その野菜の本当においしい食べ方を、人気フードライターの白央篤司さんが、農家さんのキッチンを訪ねて教えてもらう連載エッセイ。今回は「栗(九里)より(四里)うまい十三里」の洒落とともに江戸時代から親しまれてきたサツマイモの名産地、埼玉県三芳町へ。代々サツマイモを栽培している3人の農家さんに、いつものおかずやおやつを教わります。
おいも農家が3人集まれば・・・
キッチンで花咲くサツマイモ話
現代ではあまり使われないけれど、「さんざめく」という日本語が好きだ。がやがやするみたいな意味だが、もっと小粋で陽気なニュアンスを私は感じるから。
今、サツマイモ話でキッチンが華やかにさんざめいている。女性3人、とれたての「紅東(べにあずま)」を片手に料理をしつつの楽しいおしゃべり。みなさん三芳町(みよしまち)の農家の夫と結婚して十数年以上、サツマイモ料理歴は半端じゃないのである。
武田志穂美(たけだしほみ)さんちの定番料理は、ポテサラならぬサツマイモサラダと、スティック状に切って唐揚げ粉で揚げたもの。豚バラ肉と一緒に醤油、酒、砂糖で煮つけたのがまたおいしい。「サツマイモの甘み×豚のコク×甘辛味」の相性の良さはもっと知られてほしいぞ。白いごはんがほしくなる味。
甘いといえば大学芋を作ってくれたのが中嶋正美(まさみ)さん。「でもね、揚げないんです。乱切りにして、砂糖と油をまぶして焼くだけ。だから大学芋〝風〟(笑)」。フライパンにフタをして蒸し焼きにし、こんがりしてきたらひっくり返して、大体の面に焼きがつけば完成。簡単でうれしいなあ。聞けば紅東はくずれにくく、いろんな料理に使いやすいとのこと。三芳町は江戸時代からサツマイモの産地で、現在も多くの品種が栽培されている。
「使いやすいといえば『紅(べに)はるか』も。焼き芋にいいよね」「あらすごい、家で焼き芋するの?」「うん、庭で。アルミホイルに包んで落ち葉で」「焼き芋なら『シルクスイート』も甘みが強くて向くよねー」
ほらまたサツマイモ話に花が咲きだした。そして「パープルスイートロード」なる紫芋もお菓子作りなどに向く品種だそう。
「あと『紅赤(べにあか)』がね、おいしいの」と井田志乃(いだしの)さん。「天ぷらが最高、ポクポクしてね」「地元では一番人気だよね!」「ね!」。3人の声がそろう。育てるのが難しい品種ながら120年以上にわたり三芳の地で愛されているのだとか。残念ながら食べ頃は年明けとのことで、今回はいただけなかった。
ちなみに井田さん、あなたの推し料理はなんですか? 「うちは・・・ふかしただけのが一番!」と笑顔の返事。井田さんちのテーブルにはいつも、ふかしたサツマイモがドンと載っているのだそう。それはときにお茶うけであり、ときにおやつであり。ああ、農家さんのおなじみの光景だ。ゆがいたり、ふかしたりしただけの季節野菜がデンと居間にある。各地で目にする、おなじみのもの。私の祖父母の家もそうだったな・・・なんて懐かしく思い出しつつ、今サツマイモをふかしている。我が家の空気がほんのり甘い。
【取材風景より】井田さんのサツマイモ畑。江戸時代前期に開拓された一帯は、もともと水が少なく、風が強く、地力の乏しい地域であったが、木々の落ち葉を堆肥としてすき込む伝統的な「武蔵野の落ち葉堆肥農法」によって豊かな土壌を維持している。取材時期は8月中旬。青々とした葉が黄色を帯びてくると、地中のサツマイモの風味が濃くなり、掘りごろ、食べごろを迎えるそう
丸ビル・新丸ビル・丸の内オアゾで開催
三芳町のサツマイモを味わうフェア!
丸ビル・新丸ビル・丸の内オアゾでは、コロナ禍の生産者を応援するグルメフェアを開催します。その第1弾、10月4日(月)~17(日)開催の「おいもフェア」では、三芳町の農家さんから直送された食べごろのサツマイモを味わう多彩なメニューが登場! ほくほく、甘い三芳町の「紅東(べにあずま)」をお楽しみください。
食べて応援! 秋のグルメフェア第1弾
丸の内×埼玉県三芳町 おいもフェア
開催期間:2021年10月4日(月)~17日(日)
開催場所:丸ビル・新丸ビル・丸の内オアゾ
三芳町川越いも振興会
「富(とめ)の川越いも」の名で江戸時代より人気を集めた三芳のサツマイモ。360年以上続く「武蔵野の落ち葉堆肥農法」は、日本農業遺産にも認定されている。サツマイモ農家が軒を連ねる「いも街道」は、9月~12月頃には、各農家の直販を目当てに遠方から訪ねる人も多い。「富の川越いも」は、三芳町の「ふるさと納税」の謝礼品としても好評
文・白央篤司
はくおうあつし フードライター、料理家。「暮らしと食」、郷土料理をテーマに執筆。『オレンジページ』、CREA WEB、ハフポストなどで連載中。主な著書に『にっぽんのおにぎり』(理論社)、『ジャパめし。』(集英社)、『自炊力』(光文社新書)など。企業へのレシピ提供も定期的に行っている
PHOTO/KEI KATAGIRI
※メトロミニッツ2021年10月号「行ってきました、農家さんの台所。」を転載