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その野菜の本当においしい食べ方を、人気フードライターの白央篤司さんが、農家さんのキッチンを訪ねて教えてもらう連載エッセイ。一年中どんなものでも手に入る時代にあって、季節を感じる貴重な食材のひとつが、タケノコではないでしょうか。名産地・京都はただ今、収穫最盛期。生産者の岡崎さん家で、タケノコをぜいたくに使ったお昼ご飯をいただきます!
春が来た! と心おどる
タケノコ尽くしの食卓
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向日市(むこうし)のタケノコ農家、岡崎安浩(やすひろ)さん宅を訪ねれば、大鍋にタケノコがたっぷり下ゆでされていて思わず歓声を上げてしまった。すべて今朝掘りとのこと、白くてつややかで、美味感がものすごい。
「採れ立てはアクが少ないからそのまま煮てもいいんですけど、一応米ぬかを少量入れて下ゆでしてます」と妻の美枝(みえ)さん。1時間ほどゆでてそのまま冷ましたものを各料理に使用している。まずは土佐煮を出してくれた。
「だしと薄口醬油、酒とみりんで炊いてます。うちは土佐煮にしたものを天ぷらにもするし、小さく切って木の芽和えにもするんです」。木の芽和えは美枝さんの好物で、白味噌と砂糖、薄口醬油とみりんを合わせ、山椒の葉を加えてすりこぎですり、タケノコと和える。「木の芽のスーッと鼻に抜ける感じ、春が来たなあって毎年思うんです」。うーん、分かるなあ。
そして安浩さんの好物は「何といってもすき焼き。いやホント入れてみてください、すき焼きにタケノコ」と推しっぷりが熱い! 早速いただけば、こりゃ確かに相性抜群だ。牛肉に並んで堂々たる主役ぶり。
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しかしタケノコとは不思議なもの。若竹煮のような淡泊清澄たる味つけにはすっきりおとなしい調和を見せ、すき焼きや照り焼きのようなガツンとした味つけでは「受けて立とうじゃないの」とばかりに存在感を増してくる。うま味やコクを吸い込んで自分らしさを見せる技に長けているというか。
さて美枝さんのタケノコ料理はまだまだ続く。「子どもが喜ぶかなと思って」作ったのがツナとのマヨ和え。マヨネーズと塩コショウ、ドライバジルで和えている。うーん、大人にも嬉しい味だ。白ワインのつまみにしたくなる。さらにはぬか漬けにしたものが何ともオツな味わいで。酒好きはぜひお試しあれ。
安浩さんはタケノコを掘るところも見せてくれた。ご自宅から車で10分ほど、住宅街のそばにある竹林へ移動。いや、もともと山だったところに住宅街ができたのか。「そうです。私が小さい頃はもう畑や林ばかりでした」と話してくれつつ、ホリと呼ばれる専用の道具でたちまちタケノコを掘り出してゆく。いとも簡単に掘られるが、掘りどきを見定めて形よく掘り出すには相当の年月を要するだろう。
ちなみに向日市を含む乙訓(おとくに)地方は古くから竹の里として知られ、竹取物語ゆかりの地とも言われる。もしや光る竹があるかも・・・なんて取材の合間にちょっと探してしまった。
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【取材風景より】上/タケノコ入りすきやき丼 左/土佐煮 右/木の芽和え
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【取材風景より】上/タケノコのツナマヨ和えトーストのせ 左/若竹煮 右/タケノコのぬか漬け
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【取材風景より】左/腕を振るってくださった岡崎安浩さんの妻・美枝さん 右/新鮮なタケノコを下ゆでしたもの。この下ゆでタケノコが、次々と華麗なるタケノコ料理に変身!
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【取材風景より】岡崎さんの竹林で。タケノコのとんがり頭で割れた地面が収穫時期の合図に。掘り起こすと立派なタケノコがお目見え
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【取材風景より】左/ホリと呼ばれる専用の器具を使い、熟練の技でタケノコを掘る岡崎さん 右/掘り出したばかりのタケノコ
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【取材風景より】タケノコ生産者・岡崎安浩さん。掘り立てのタケノコを手に満面の笑み
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【取材風景より】岡崎さんの暮らす向日市と、長岡京市、大山崎町からなる乙訓地方はタケノコの名産地。街なかから少し歩けば、あちこちに整備された竹林が広がる
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岡崎ふぁーむ
乙訓地方のタケノコは、竹林の地面を藁で覆い、土を被せて育てる京都式軟化栽培法を採用し、色白で繊維質が柔らかいのが特徴。岡崎さんの農園「岡崎ふぁーむ」では希望すれば収穫体験もできて、通販も対応可。贈答向きの貴重な高級品「白子タケノコ」も取り扱いあり。電話、またはInstagram のDMで問い合わせを。
TEL.090-3976-1716
文・白央篤司
はくおうあつし フードライター。「暮らしと食」、郷土料理をテーマに執筆。『オレンジページ』、CREA WEB、ハフポストなどで連載中。主な著書に『にっぽんのおにぎり』(理論社)、『ジャパめし。』(集英社)、『自炊力』(光文社新書)など。企業へのレシピ提供も定期的に行っている
PHOTO/TAISUKE SUZUKI
※メトロミニッツ2022年5月号「行ってきました、農家さんの台所。」に加筆して転載