市場を席巻する人気のぶどう、シャインマスカットのように、末永く愛されるヒット品種を―。上の写真の、つややかな炊きたての白米は「コウノトリ育むお米」です。近年、各地にコウノトリとの共生を掲げる農業が登場していますが、その元祖が兵庫県豊岡市の、このお米であることをご存じですか? かつて絶滅したコウノトリが、今再び大空を舞う豊岡市へ。お米や米粉スイーツを買える、おすすめスポットもご紹介!
豊かな生態系を未来に!
豊岡の「コウノトリ育むお米」
「コウノトリ “も” 生きていけるということは、人間にとってもいい環境である、ということのバロメーターなのです」
兵庫県豊岡市の米生産者、村田憲夫(むらたのりお)さんに「コウノトリ育む農法」に取り組むわけを尋ねると、そう返ってきました。
コウノトリは、羽を広げると2メートルにもなる大型の鳥。このあたりでは古くは「ツル」と言えばコウノトリを指したそうで、田んぼでエサを獲り、樹上に巣を作ってヒナを育てる姿は、故郷の原風景として親しまれてきました。
ところが、明治時代以降の乱獲や戦後の経済成長期の環境破壊により数が激減。日本で最後の1羽は、1971年に村田さんの田んぼがある一帯で確認されました。
案内してもらうと、冬にもかかわらず満々と水を湛(たた)えた水田が広がっています。聞けば、秋の稲刈り後に米ぬかなどを土にすき込み、水を張ることで、イトミミズなどの土壌生物の活動が盛んになり、翌夏に雑草が生えにくくなるそうです。
農薬や化学肥料に頼らず、こうした水の管理や土作りを工夫する農法は、人工繁殖の取り組みの末にコウノトリの野生復帰に成功した2005年の少し前から、豊岡の生産者たちが苦労して確立してきたもの。
コウノトリは当地の生態系の頂点捕食者であり、「コウノトリ育む」という言葉には、エサとなるドジョウやフナ、カエルやヘビ、野ネズミなどの魚や小動物を含む、豊かな生態系を未来につなごうという想いが込められているのです。
炊きたてを味わうと、粒感が際立つ食べ応えと豊かな米の風味。
「農家の努力が実り、おいしさも理想に追いついてきました。学校給食でも評判がいいんですよ」
そう話す村田さんの笑顔が素敵でした。
PICK UP! >> コウノトリ育むお米
コウノトリのエサとなる魚や小動物が生息できるように、農薬や化学肥料に頼ることなく、おいしいお米と多様な生物を同時に育む「コウノトリ育む農法」で育てたお米。大きめの1.9mmの網目で選別した粒揃いのよい食感と、すぐれた食味が魅力。
豊岡市は、1965年から兵庫県とともにコウノトリの保護・増殖の取り組みを開始。数々の困難を乗りこえて1989年に人工繁殖、2005年に自然放鳥、2007年に野外繁殖に成功し、「必ず野に帰す」というコウノトリとの約束を果たした。
「コウノトリ育むお米」はその歩みのなかで、県と市と生産者が一緒になって生産方法を確立してきた歴史をもつ。2007年からは豊岡市内の学校給食でも提供されている。
名称/コウノトリ育むお米
生産地/兵庫県豊岡市
栽培開始/2002年
交配/ ―
先駆けのまち・豊岡を旅して、味わって。
コウノトリとの絆に触れる3スポット
【SPOT 01】58N musubu
お米のおいしさに感動する、おむすび専門店
「コウノトリ育む農法」で育てた無農薬米が主役のおむすび専門店。お米は「いのちの壱」という品種で、もちっとした食感が特にすばらしい。直球勝負の大粒塩musubi 210円のほか、ポリポリ食感が楽しいSPAMたくあん330円や大葉が爽やかなちりめん明太子マヨmusubi280円など、季節の食材を中心に、お米好きの心をくすぐる多彩な具に迷うこと必至!
58N musubu(ゴーハチエヌ ムスブ)
TEL.0796-23-5378
住所/兵庫県豊岡市加広町5-23
営業時間/11:00 ~ 14:00(なくなり次第終了)
定休日/日・月
※テイクアウトのみ
【SPOT 02】コウノトリ本舗
バラエティー豊かな豊岡みやげが勢揃い!
「コウノトリ育むお米」の無農薬米と減農薬米を、それぞれ3合、2合~と手ごろな量から買えるおみやげ店。その米粉を使ったバウムクーヘンのしっとりもっちり具合は最高。コウノトリ育む農法で育てた酒米を使った日本酒や米焼酎、ハンカチやお箸などのかわいいコウノトリグッズも豊富。
コウノトリ本舗(コウノトリほんぽ)
TEL.0796-37-8222
住所/兵庫県豊岡市祥雲寺14-2
営業時間/10:00~16:00
定休日/月~水(祝日は営業)
※併設の『こうのとりテラスカフェ』では薪窯ボートピザやオリジナル珈琲、「コウノトリ育むお米」を使用したスイーツなどが楽しめる(営業時間、定休日は『コウノトリ本舗』と同じ)
コウノトリ本舗 公式WEB
【SPOT 03】豊岡市立コウノトリ文化館
コウノトリの生態や歴史を知る、学ぶ公開施設
コウノトリと人間との文化的な関わりや野生復帰の歴史を、はく製やパネル、映像で紹介。ウッドデッキからは公開飼育ケージを自然解説員のガイドを聞きながら間近に見学できる。週末には自然観察会の開催も。
豊岡市コウノトリ文化館(とよおかしりつコウノトリぶんかかん)
TEL.0796-23-7750
住所/兵庫県豊岡市祥雲寺127
営業時間/9:00 ~ 17:00
定休日/月(祝日の場合はその翌火休)
入館料/無料(コウノトリ環境協力金100円・任意)
【取材ノート】
豊岡市立田鶴野小学校で6年生の給食を特別に見学させてもらう。同市では、2007年から学校給食で減農薬の「コウノトリ育むお米」の使用が始まった。この3学期は無農薬米を提供しているとのこと。校内放送で「コウノトリ育むお米」をはじめとする地産地消の食材を紹介していた。ごはんの感想を尋ねると「おいしいです!」と児童たちの元気な声が返ってきた。
【INFORMATION】
ふるさと納税でコウノトリ舞う豊岡市を応援しませんか
人と自然が共生するまちづくりを続ける豊岡市。ふるさと応援寄附金の使い道が選べて、お礼の品には特産品の豊岡鞄や城崎温泉の旅館などで使用できる旅行券も。詳しくは豊岡市の公式WEBへ
PHOTO/DAISUKE YANAGI
※メトロミニッツ2024年3月号「今日もどこかで第2のシャインマスカットが生まれている。」に加筆して転載