その野菜の本当においしい食べ方を、人気フードライターの白央篤司さんが、農家さんのキッチンを訪ねて教えてもらう連載エッセイ。栄養豊富で彩りもよくて、お弁当に食卓にと大活躍のブロッコリー。ですが、料理のバリエーションにお悩みの方も多いのでは? ブロッコリーの特産地、名古屋の鈴木さん宅にお邪魔して、ふだんの食べ方を見せてもらいました。
バラエティー豊かな調理で
ブロッコリーの旬を味わう
名古屋市内の緑区にある大高地区へ向かえば、住宅街の中にブロッコリー畑が広がっていた。雪風が吹く中、鈴木伸弥(しんや)さんが収穫にいそしんでいる。鎌を手にひとつずつ手作業の収穫だ。
フリース姿、「お寒くないですかー」と問えば、「動いているとあったかくなるからね!」と笑われる。伸弥さんは農家の三代目で、今年50歳。ブロッコリー作りは父親の代から始められた。ブロッコリーの消費が急増したのは80年代というから、同時期だろうか。大高地区は良産地として消費者から評判と聞く。
濃い緑色の葉の上に、雪のつぶがどんどん溜まっていく。「寒さに強いんです、ブロッコリーは。11月から4月までがうちの収穫期」。妻の昌子(まさこ)さんが「冬のブロッコリーは寒い中じっくり成長するから、重くて硬くなります。だから煮込みなんかに向く。だんだん暖かくなってくると柔らかくなって、揚げたり炒めたりに向きますね」と続けた。うーん、そういう使い分けは考えたことがなかった!
そして鈴木さんたちは14種類ものブロッコリーを育てている。「種類でいえばもっともっとあるんですよ」。収穫まで80日かかるものもあれば、200日ほどかかるものまである。いろいろ交ぜて育てることで、切れ目なく収穫できるようになる。しかし数種見せてもらったも、全然見分けがつかない。「グッと握ってみてください、大丈夫ですから」と伸弥さん。遠慮なく掴ませてもらうと、おお! 触感が違う。詰まり方というか、弾力の感じが違うのだ。味も違うが、専門農家さんでないと分からない程度の違いで、一般的には大差ないとのことだった。
自宅に場所を移して、お料理を見せていただく。まずは味噌汁。そうそう、ブロッコリーっていいだしが出るんだよなあ。茎を煮ると甘みが出て、いい具にもなるんだ。ちなみに鈴木さん、信州味噌と八丁味噌(愛知や岐阜でよく使われる豆味噌)、それぞれの合わせ味噌の3種を気分で使い分けているとのこと。うーん、豊かだ。
そして鶏だし、ニンニク、ごま油、醤油に韓国のりで和えたナムルがおいしい。コリコリ感を活かしたゆで具合がポイント。天ぷらは魚肉ソーセージと一緒に揚げるというアイディアがいいなあ、お子さん達に人気だそう。椎茸と炒めもの、お酒のつまみに最高だと思う。ニンニクで炒めて、しばし酒で蒸し焼きにし、オイスターソースにマヨネーズちょいで仕上げるこのレシピ、真似させていただきます。
「昔このあたりはもうずーっと畑だったんですよ」
平成7年頃の航空写真を見せてくれた。緑色がいっぱいだ。聞けば伸弥さんの畑は、学校給食の残りやスーパーの生ゴミを堆肥にしていると。育ったブロッコリーがまた給食の食材として使われてもいる。循環型農業だ。
地元野菜を食べて育った子たちの中から、農業に興味を持つ子が出てくるといいな・・・なんて思いつつ、お宅を後にした。
【取材風景より】名古屋市の住宅地のなかに広がるブロッコリー畑。お盆前の8月に種まきをして、ハウスの中で育てた苗を9月に畑に植え変える。品種によって栽培期間は異なるが、早いもので11月頃から収穫が始まる。ブロッコリーの収穫はひとつひとつ鎌で刈る手作業だ
【取材風景より】鈴木さんが育てているブロッコリーは全14種類。取材時には、そのうちの3種類を見せてもらった。左から「美緑410」「美緑408」「バンベル」。どれも花蕾の粒の大きさが微妙に違うのだそう。掴んでみると硬さもそれぞれ違うのに驚く
【取材風景より】ブロッコリー栽培が盛んな名古屋市の大高地区で、循環型農業を実践する鈴木伸弥さん(右)と妻の昌子さん。11月~4月半ばまでがブロッコリー、5~6月は玉ねぎを栽培。名古屋市内の学校給食やスーパーから出た生ゴミを堆肥化し、その堆肥と有機肥料を使用している。鈴木さんは自称「除草の鬼」で、徹底した除草作業と虫害・鳥害対策の工夫を重ねて低農薬を心がけている
なごやの農家 woodbell
名古屋市緑区の大高地区で三代続く農家。インスタグラムでは、畑の様子や妻の昌子さんによるブロッコリー料理もアップしている。朝採りブロッコリーはお取り寄せできるほか、毎年5月頃に販売する玉ねぎを使ったオリジナルドレッシングも人気
文・白央篤司
はくおうあつし フードライター。「暮らしと食」、郷土料理をテーマに執筆。『オレンジページ』、CREA WEB、ハフポストなどで連載中。主な著書に『にっぽんのおにぎり』(理論社)、『ジャパめし。』(集英社)、『自炊力』(光文社新書)など。企業へのレシピ提供も定期的に行っている
PHOTO/KEI KATAGIRI
※メトロミニッツ2022年4月号「行ってきました、農家さんの台所。」に加筆して転載