2023年4月に、「飲む中絶薬」とも呼ばれる経口妊娠中絶薬が日本でも承認されたのが大きなニュースに。海外では40年以上前から使われているけれど、どんな薬なの? 本当に安全なの? 「高い」といわれるのはなぜ? など気になる疑問を、詳しい医師に聞いてみた。
「選択肢が増えることは、女性にとってよいこと。きちんとした知識を持ち、自分らしい方法を選んで」
飲む中絶薬とは、どんな薬?
「今回承認された、“飲む”妊娠中絶薬『メフィーゴパック』は、2種類の錠剤が1パックになったお薬です。
最初にまず、プロゲステロンという女性ホルモンの働きを抑えて子宮の出口をやわらかくする錠剤を飲みます。
これによって妊娠の進行が妨げられることになります。1種類目の錠剤を飲んでから1日半~2日(36時間~48時間)後に、2種類目の錠剤を口の中で溶かして飲みます。
これには子宮を収縮させて、子宮の内容物を体の外に出す作用があり、この2種類のお薬の作用によって妊娠が終了することになります。
使えるのは妊娠9週0日以下の、妊娠初期の方のみです。日本では現在、母体保護法指定医師かつ入院施設を持っている医療機関でしか処方できません」
安全に使えるの? 体への影響は?
「日本で承認されたのは2023年の4月ですが、海外では1980年代から使われています。
世界中で広く、長い期間使われているので、安全性、有効性のデータが十分にある薬といえるでしょう。
このお薬には、多少の副作用があることがわかっています。
1種類目の錠剤を飲んだだけでは、ほとんど変化がありませんが、少々、出血することもあります。
しかし2種類目を摂取する(バッカルという頬粘膜の内側で溶かす方法)と、子宮が収縮するので、当然生理痛のような下腹部痛や子宮出血などが起きます。
経口妊娠中絶薬の場合、子宮の内部に器具を入れるということはないため、子宮内壁を傷つけるリスクはありません。また感染のリスクも手術に比べて少ないです。
いっぽう手術は妊娠21週までカバーできますし、短時間で済む、痛みを感じなくてすむ(麻酔をかけるため)、出血する時間や量が少ないというメリットがあります。
お薬と手術、双方の特徴をしっかり理解し、ご自身に合った方法を選択することが大切です」
日本での価格は高いって本当?
「日本では、もともと中絶は保険診療の対象外とされているため、自由診療です。
そのため中絶手術も10~15万円かかります。内服薬の方法をとったとしても、受診の回数が増えるなど、費用がかかります。医療機関によって異なりますが、薬、検査、カウンセリング、診療費と併せて10万円程度の負担となるところが多いようです。
海外ではもっと安い場合もありますが、それは公的保険適用後の自己負担額であることがほとんどです。
すべて国が負担してくれて無料というところもあります。
そもそも日本では、研修開発、申請などに膨大な費用がかかるため、薬の価格がまだ高いのですが、決して医療機関が儲けているわけではありません。
自己負担額については、手術の場合でも薬の場合でも、大きく違いはないと思います。
ただメリット・デメリットがあるので、中絶を行う必要が生じた場合、それぞれの方法の特徴や生活上のニーズによって、自分にとって適切な方法を選んでいただくのがよいでしょう。
女性がリプロダクティブヘルス(性と生殖の健康)において、このように選択肢を持てるようになったのが、経口妊娠中絶薬の意義のひとつだと思います。
中絶をすることは、その人にとって残念な事態ではありますが、かえって将来の自分のために大切な知識を身につけるひとつのステップになったと考えてほしいです。
その経験を次に活かして、より健康に、より幸せに生き抜く女性が増えていってほしいと、心から願っています」
教えてくれた人
対馬ルリ子先生
産婦人科医師、医学博士
弘前大学医学部卒業
女性ライフクリニック銀座・新宿の理事長として、「女性の生涯のかかりつけ医」を目指し、トータルな健康支援に取り組んでいる。2003年には女性の心と体、社会とのかかわりを総合的にとらえ女性の生涯にわたる健康を推進するNPO法人「女性医療ネットワーク」を設立。現在も理事として、さまざまな啓発活動や政策提言を行っている。『「閉経」のホントがわかる本』など著書多数。
医療法人社団ウィミンズ・ウェルネス 女性ライフクリニック銀座・新宿 理事長
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