのため、宮崎の人にとってスナックは身近な存在で、くるみママも物心が付く頃にはスナックでマイクを握っていたそう。

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■スナックMiwa(河野美和ママ)/語り口が優しい妖精のようなママは、現役のサーファー。170種超のウイスキーが圧巻で、シガーも吸える

「私は宮崎と鹿児島の県境にある都城市の生まれで、地元の牟田町にはスナックや居酒屋が集まる小さな飲み屋街がありました。スナックデビューは4歳のとき。子供の頃から、仲のいい家族同士で食事に行くと、2次会は決まってスナックへ。大人たちが親睦を深めるかたわらで、私はカラオケを歌ってマスターに褒めてもらい、気をよくしていました」

学校の同窓会も2次会はスナックに流れるのが定番という宮崎で、英才教育を受けて育ったくるみママ。上京してからもスナックで鍛えた円滑なコミュニケーション力を生かしてライターの道へ。そして、フリーライターとして活動していた2017年から、東京と宮崎の2拠点生活をスタート。そこで初めて、ニシタチのスナックと出会います。「当時のニシタチには数百軒ものスナックがひしめき合い、新大陸を発見したような感動がありました。友人や仕事先の人に連れられて、いくつもの扉を開けましたが、ふたつとして同じ店がなく、ママのタイプも十人十色。80歳を超えた現役のレジェンドママの店と、その娘と孫がママを務める店があったり、ピアノの生演奏が聴ける店もあれば、エンタメ色満載な大箱の店もあったり・・・。挙げればキリがないほど、多様性のあるニシタチのスナックにハマっていきました」

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■ピアノラウンジ バラード(久保田留美子ママ)/グランドピアノを囲むカウンターが印象的。プロのピアニストによる生演奏が聴けて、特別な日にも最適

ところが、2020年に新型コロナ感染症の拡大により、緊急事態宣言が発令されると、ニシタチを取り巻く環境が激変。「このままではスナックの灯が消えてしまう」と行く末を案じたくるみママは、ニシタチのスナック街を活性化するプロジェクトに乗り出します。活気を失ったニシタチに、そしてお世話になったママたちに自分なりの恩返しをしたいという一心でプロジェクトを練り、観光庁に提案。すると、情熱が実を結び、プロジェクトが見事に採択され、その一環として「スナック入り口」をオープンさせることができました。

「実はニシタチに通い始めた5年前から、漠然と自分でも店を持ちたいと考えていました。というのも、ニシタチにある多くのスナックは雑居ビルに入っていて、中の様子も見えなければ、料金体系もわからない。どこまでも閉ざされたイメージなのに、実際は一見さん歓迎のフレンドリーな店がほとんど。それなら、ニシタチの入り口になるような店を作りたいと思い、スナック紹介スナックの構想が生まれました」

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■スナックSUN(川邊明子ママ)/明るく広く入りやすいファミレス型スナック。スタッフのエンタメ力が高く、ニシタチ随一のおもしろさ

“入り口”を名乗るからには、親しみやすく入りやすいことが絶対条件。そのため立地は路面店で、ガラス張りで中まで見通せるオープンな店構えにこだわりました。料金は1時間2000円の飲み放題制で、紹介手数料も不要。もちろん紹介先からもマージンは取らないので、純粋にその人にとってベストだと思うスナックを提案できるのが強みです。スタッフは、くるみママとマスター2人の体制で、男女それぞれの立場からアドバイスできることも功を奏し、“行ってみたら違った”というクレームはゼロ。出戻ってくるお客さんはみな、「2軒目も紹介してほしい」という人ばかりとか。

「スナックは、ママやマスターの趣味嗜好や人生が凝縮されたコスモのような場所。昭和歌謡を愛する店やウイスキーが所狭しと並ぶ店など、個性がはっきりしているので、その核の部分が自分にマッチするかがスナック選びでは重要に。ミスマッチだと、お客さんもお店も不幸なので、うちではあらかじめ内観やママの写真も見せて、お客さんに提案を行うようにしています。そこさえクリアできれば、あとはママやマスターに身を委ねるだけで、楽しい夜は約束されたようなもの」

バーがお酒を楽しむ場所なら、スナックはママやマスターとの会話を楽しむ社交場。カウンターを挟んでさまざまな人間模様が交錯し、社会人としてのたしなみや人間関係の機微を身につけられるのも醍醐味です。

「自分より人生経験があるママやマスターが悩みや愚痴を聞いてくれて、どんな自分でも許してもらえる。そんなスナックこそ、今の時代に必要だと感じています。ニシタチの魅力を発信するとともに、私たちの取り組みも知ってもらって、苦境に立たされている全国の夜の街へのエールになれば嬉しいです」

PHOTO/SAORI KOJIMA WRITING/CHIAKI TANABE(Choki!) スナック画像提供/田村組
※メトロミニッツ2022年4月号特集「ニッポンカルチャー見聞録」より転載

※記事は2022年3月20日(日)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります