OZmagazine編集長の「F太郎通信2017」9通目

F太郎通信2017

オズマガジン編集長古川が、日々の中で感じたことを、読者のみなさんに手紙を書くようにつづったエッセイのようなものです。

更新日:2017/10/01

F太郎通信2017

今回は旅の話を。ひとり旅について書いています

 こんばんは。日曜日の夜。お元気ですか? この手紙が届くとときはもう10月。今年もあと3カ月でおしまいですね。月日が過ぎるのはほんとうに早いものです。

 発展途上国の経済成長グラフのようにはっきりとした右肩上がりで、わたしたちの毎日もわかりやすく成長が実感できればいいのですが、ご存知のとおり毎日はそんなにうまくいくようにはできていません。わたしたちは同じような失敗ばかりくり返しているし、大人になればなるほど敗けも後悔も増えていくものです。でもきっとそのでこぼこしたグラフのような日々の中に、自分で見つけた自分のモノサシを使って、喜びやおもしろみを見つけていくことが人生というものなのかもしれません。

 でも、その自分のモノサシを手に入れることって、本当に難しいですよね。わたしたちはどうしても比べてしまう生き物で、どの角度から見ても隣の芝生は青く見えるようにできています。あちこち探した青い鳥は、部屋の鳥かごの中で鳴いていた。なんてこともしばしばです。

 そういう僕自身が自分のモノサシを持っているかといえば、胸を張って持っていますとはとても言えないと思います。むしろ疑わしいものです。

 でも「あ、そのモノサシらしきものを僕はいま手に持っているかもしれない」と、いつも思うときがあります。それは、ひとりで旅をしているときです。

 当然ながらひとり旅というのは、自分以外に話す相手がいません。お店の方や旅先で出会った人と話すことはありますが、基本はひとりであることが前提です(あたりまえですね)。

 もしこれを読んでくださっている読者のあなたが、まだひとり旅をしたことがないとしたら、ぜひこの秋はひとり旅をしてみることをオススメします。もちろん価値観は人それぞれですから、強要するつもりはありません。でも、さみしいと思い込んでいたけど、とても自由な気持ちで楽しめた。もしかしたらそういうこともあるんじゃないかと思うのです。

 誰だって最初は怖いものです。そして人が選んでいないことを選ぶことは、なんでも勇気がいるものです。

 ひとり旅に関していえば僕は大ベテランです。だから少しだけアドバイスをさせていただくとすれば、ひとり旅でいちばん強い味方は、ずばり「本」です。

 多くの方がひとり旅のハードルに感じられていることのひとつに、食事があるのではないでしょうか? お昼やカフェならまだしも、夜ごはんをひとりで、しかも旅先でとなると、尻込みしてしまう方もいるのではないかと思います。

 でも一方で旅の醍醐味は、その土地での晩ごはんだったりします。その場所で日常的に食べられている食べ物や、その土地のお酒。たいていそういうものは、地元の飲み屋さんにあるものです。でもはじめての町で飲み屋さんに入るのって勇気がいりますね。そのはじめての町で美味しそうな地元の飲み屋さんのカウンターに座ったときに役に立つのが、本なのです。たとえば誰とも話したくなかったら、ビールを注文して料理が出てくるまでの間はポケット(あるいはカバン)から文庫本を取り出して読めば、一瞬にして本の世界に入ることができます。そしてあなたが思っている以上に、それだけでその町やその店に溶け込むことができます。逆に誰かと話したいなと思ったら、本を置いて心をオープンにしていると、旅先では不思議とおもしろいことが向こうからやってくるものです。

 お店を出てもう少し本を読みたいと思ったら、遅くまでやっているカフェやバーに入って続きを読むのも自由だし、町を散歩したいなら、夜の中をどこまでだって歩くこともできます。ひとりのあなたは本当に自由なのです。

 そうして気がつくと、夜道であなたはなにかを手に持っています。目がさめたら消えてしまうかもしれない儚いモノサシが、自分の手の中にあることに、あなたは気がつくでしょう。

 それが、ひとり旅です。

 本さえあれば、ひとり旅の自由度はぐんと増します。それは僕が経験的に学んだことですから、たぶん誰かの役にも立つんじゃないかと思います。もちろんさっきも言ったように、本があろうがなかろうが、ひとり旅は退屈で仕方ないという方もいると思いますので、それはあくまで個人の受け取り方であることに変わりはありません。

 でも、もしあなたがひとり旅を躊躇していて、小さなきっかけが欲しいなら、まだ読んでいない本や大好きな本をカバンに入れて、それを読むために旅に出るのもいいかもしれません。

 次号12日発売のオズマガジンは「ひとり旅」特集です。ひとり旅ビギナーのために、ひとり旅向けの場所を日本中から集めています。(そうなんです。ひとり旅向きの町ってあるんです。でもその話をしだすと長くなるのでまた。もう既に長いですね)

 ぜひ、いい旅を。

 もしかしたら僕らはそのモノサシを自分で「所有」することはできないのかもしれませんね。それは僕らの毎日に現れたり消えたりするものなのかもしれません。雨上がりの虹みたいに。

 ではまた。2週間後にお会いしましょう。

雑誌OZmagazineは、日々の小さなよりみち推奨中。今日を少し楽しくする、よりみちのきっかけを配信していきます。

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※記事は2017年10月1日(日)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります

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