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農家さん直伝! 野菜の本当においしい食べ方~山形・つるむらさき~【連載エッセイ】

更新日:2022/08/20

その野菜の本当においしい食べ方を、人気フードライターの白央篤司さんが、農家さんのキッチンを訪ねて教えてもらう連載エッセイ。独特のぬめりと野趣あふれる風味を持つ、つるむらさきは夏が旬。八百屋やスーパーの店先で見かけるけれど、どうやって使えばいいのかよくわからない・・・という人も多いのでは? 特産地のひとつ、山形県寒河江市の農家さんにおいしい活用法を教わってきました!

つるり、ねばねば
じんわり土の滋味


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上/つるむらさきの下ごしらえはおおまかにわけて3ステップ。まずは流水でよく洗う 下左/沸かしたお湯でさっと湯がく 下右/粗熱が取れたら、しっかりとしぼって水気を切る。あとはそれぞれの料理に合わせて食べやすい大きさに切ったり刻んだりして使う

そう、紫だから「つるむらさき」なんである。うちの近所で出回っているものは茎も葉もすべて緑で、「なぜこの名?」と思っていた。
「2種あるんですよ。紫色のほうが茎は細くて、食感も繊細なんです。でも暑さや病気には強くて、育てやすい野菜ですね」と西尾佑貴(にしおゆうき)さん。山形県は寒河江(さがえ)市にある「お日さま農園」の園主さんだ。

つるむらさきは「最近よく見かけるけど、どう食べたらいいのか分からない」なんて声が多く寄せられていた。早速、ご自宅で料理法を見せてもらう。朝採りのつるむらさきが束で摘まれて、みずみずしい切り口がなんだかまぶしかった。

お、紫色は表面だけで中は緑色なんだな。大鍋でまとめてゆがいて、まずは下ごしらえ。湯の色がうっすら赤紫に染まって、きれいなものだ。粗熱が取れたら、水気をしぼって使っていく。

「和えものをふたつ作ります。まずは叩いた梅と醤油、ごま油、たっぷりのおかか、そしてゆでたエノキも一緒に」と妻の沙織(さおり)さんが料理にかかる。

沙織さんは生まれも育ちも寒河江市で、佑貴さんは愛知県のご出身。おふたりは今年36歳、有機農業を学ぶ塾で出会って結婚した。沙織さんの祖父母が農家で、「年をとっても続けられる仕事って、いいな」と、中学生のとき農業に興味を持ち始める。

そんな話を聞くうち和えものが完成、味見をさせてもらった。つるむらさきはゆがいて刻むとぬめりが出る。和えものにすると一体感が高まって、いいもんだなあ。梅とごま油という個性の強い食材にも全然負けない。噛むうち粘りが強くなってくるのも面白いぞ。
「そう、ワラビみたいな感じで醤油漬けにしてもいいんです」
あ、納得! 叩き和えにしてもよさそうだ。

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上/叩き梅との和えものには、おかかもたっぷりと入れる 下/溶き卵に刻んだつるむらさきを入れてオムレツに

「次はツナマヨと和えます。薄切りにして塩もみしたズッキーニも入れますよ」。
これがねえ、好きだった。マヨネーズとツナのコクに、つるむらさき独特の土っぽい味わいが素晴らしい相性で。佑貴さんが「その土っぽさが個性ですけど、好き嫌いの分かれるところでもありますね」と笑う。ここでバトンタッチ、佑貴さんがフライパンを熱し始める。卵を溶いて、刻んだつるむらさきを入れて、オムレツを作ってくれた。味つけはなんとナンプラー! うん、卵×ナンプラー×つるむらさき、すてきな味の三角形だ。個性のしっかりしたもの同士を卵がきれいにまとめてくれる。

おつまみにもいいだろうな・・・なんて漏らしたら「ちょっと飲みますか?」なんて誘ってくれた。いい焼酎が棚に並んでいる。佑貴さんは野菜つまみで晩酌するのが毎日の楽しみだそう。

最後に作ってくださったのは冷や汁で、塩もみキュウリもたっぷり入る。思わずおかわりしてしまった。つるむらさきは味噌との相性も上々だ。そして自家栽培の大豆と山形在来種の米麹で仕込まれたという特製の味噌、これが抜群にうまくてねえ・・・。「ちょっと分けてくれませんか」などとあつかましく言いそうになるのを必死にこらえて、取材のお礼を述べておいとました。

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【取材風景より】沙織さんが手際よく作ってくれた、つるむらさきの和えもの2品。上が梅とエノキの和えもの。下がズッキーニ入りのツナマヨ和え

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【取材風景より】上/佑貴さんが慣れたフライパンさばきで出してくれたのは、つるむらさきのオムレツ。ナンプラーの風味がつるむらさきとよく合う。卵は西尾さんのご友人が平飼いされているニワトリのもの 下/自家製味噌を使った、つるむらさきの冷や汁

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【取材風景より】冷や汁は、すり鉢とすり粉木を使って沙織さんが丁寧に作ってくれた。絶品の自家製味噌は、八郷在来という在来種の大豆と、サワノハナという在来種のお米から作った米麹を使って仕込んでいる。大豆はもともと沙織さんが農業研修を受けた栃木の農場で分けてもらったタネを毎年自家採種してつないでいるという

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【取材風景より】台所には育てた野菜類のピクルスや水煮など、保存瓶がいろいろと。将来的には販売も検討されているよう。待ち遠しい思いになった

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【取材風景より】お日さま農園のつるむらさき畑。つるむらさきは3月中旬~4月上旬に種を蒔いて、6月下旬から9月いっぱいまで収穫が続く。取材した時期は晴れ続きで大地がかなり渇いていたが、元気に葉と茎を伸ばしていた

つるむらさき、お日さま農園、山形県、寒河江市

【取材風景より】佑貴さん(左)は愛知県出身、沙織さんは地元、寒河江市出身。祖父母が農家だったという沙織さんが栃木県で有機農業の研修を受けていたときに佑貴さんと知り合い、2011年に結婚。翌年、2人でお日さま農園を設立した。農薬や化学肥料を使わずに野菜を育てているが、「農薬や化学肥料も絶対使わないと決めているわけではないです。ただ使わないでできるならば、使わずにやろうと。F1種(※)も育てるし、在来種の野菜も育てる。この地で育ったものを食べて暮らそう、という思いなんです」と沙織さん

※F1種・・・形質の異なる親同士を掛け合わせて、顕性(優性)の形質が現れるようにした品種。雑種1代品種

つるむらさき、お日さま農園、山形県、寒河江市

【取材風景より】山形県のほぼ真ん中に位置する寒河江市。市内を流れる清流・寒河江川の河川敷をのんびり歩けば、山々に囲まれた山の国であることを感じる。近くの広場では秋になると山形の風物詩、芋煮会も開かれるそうだ(取材は6月下旬)

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お日さま農園

山形県寒河江市で西尾佑貴さん・西尾沙織さん夫妻が主宰する。設立は2012年。現在は年間約100品目の野菜を農薬と化学肥料を使わずに栽培し、山形県内外の家庭や飲食店に発送している

文・白央篤司

はくおうあつし フードライター。「暮らしと食」、郷土料理をテーマに執筆。『オレンジページ』、CREA WEB、朝日新聞ウィズニュースなどで連載中。主な著書に『にっぽんのおにぎり』(理論社)、『ジャパめし。』(集英社)、『自炊力』(光文社新書)など

PHOTO/YOSHITATSU EBISAWA
※メトロミニッツ2022年9月号「行ってきました、農家さんの台所。」に加筆して転載

※記事は2022年8月20日(土)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります