落ち込みからうまく抜け出すには?気持ちの切り替えに効果的な行動や考え方を産業医がアドバイス!

とある出来事で落ち込んでしまったとき、なかなか気持ちを切り替えられずに長引かせてしまったことのある人は多いのでは。今回は、産業医として多くの人の心の内と向き合ってきた益子先生に、気持ちの切り替えのために必要な考え方や行動をインタビュー。すぐにでも取り組めるさまざまな方法を教えてもらったので、ぜひ参考にしてみて。

更新日:2022/03/22

産業医・メンタルヘルスアドバイザー 益子雅笛先生

株式会社M.D.PROJECT代表取締役。精神科専門医・心療内科専門医 日本医師会認定産業医。精神科・心療内科クリニック勤務の他、産業医・顧問医として健康に働くためのアドバイス、メンタルヘルス対策の助言指導などを行っている。少人数のセミナーを開催し、疾病予防や健康への意識を高める活動にも取り組んでいる。心身のバランスを大切に、自身で健康になれるようなアドバイスを心がけている。

1.気持ちを切り替えるってどういうこと?なぜ大切なの?

気持ちの切り替えとは、例えて言うなら料理の取り皿を取り替えるようなもの。次の料理をおいしく味わうために取り皿を新しいものに替えるように、イライラ、落ち込み、嫉妬といったネガティブな思いを洗い流せば、新たな気持ちで次に待ち受けることを思いきり楽しめるようになる。

嫌なことや悲しいことがあったときに、切り替えがうまくできないと、落ち込む気持ちをつい引きずってしまいがち。感情のコントロールが難しくなり、人間関係や仕事に影響が出てしまうことも。

自分の中で気持ちの切り替えにつながる行動を把握しておけば、嫌なことに直面したときもスムーズに対処でき、悪循環に陥るのを防げる。いつでも前向きな気持ちを保てるため、新たなことにチャレンジする意欲も湧く。さらに気持ちのムラが減れば周囲にも落ち着いた印象を与えられ、人間関係が安定しやすい。

2. 気持ちの落ち込みの主な原因とは?

気持ちが落ち込んでしまう原因は1つではなく、さまざまな原因が重なった結果であることが多い。心理的なストレスから、体の不調が影響するものまでさまざまな原因が考えられる。その後の対処に役立てられるよう、まずは自分の落ち込みの原因として考えられることや、そのバランスについて整理してみよう。

仕事などで大きなミスをしてしまった

仕事やバイト、私生活でミスをしてしまい、周囲に迷惑を掛けたり叱られたりすると、申し訳なさから気分が落ち込みやすい。また失敗してしまうのではないか、自分に今の環境は向いていないのではないかと思い込んでしまうことも。時間が経ってもミスをしたときの状況や気持ちが忘れられず、何度も思い出しては自己嫌悪に陥ってしまう。

人間関係のトラブルがあった

ストレスの原因として多く挙げられるのが、人間関係によるもの。友人や同僚、恋人との間でトラブルがあり、修復したいのにうまくいかないと落ち込んでしまう。信じていた相手から裏切られるような仕打ちを受け、誰も信じられないような気持ちになることも。嫌な思いをした経験から新しい人間関係に対して臆病になり、気持ちを引きこもらせてしまうと、悪循環に陥りがち。

思い描く理想になかなか到達できない

テストが不合格だった、努力しているのになかなか目標を達成できないなど、自分が求めるレベルに到達できずに落ち込んでしまうことも。目標までの距離が遠ければ遠いほど、近付けない自分に対しての自己評価が下がり、歯がゆく感じる。うまくいっているように見える他人と自分をつい比べてしまい、劣等感や嫉妬といったネガティブな気持ちが生まれる。

ホルモンや栄養のバランスが乱れている

原因となる出来事が思い浮かばないときは、ホルモンバランスの乱れが起因している場合も。なかでも女性は月経周期によって女性ホルモンの上昇と降下を繰り返すため、訳もなくイライラしたり落ち込んだりしてしまうことが多い。とくに月経前や月経中は体の不調も相まって、何もしたくない気持ちになってしまいがち。

また日々の食生活で栄養のバランスが崩れると、気持ちや体調に影響が出やすい。摂取した栄養によってパフォーマンスを発揮するため、必要な栄養素を満遍なく摂ることが大切。とくにミネラルやビタミンなどの栄養素は不足しがちなので、意識しながら摂取してみて。

3. 気持ちの切り替えがうまくできない人の特徴は?

なかなか気持ちを切り替えられない人には、共通する特徴が見られることがある。自分に以下のような傾向がないかチェックしてみよう。

人に気を遣いすぎて、言いたいことを言えない

自分よりも他人の気持ちを優先する人は、言いたいことを言えずにストレスを溜めやすい。場の雰囲気を崩さないよう常に気を遣うため、気疲れしてしまう。落ち込んだときも周囲になかなか相談できず、1人で溜め込んでしまいがち。

責任感が強く、何かあるとまず自分を責めてしまう

嫌なことやトラブルがあったとき、原因が曖昧だと自分に責任があると感じ、必要以上に落ち込んでしまう。1人で抱え込もうとするため気持ちの発散ができず、ネガティブな思いを抱き続けやすい。

生活リズムが乱れている

寝不足や栄養の偏りなど、生活リズムや食生活が乱れている人は体の不調が起こりやすく、それに伴って気持ちが沈んでしまいがち。なかでも鉄分やタンパク質が不足している場合、頭がぼんやりしたり、ネガティブな気持ちになったりする傾向がある。とくに女性は月経による出血で貧血気味になると、何をするにしても疲れてしまいやすい。

少しのミスでも気にしてしまう完璧主義

強いこだわりを持つ完璧主義の人は、少しうまくいかないことがあると気持ちが乱れてしまう。失敗した経験を何度も思い出し、また思い通りにできないのではないかと不安を抱き続けやすい。もっといい方法があるのではないか、本当にこれでよかったのかと思い悩み、モヤモヤした気持ちが長引く。

自分に自信がないネガティブ思考の持ち主

自分に自信がない人は、仕事や人間関係で失敗した原因を自分のせいだと考えてしまい、自ら深い傷を負ってしまう。繰り返すことでさらに悪循環が生まれ、「どうせ自分なんて」といった思いを抱きやすい。自分は嫌われているのではないか、相手に嫌な思いをさせているのではないかと、1人で悩んでしまうことが多い。

4. 気持ちを切り替えるためにまず必要なことは?

気持ちの切り替えをスムーズに行うためには、まずは自分の心がどのような状態にあるかを理解することが重要。以下のようなポイントを意識して、ネガティブな感情と向き合ってみよう。

今の状況や気持ちを素直に受け入れる

まずは起こったことやその原因を素直に受け入れ、自分が落ち込んでいるという状況を理解することが大切。落ち込むという現象は正常なこころの動きなので、無理に感情を抑える必要はない。

頭で考えても整理しにくい場合は、原因や今の素直な気持ちを紙に書き出してみるのもおすすめ。自分の気持ちを視覚で把握すると冷静な判断がしやすくなるので、ぜひ試してみて。

起こってしまったことは仕方ないと考える

嫌なことやトラブルに遭遇した場合、起こってしまったことは仕方ないと割り切って考えると、気持ちを切り替えやすい。ベストを尽くしたのだから、と自分を認めてあげる言い訳を作れば、嫌な感情にも「あきらめ」がつく。

とくに人間関係や天候などによるストレスの場合、自分自身の力だけではどうにもならないことがほとんど。自分に変えられないものはどうしようもないと割り切ったうえで、できるだけ自分がポジティブに過ごせるような対応の仕方を考えよう。

気持ちに余裕があるときに、落ち込んだ場合の対処法を考えておく

実際に気持ちが落ち込んでしまっているときは、物事を冷静に考えられないことが多い。気持ちに余裕があり落ち着いて自分と向き合える時に、どの原因で落ち込んだ場合はどう対処するかを考えておくと、スムーズに切り替えられる。

どうすれば嫌な気持ちにケリをつけられるかは、人によってさまざま。自分の考え方のクセをあらかじめ理解し、いざというときすぐ行動に移せるようにしておこう。落ち込んだときに見るためのメモやノートを作り、いつでも見られるように書き留めておくと便利。

体調やホルモンバランスが乱れやすい時期を把握する

気持ちの落ち込む原因が体調やホルモンバランスにある場合、自分なりのサイクルを把握しておけば心の準備ができる。今は落ち込みやすい時期だから、と頭の中でわかっていれば、イライラしてしまっても自分の気持ちが腑に落ちやすい。

以前落ち込んでいたときに体の不調がなかったか、その場合どのような行動を取ったら対処できたかを考察し、余裕のあるときに書き留めておこう。この状況なら何をすればいい、という対処法を自分なりに設けておくことは、落ち込んだときの安心材料につながる。

5. 気持ちを上手に切り替えるためにおすすめの方法

ここからは、実際に気持ちを切り替えるために効果的な行動をご紹介。気持ちを切り替えるには、自分の体が気持ちいいと感じることを実践するのが大切。人や状況によって適した方法は変わるので、ケースバイケースで合うものを見つけてみよう。

呼吸で心を落ち着かせる

呼吸は自分の意志で臓器をコントロールできる数少ない手段なので、意識していることと体の動きを一致させるために有効。落ち着こうとする意思を体や脳に伝えたいとき、場所を問わずに実践できる。

ストレスを抱えている人は体に力が入り、上手に息を吐けていないことも。まずはゆっくり息を吐き切り、それから吸うように順番を意識すると、呼吸のリズムが整えられる。しっかり吐けるようになったら、徐々に吐く、吸うの秒数を一定のリズムで保つように意識してみて。

運動などで体を動かす

ウォーキングなど軽い汗を流せるほどの運動も、血流がよくなり頭の中をすっきりさせられるのでおすすめ。有酸素運動によって、心を安定させる脳内ホルモン『セロトニン』が分泌されやすくなる。

外出が難しい場合は、自宅でストレッチや軽いトレーニングを行うのもおすすめ。無理のない程度で体を動かして、気持ちをリフレッシュさせよう。また、からだを動かすときは息をしっかり吐くことを意識しよう。

おいしいものを食べる

ちょっとした時間で気持ちを切り替えたいなら、おいしいものを食べて気分を上げるのも一つの手。好きなものを食べてほっとひと息つく時間を設けることで、落ち込む気持ちを和らげられる。

いつもより少し贅沢な食事をとったり、スイーツと供にお茶やコーヒーをゆっくり楽しんだりと、そのときの気分に合わせながら様々なパターンが試すのがおすすめ。気持ちが揺らぐ時は、是非食事のメニューを工夫してみて。

また、「おいしい!」「幸せ~」など声に出してみよう。口にするものへの感謝を忘れずにすることもポイント。

睡眠をたっぷりとる

いつもより睡眠時間を多めにとってたっぷり休み、体と脳を休ませることも重要。睡眠が不足すると体調不良にもつながり、余計に気持ちが落ち込みやすくなるため、眠気を感じていなくても意識して睡眠をとる方がよい。

よく眠ったあとは頭がすっきりしやすく、モヤモヤしていた気持ちも冷静に整理できる。睡眠不足で少しでも疲れていると感じたら、充分な睡眠時間を確保して心も体もクリアにしよう。

ぬるめのお風呂につかって体を温める

落ち込んだときはぬるめのお風呂につかって体を温めることで、血行がよくなり緊張をほぐしやすくなる。お気に入りの入浴剤やアロマなども活用しながら、お風呂でのリラックスタイムを1人でゆっくり楽しんでみよう。

ただし長くつかりすぎると、そのぶんエネルギーを消耗し逆に体が疲れてしまうので注意。10分ほどを目安にし、自分の体が気持ちいいと感じる程度に温まるのがおすすめ。

身近な人に話を聞いてもらう

自分1人で溜め込んでしまっている場合は、気の合う友人や身近な人に相談するとストレスを軽減させやすい。人から意見やアドバイスをもらうことで、自分だけではわからなかった原因や改善方法に気付ける。

同じ悩みを抱えている、あるいは抱えた経験がある人と話せば、悩んでいるのは自分だけではないと思えるようになる。何かもやもやすることがあれば、まずは身近な友達に相談してみよう。

1人の時間を充実させる

本や読んだり、趣味に打ち込んだりして1人の時間を充実させるのもおすすめ。集中できる何かを見つければ嫌なことを考える時間が減り、ネガティブな気持ちを緩和させられる。

その際に、無理に明るい気持ちになることを意識する必要はない。思いきり泣ける映画を観て涙を流すのも、感情を発散させるにはいい方法。

おもしろいものに触れて、思いきり笑う

暗い気持ちを前向きに切り替えたいなら、よく笑うことも効果的。笑うとオキシトシン、ドーパミンといった心や体にいい影響を与える脳内ホルモンが分泌され、ポジティブな思考が生まれる。落ち込んだときでもこれを見れば笑える、というものを見つけておくと、気持ちの切り替えに活用しやすいので、余裕のあるときに探してみて。

髪型やファッションを変えてみる

たとえば髪を切ったり、髪色を変えてみたり、見た目に変化をつけると気持ちも切り替えやすい。新しく生まれ変わったような気分になり、以前の落ち込む出来事や嫌いな自分と決別できる。

いつもとは違ったテイストの服を選んで、おしゃれを楽しむのもおすすめ。イメージチェンジ後の自分が周囲に認められれば自信につながり、前向きな姿勢で過ごせる。

自然のエネルギーに触れる

動物、花、草木といった自然のものに触れるのも、気持ちの切り替えには有効な方法。生きているものからエネルギーを受け取ることで、不安な感情やネガティブな気持ちを和らげられることがある。

自宅で草木や動物に触れる機会がない人は、動物園や公園などに出向いてみよう。視覚だけでなく嗅覚、触覚、聴覚などあらゆる側面から自然を感じれば、心身にいい影響を与えやすい。

6.落ち込む気持ちが長期間続くときは、カウンセリングを受けてみては?

落ち込み方がいつもと違うと感じたら、医療機関に相談してみて

落ち込む気持ちは、一般的には数日から1~2週間程度で徐々に薄れていくことがほとんど。改善されず1か月以上続く場合や、いつもより落ち込みが激しい、何をしてもうまくいかないなどと感じる場合は、医療機関に相談してみよう。

気持ちの落ち込みは必ずしも心だけに原因があるわけではなく、体の不調による場合もある。カウンセリングを受けることで、自分では思いつかないような対処法が見つかるケースも。心療内科や精神科に限らず、まずは不調だと感じる部分の専門家に相談してみて。

常に気疲れや生きづらさを感じてしまう人は、HSPであることが原因かも

日々の生活で常に気疲れを感じてしまう人は、HSPが原因である場合も。HSPとは「Highly Sensitive Person」の略で、非常に感受性が強く敏感な気質を持つ人のことを指し、約5人に1人が該当すると言われている。心療内科や精神科ではHSPに関する相談を受け付けているところもあるので、思い当たる部分があるならカウンセリングを受けてみるとよい。

感受性が強く人に共感できるのは、本来は素晴らしい特徴のはず。そのような特性を否定的に捉えずに、自分の気質をしっかり理解して受け入れ、それでも大丈夫と自分自身に言い聞かせ、自分らしさを大切にすることが大事。

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※記事は2022年3月22日(火)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります

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