VOICE OF CHEESE 日本のチーズ職人「百人百話」 Vol.21 北海道・十勝エリア 日本チーズの“こえ”に出会う旅

更新日:2021/01/20

今、着実に盛り上がりを見せている日本のナチュラルチーズ。国内の工房数は10年前の倍近くに増加し、国際コンクールで入賞を果たすチーズが続々と現れています。生乳を発酵・熟成させて作るナチュラルチーズは、自然の力と職人の製造技術のたまもの。そして何より作り手の想いが込められていることが、おいしさの必須条件です。チーズが生まれる現場から、作り手の“こえ”をお届けする本連載。

VOICE 89 北海道・池田町「ハッピネスデーリィ」嶋木正一さん

(画像左)「どうしたら美味しく作れるか、その好奇心だけで走った数十年。ワインと共に池田町を支える名産品になれば嬉しいです」/「ハッピネスデーリィ」嶋木正一さん (画像右上)ワイン醸造所「池田町ブドウ・ブドウ酒研究所」のレストランでは、「ハッピネスデーリィ」のチーズを使った料理が楽しめる。「ラクレットのピッツァ」1000円 (画像右下)「 森のカムイの葉野菜サラダ」350円 

北海道・池田町と言えば、1960年代からワイン生産に取り組むパイオニア「十勝ワイン」が有名ですが、もうひとつのパイオニアがこの「ハッピネスデーリィ」。1990年に酪農家として日本で初めてジェラートの加工を始め、チーズや乳飲料の製造もスタート、多くの同業者に影響を与えたのが嶋木正一さんです。

きっかけは、父から継いだ「嶋木牧場」の経営を軌道に乗せていた35歳の頃。研修で滞在したアメリカの牧場で、酪農家が自ら自家製アイスを販売しているのに衝撃を受けた嶋木さんは、その後「ハッピネスデーリィ」を立ち上げ、加工に挑戦することに。とは言え「それまで牛しか相手にしてこなかったから、初めてのことばかり。計画なしに立ち上げちゃって(笑)、最初はお金もなくて悲惨でした」と嶋木さん。

聞けば、その軌跡は開拓者そのもの。最初に始めたスーパープレミアムアイスは、帯広畜産大学で製法を学び、本場イタリア仕込みのジェラートを日本に広めたことで知られるバリスタに指導を仰ぎ、その8年後に始めたチーズは、妻とともにスイスへ渡り、現地のチーズ学校とボルニク親方から学んだ日本人女性と製造に取り組みました。

一農家の立場にとらわれず牧場の外へ出向き、道を切り開いてきた嶋木さん。数々の失敗を乗り越える原動力は、あふれ出す好奇心だったと言います。現在は妻と娘が中心となり、アイスやジェラート、チーズの他、スイーツも販売。「嶋木牧場」の生乳を、搾乳後5分以内というホカホカの状態で加工して作る商品は、どれも地元が誇る美味しい名物に。

牧場の経営を息子に譲った今も「毎朝牛舎に行って作業しないと気が済まなくて」と語る嶋木さんは、御年73歳。今だ衰えない酪農への愛が滲むその笑顔に、工房名でもある“幸せな酪農(デーリィ)”のイメージが重なります。

(画像左上)パルメザンチーズをモデルに7カ月以上熟成させて作る「森のカムイ」は、コンテストの受賞歴も多数。工房内は、重力を利用して生乳を移動させるなど、女性が作業しやすい構造に。現在仕込む生乳量は毎月1000~2000ℓほど (画像右上)夏場は観光客で混雑するショップ兼カフェ (画像左下)地元のぶどうを使ったワインとチーズのマリアージュは、嶋木さんもお気に入り (画像右下)「ラクレット」(右)734円/100g、「森のカムイ」(左)961円/100g(「チーズのこえ(下記参照)」での販売価格)

ハッピネスデーリィ

TEL.015-572-2001
住所/北海道中川郡池田町清見103-2
SHOP/直売あり(3月31日まで冬季休業)。その他、帯広市「藤丸百貨店」、千歳市・新千歳空港内「Wine&Cheese北海道興農社」などで販売

VOICE 90 北海道・中札内村「十勝野フロマージュ」赤部順哉さん(左)、赤部貴紀さん(右)

(画像左)「父から受け継いだカマンベールとともにマイルドで食べやすい多彩なチーズを提案」/「十勝野フロマージュ」赤部順哉さん、赤部貴紀さん (画像右上)白カビタイプを中心に、10種以上のチーズが揃う (画像右下)広々とした売店も併設 

創業者は、国産チーズの黎明期に十勝での技術普及に尽力した赤部紀夫さん。大手乳業会社時代に本場・フランスのノルマンディでカマンベール作りを学んだ紀夫さんが、定年退職後の2000年に家族で始めた小さな工房は、今では週に5日、毎日2tの生乳を加工する規模に成長。活性炭を活用するクリーンな製造環境でチーズ作りを続けています。

現在の代表は元音楽教師で物腰柔らかな長男・順哉さん、工場長は元自動車整備士で職人肌の三男・貴紀さん。エネルギッシュな紀夫さんとは異なる個性の2人ですが、チーズへの想いは同じ。

父が大切にしてきた白カビタイプに加え、セミハードやブルーチーズの品揃えを増やして新たな風を吹き込む一方、工房の代名詞でもあるマイルドで柔らかな味わいを守ります。

(画像左)2010年に現在の場所に工房を移し、生産量を増強。車で数分の場所にある指定牧場の生乳を使う (画像右)「おいしいカマンベール」2052円/250g(「チーズのこえ(下記参照)」での販売価格)

十勝野フロマージュ

TEL.0155-63-5070 
住所/北海道河西郡中札内村西二条南7-2
SHOP/直売あり。その他、千歳市・新千歳空港内「Wine&Cheese北海道興農社」、東京・千代田区「北海道どさんこプラザ有楽町店」などで販売

VOICE 91 北海道・上士幌町「チーズ工房 シロベル」髙木頼子さん

(画像左)「美味しい農家製チーズを地元のみなさんに届けたい。お客さんや仲間との会話がエネルギーの源です」/「チーズ工房 シロベル」髙木頼子さん (画像右上)ゴーダ、モッツァレラ、ストリングが定番 (画像右下)しゃれたパッケージは札幌のデザイナーが手掛けたもの

十勝北部・上士幌町の「髙木牧場」内に、町で唯一のチーズ工房が誕生したのは2011年。娘と二人三脚で工房を切り盛りする代表の髙木さんは、笑顔の絶えない農家のお母さんです。

「ここを始めたのは、自作のチーズをみんなに食べてもらいたかったから。ずっと、いつかはチーズ作りをと思っていたの。このまま人生が終わるのもつまらないなって(笑)」。各地の研修施設や講演会に出向いて貪欲に技術を学び、今では全国に顔見知りの生産者仲間を持つ髙木さん。

チーズは月に2日、合計約200kgの生乳を加工する少量生産ですが、その腕前は味わいに顕著です。「ストリング」は繊細に裂け、食感はしっとりと上品。「身体に負担をかけず、料理にも使いやすいように」と塩味を控えた、優しい癒し系の美味しさに。

(画像左)牧場には約400頭の牛が。生まれた子牛の飼育も髙木さんの仕事 (画像右)「ストリングチーズ」972円/100g(「チーズのこえ(下記参照)」での販売価格)

チーズ工房 シロベル

TEL.01564-2-3283 
住所/北海道河東郡上士幌町字上音更基線288
SHOP/直売なし。上士幌町「Aコープ上士幌店 ルピナ」などで販売

VOICE 92 北海道・鹿追町「鹿追チーズ工房」井上正裕さん

(画像左)「大手を経て工房を設立し、チェダー製造歴は40年近く。大量生産では出せない味、日本独自の味を実現させたい」/「鹿追チーズ工房」井上正裕さん (画像右上)黒にんにくを混ぜた「黒旨」(右)などアレンジチェダーが充実。他にゴーダなども製造 (画像右下)チーズ入りソーセージはギフトに人気

昔はチーズ嫌いだったという井上さん。農業高校卒業後に就職した大手乳業会社では、不幸にもチーズ担当に・・・・・・と思いきや、その奥深さに開眼。以来、17年半に渡りチェダーの製造を担いました。

2000年に元同僚と3人で独立する際、設立場所に選んだのは、社内でも高品質な生乳の産地と位置付けられていた鹿追町。「ヨーロッパの製法に頼らず、日本のミルクの乳質を活かす“ジャパン・チェダー”を確立したい。それが今の夢ですね」。

得意先に自作のおせちを配るほど料理上手な井上さん曰く、「チェダーは食材向きのチーズ」。15カ月以上長期熟成させた「プレミアムチェダー」は穏やかな香りと濃厚なうまみで、そのままで美味しいのはもちろん、料理に使えば風味がぐんと豊かに。ジャンルを問わず活躍します。

(画像左)同じ鹿追町内産の生乳を週3~4日のペースで加工 (画像右)「プレミアムチェダー」1296円/110g(「チーズのこえ(下記参照)」での販売価格)

鹿追チーズ工房

TEL.0156-67-2537
住所/北海道河東郡鹿追町瓜幕南2-26-2
SHOP/直売あり。その他、札幌市・JR札幌駅内「北海道どさんこプラザ 札幌店」、千歳市・新千歳空港内「さっぽろ東急百貨店 新千歳空港売店」などで販売

【東京でも4人のチーズが買えます!】SHOP|清澄白河「チーズのこえ」

今回紹介した4つの工房のチーズを東京で購入するなら、日本で唯一の国産ナチュラルチーズ専門店「チーズのこえ」へ。チーズコンシェルジュが選んだ約40工房、年間300種類以上のチーズを取り揃えています。

TEL.03-5875-8023
住所/東京都江東区平野1-7-7 第一近藤ビル1F
営業時間/11:00~19:00
定休日/不定休

名店のシェフが教える日本チーズを使った絶品レシピ

今回紹介したチーズ工房「ハッピネスデーリィ」のチーズを使ったレシピを、東京・清澄白河にある中国料理店「O2」のシェフ・大津光太郎さんに教えていただきました。

メトロミニッツ「日本ワインの現在地」特集

メトロミニッツ2021年2月号「日本ワインの現在地」特集

リニューアルしたメトロミニッツの第1弾となる特集は「日本ワインの現在地」。皆さんは1年間で何本の日本ワインを飲んでいますか?どうやら日本人が1年間で飲む日本ワインの本数は、平均するとわずか約0.2本だそうです。そこでメトロミニッツからのご提案は「普段何気なく飲んでいる1 本のワインを日本ワインに変えてみませんか?」。今、日本ワインが非常においしくなっているのです。ワイナリーは400軒近くまで増え、各地でワインと真摯に向き合う造り手がたくさんいます。そんな光景に思いを馳せながら、同じ日本で生まれたワインを飲めば、きっと日常がほんの少し豊かになるはずです。

後援:独立行政法人 農畜産業振興機構「国産チーズ競争力強化支援対策事業」

Photo TAMON MATSUZONO Text RIE KARASAWA
※メトロミニッツ2021年2月号「日本ワインの現在地」特集の記事転載
※本ページで記載の価格は全て「チーズのこえ」の販売価格となります
※掲載店舗や商品などの情報は、取材時と変更になっている場合もございますので、ご了承ください

※記事は2021年1月20日(水)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります