VOICE OF CHEESE 日本のチーズ職人「百人百話」 Vol.22 東海エリア 日本チーズの“こえ”に出会う旅

更新日:2021/02/20

今、着実に盛り上がりを見せている日本のナチュラルチーズ。国内の工房数は10年前の倍近くに増加し、国際コンクールで入賞を果たすチーズが続々と現れています。生乳を発酵・熟成させて作るナチュラルチーズは、自然の力と職人の製造技術のたまもの。そして何より作り手の想いが込められていることが、おいしさの必須条件です。チーズが生まれる現場から、作り手の“こえ”をお届けする本連載。

VOICE 93 静岡県・富士宮市「いでぼく」井出俊輔さん(左)、花田卓大さん(右)

(画像左)「代々守る生乳の質は他にない強み。しっかり搾ればしっかり作れる、そんな信条を大切にしながら地元に好かれるチーズを作りたい」/「いでぼく」井出俊輔さん、花田卓大さん (画像右上)絶景を望む放牧場脇のカフェでは、フレッシュタイプからセミハードタイプまで、各種チーズを使った料理が味わえる (画像右下)チーズに使うのは、主にブラウンスイス種の生乳。アイスやソフトクリームはジャージー種にするなど、特徴によって使い分ける

目の前には大迫力の富士山! そんな最高のロケーションが堪能できる「いでぼく」は、牧場にカフェや宿泊施設を併設した“カウリゾート”。高速道路のSAなどにソフトクリームショップも展開し、県内での高い知名度を誇ります。一方、関東圏の牧場の乳質を審査する会で最優秀賞を8年連続受賞するなど、その実力は業界内でも知られるところ。「まずは生乳が第一。これは祖父の代から変わりません。

僕は1年365日、寝る前に必ず牛のベッドメイキングのため牛舎を掃除します。日中も常に掃除。衛生的な環境が、生乳の数値に現れるんです」。そう語るのは、3代目の井出俊輔さん。井出さんがチーズ製造を始めたのは2003年、北海道の酪農学園大学を卒業し実家に戻った後。が、習った知識を元に試行錯誤するも、数年間は失敗続き。本格的に技術を学ぼうとイタリアへ渡り、視察に回った井出さんが目の当たりにしたのは、地域ごとに食べ方も製法もまったく異なるチーズの多様性でした。

「それで余計に悩んじゃった(笑)。でもあるとき、職人のおばあちゃんが、『このチーズはこの土地の文化。真似をしなくても、あなたの作り方を見つければいい』と言ってくれて。しっかりした想いさえあれば大丈夫だと思えたんです」。原点に立ち返った井出さんの側にあったのは、3代かけて守ってきた高品質の生乳。「すごい技術はないけれど、この生乳が自慢。余計なものを入れたくなくて、うちのチーズは塩味控えめです」。

製造担当は現在、若手の花田卓大さんにバトンタッチ。まだ経験は浅いものの大のチーズ好き、「今後はウォッシュタイプにも挑戦したい」と意欲的な花田さん。酪農地帯でもある富士宮が「いつか北海道のように、牧場ごとのチーズを楽しめる場所になれば」と語る井出さんと2人で、地域のチーズ文化を牽引します。

(画像左上)井出さんが「研究熱心」と期待を寄せる職人・花田さん (画像右上)母体の「井出種畜牧場」は1960年創業。2カ所の敷地内にホルスタイン、ジャージー、ブラウンスイス種の牛、合計180頭を飼育 (画像左下)ゲスト用トレーラーハウスやシャワールーム、電源などを完備。現在はキャンピングカーでの宿泊を受け入れる。BBQサイトではランチ利用も可能 (画像右下)「ラクレット」(右)1566円/200g、「モッツァレラ」(左)724円/100g(「チーズのこえ(下記参照)」での販売価格。以下同)

いでぼく

TEL.0544-58-6186
住所/静岡県富士宮市北山4404・2
SHOP/直売あり。その他、FAXでの注文可能(0544-58-6186)

VOICE 94 静岡県・掛川市「しばちゃんランチマーケット」柴田佳寛さん

(画像左)「牛の餌や環境の管理など牛飼いの“当たり前”がしっかりできているか。その自負がすべてです」/「しばちゃんランチマーケット」柴田佳寛さん (画像右上)茶畑に囲まれた牛舎 (画像右下)自社で販売・加工する生乳はすべて、約30頭飼育するジャージー牛のもの。乳脂肪分が高く加工向き 

地元では「しばちゃん」の愛称でおなじみの柴田さん。広く親しまれる理由は、長年自社で瓶詰めしたジャージー牛のミルクを市内数百カ所のお客さんに直接届けてきたから。

農薬や化学肥料に頼らず、生産者と消費者が直結した“顔が見える農業”がモットーの「柴田牧場」。ミルクや乳製品の直売所として開いたのが「しばちゃんランチ(牧場)マーケット」です。

柴田さんが親子で製造するチーズは、「うしづまチーズ工場」(左で紹介)や兵庫県の「婦木農場」から習った知識と、「まずはやってみて改善」の試行錯誤で続けてきたもの。

「どこかで修業した訳ではないけれど、それでいい気がして。原点はやっぱり牛飼いですから」。濃厚で風味豊かな生乳から作る独特の味わいに、実直に信念を貫く牧場の歴史が重なります。

(画像左)仕込み量は週100ℓほどだが、さまざまなチーズを製造 (画像右)「サンマルセラン(フレッシュ)」843円/160g

しばちゃんランチマーケット

TEL.090-2342-2725
住所/静岡県掛川市大和田25
SHOP/直売あり

VOICE 95 静岡県・静岡市「うしづまチーズ工場」松下正明さん

(画像左)「食材としてのチーズに魅せられてこの道へ。技術は独学、設備はDIY。自分だけの味を探求中です」/「うしづまチーズ工場」松下正明さん (画像右上)フレッシュ、白カビ、酸凝固など、扱う種類はさまざま (画像右下)毎朝「柴田牧場」まで生乳を取りに行き、週5日、毎日90ℓを仕込む

以前はキッチンカーの営業で成功を納めていた松下さん。「チーズを使った料理を出すと毎回行列ができる。世界中で好まれる流行り廃りのない食材だし、それなら自分でチーズを作って売ってみようと思ったんです」。元々何でも自分でやってみるタイプ。

2017年に工房併設のカフェをオープンすると、独学で製造を開始、早くも翌年のコンテストで複数の賞を受賞しました。

力を入れるのは、料理の幅を広げてくれるブルーチーズ。2019年にはノート片手に本場フランス・オーベルニュ地方へ渡り研修を受けましたが、「最終的には、海外のまねではない自分の味を作れたら」。

DIYで熟成庫や作業室を増設し、駿河湾の海産物から採取した乳酸菌でチーズを作る計画も。好奇心全開の自由度が松下さんの持ち味です。

(画像左)カフェで提供するチーズ料理もさすがの美味しさ (画像右)「蒼~Sou~」 940円/50g

うしづまチーズ工場

TEL.054-294-9300
住所/静岡県静岡市葵区牛妻538-1
SHOP/直売あり(カフェ「チェスターハウス」内)

VOICE 96 愛知県・西尾市「酪」榊原栞さん

(画像左)「オランダで学んだ技術で食べやすいゴーダを製造。日本の食卓に合うチーズから酪農を身近に感じてほしい」/「酪」榊原栞さん (画像右上)もうひとりの職人が担当するモッツアレラなども好評。ゴーダは熟成期間の違いで2種を販売 (画像右下)牧場見学や製造体験のアテンドも榊原さんの仕事

2009年、愛知県西尾市の「北村牧場」と「小笠原牧場」が協同で始めた「酪」。現在ここでゴーダの製造を担うのが、地元出身の榊原さんです。愛知県立農業大学校を卒業後、オランダのチーズ農家へ1年間留学し、本場の製造技術を学んだ榊原さん。

「仔牛が生まれ、母牛が乳を出し、その生乳でチーズを作ってお客さんに届ける。現地でそうした一連の流れに触れ、よりチーズへの想いが深まりました」。

帰国後、迷わず就職先に選んだのは、学生時代の研修先だった「北村牧場」。酪農、製造、販売すべてに関われる理想の環境で腕を振るいます。

まだ20代半ばながら、ゴーダのなめらかさとクリーンな風味は、熟練の職人技。「日本の食卓にもっとチーズが並べば嬉しい。ぜひ醤油や味噌、納豆とも合わせてみてください」

(画像左)ゴーダの仕込みは月2回ほど (画像右)「ゴーダチーズ」 745円/110g

TEL.0563-56-7275
住所/愛知県西尾市菱池町大道54
SHOP/直売あり。その他、その他、西尾市「道の駅 にしお岡ノ山」、名古屋市「ミルクスフレッシュチーズ アンド ワイン」(直営店)などで販売

【東京でも4人のチーズが買えます!】SHOP|清澄白河「チーズのこえ」

今回紹介した4つの工房のチーズを東京で購入するなら、日本で唯一の国産ナチュラルチーズ専門店「チーズのこえ」へ。チーズコンシェルジュが選んだ約40工房、年間300種類以上のチーズを取り揃えています。

TEL.03-5875-8023
住所/東京都江東区平野1-7-7 第一近藤ビル1F
営業時間/11:00~19:00
定休日/不定休

名店のシェフが教える日本チーズを使った絶品レシピ

今回紹介したチーズ工房「いでぼく」のチーズを使ったレシピを、東京・清澄白河にあるイタリア料理店「KOKUSHO」のシェフ・国生隆蔵さんに教えていただきました。

メトロミニッツ「日本ワインの現在地」特集

メトロミニッツ2021年3月号「リトルプレスで旅するローカル」特集

旅先で垣間見る、その町の"日常" にワクワクしたことはありませんか? 食べるものや文化、暮らし、流れる時間の速度・・・。同じ日本なのに、まるでパラレルワールドを歩いているような気分。そんなローカルの日常を伝えてくれるのが、ご当地発のリトルプレスたち。この特集では、ローカルで丁寧に作られた旅心くすぐる本に、"クラフトzine"と新たな名前を付けて集めました。さぁ、いつもの旅とは違う、クラフトzineに導かれる旅へ出発です。

後援:独立行政法人 農畜産業振興機構「国産チーズ競争力強化支援対策事業」

Photo TAMON MATSUZONO Text RIE KARASAWA
※メトロミニッツ2021年3月号「リトルプレスで旅するローカル」特集の記事転載
※本ページで記載の価格は全て「チーズのこえ」の販売価格となります
※掲載店舗や商品などの情報は、取材時と変更になっている場合もございますので、ご了承ください

※記事は2021年2月20日(土)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります