VOICE OF CHEESE 日本のチーズ職人「百人百話」 Vol.20 北陸エリア 日本チーズの“こえ”に出会う旅

更新日:2020/12/20

今、着実に盛り上がりを見せている日本のナチュラルチーズ。国内の工房数は10年前の倍近くに増加し、国際コンクールで入賞を果たすチーズが続々と現れています。生乳を発酵・熟成させて作るナチュラルチーズは、自然の力と職人の製造技術のたまもの。そして何より作り手の想いが込められていることが、美味しさの必須条件です。チーズが生まれる現場から、作り手の“こえ”をお届けする本連載。

VOICE 85 富山県・黒部市「ヤギチーズ専門店 Y&Co.」 吉田朋美さん

(画像左)「歌手活動のかたわら、 思いがけず進んだ職人の道。 地元産原料100%のチーズから 黒部の自然を感じてください」/ヤギチーズ専門店 Y&Co.」 吉田朋美さん (画像右上)セミハードやソフトタイプの他、リコッタやヨーグルトもラインアップ。飲食店からの注文も多い (画像右下)数々の受賞歴が、チーズのレベルを物語る

「山羊のミルクからチーズを作るのが、家族で叶えたい夢の一つ。チーズ職人になってほしい」。2012年のお正月、食卓で飛び出した父の一言が、吉田さんの人生の分岐点。「当時はNYの音大を卒業後、歌手として活動しながら働いていました。山羊のチーズなんか食べたこともなくて(笑)。でも食に興味があったし、楽しそうだと思って心を決めました」。

大の山羊チーズ好きの父・忠裕さんは、ファスナーの世界的シェアで知られる「YKK」の前会長。一家の故郷・富山県から世界に誇れる6次産業をと、既に黒部市で山羊の繁殖・飼育を始めていたそう手始めに農大の講座に通いながら、世界中の山羊チーズを取り寄せ食べ比べた吉田さん。一番美味しいと感じたイタリアのチーズ技術を学ぶため、翌年にはピエモンテ州の職人の下で修業を始めます。

吉田さんが“神様”と呼ぶ師匠から何度も言われたのは、チーズは作る土地に根差す食べ物だということ。「神様は畑の野菜や果樹の葉も自由に製造に取り入れる。チーズの可能性は無限大だと感じました」。海風が吹く黒部の牧草地で育つ山羊の生乳と、富山湾の海洋深層水から作られた塩を使った吉田さんのチーズは、2015年、イタリアの山羊チーズコンクールで最高賞を受賞。さらに2020年、市内の「飯澤醤油味噌店」のしょうゆを混ぜ込むソフトタイプの「カプリーノしょうゆ」が、「ジャパンチーズアワード」で金賞を受賞しました。

創業当時に父と目指した「世界と勝負ができるチーズ」という目標が現実となった今も、「今後は地元で取れた乳酸菌を使いたい。ブルーチーズにも挑戦できれば」と意欲的な吉田さん。職人生活と歌手活動を両立しながら、黒部の魅力を発信します。「チーズも音楽も日常を豊かにするもの。毎日の暮らしを彩る存在にできれば、何よりうれしいです」

(画像左上)創業当初は北海道「共働学舎」出身の職人と共に製造。現在は吉田さんを中心に、週7日作業に励む (画像右上)飼育専門のスタッフが、約70頭の山羊の世話を担当。乳量や脂肪分を1頭ずつデータ化し、乳質向上に活かす。山羊は極力放牧し、草をたっぷり食べさせることを心がける。年間を通じ脂肪分が高いのが特徴 (画像左下)牧場近くから眺める富山湾の絶景。海風を浴びた牧草はミネラルが豊富 (画像右下)「カプリーノしょうゆ」(右)2138円/80g、セミハードチーズ「ラ・カプラ」(左)1868円/100g(「チーズのこえ(下記参照)」での販売価格)

ヤギチーズ専門店 Y&Co.

TEL.0765-32-5165
住所/富山県黒部市宇奈月町栃屋字広谷4くろべ牧場まきばの風(Y&Co.チーズ加工舎)
SHOP/直売あり(予約制、月火木金の午前のみ)。その他、富山市「藤吉 富山店」、東京都中央区「日本橋とやま館」などで販売

VOICE 86 福井県・福井市「ブッラータ専門工房 Chee Bo」渡邉なりひろさん(左)、Chakoさん(右)

(画像左)「50歳を過ぎて出合ったブッラータに夢中。夫婦二人三脚で営む国内初の専門店です」/「ブッラータ専門工房 Chee Bo」渡邉なりひろさん、Chakoさん (画像右上)中から流れ出るストリングチーズの繊細さにこだわる (画像右下)仕事へのチャレンジ精神と実直な向き合い方に、元ラガーマンの片鱗が

巾着型のモッツァレラの中に、繊維状にカットしたモッツァレラと生クリームをたっぷり閉じ込めたブッラータ。渡邉夫妻の自信作は、今や海外の星付きレストランでも採用される逸品です。

元ラグビー日本代表の経歴を持つ夫・なりひろさん。50歳を過ぎ、妻・Chakoさんと共に向き合える仕事として選んだのが、未経験のチーズ作りでした。スーパーで買えるチーズより、目新しさのあるものをと始めたブッラータでしたが、今やすっかりその可能性に惚れ込む2人。

トリュフやガーリックといったフレーバー付きブッラータを考案するなど、独創性が光ります。どんなに人気が出ても、朝一緒に牧場まで生乳を取りに行き、1日60個のみを作るスタイルを変えるつもりはなし。夫婦でみつけた天職に真剣勝負で挑みます。

(画像左)車で40分ほどの「田嶋牧場」の生乳を使用 (画像右)「ブッラータ プレーン」1598円/150g(「チーズのこえ(下記参照)」での販売価格)

ブッラータ専門工房 Chee Bo

TEL.0776-34-2021
住所/福井県福井市渕4-1536
SHOP/直売なし

VOICE 87 新潟県・新潟市「ロイアルヒルホルスタインズ」坂井武史さん(左)、美幸さん(右)

(画像左)「牛の幸せを想いながら楽しく作るのがモットー。生乳の質が活きたチーズを米どころの新たな名物に」/「ロイアルヒルホルスタインズ」坂井武史さん、美幸さん (画像右上)味噌やバジルのフレーバーを付けたチーズ、ヨーグルトも定番 (画像右下)県産の飼料用米「新潟次郎」

牧場があるのは、米どころ・越後平野。阿賀野川からの風が吹き抜ける居心地の良い牛舎で、自家栽培の牧草や米を与えて牛を育てる坂井家。

夫・武史さんと牛の世話をしながらチーズを作る妻の美幸さんは、「とにかくこの仕事が楽しい!」と言い切る生粋の酪農家です。チーズを始めたきっかけは、自分たちで搾る生乳から酪農の魅力を伝えられる加工品を作りたいという想いから。宣伝も打たず少量生産でスタートしたチーズは口コミで人気が広がり、7年ほど経つ今は生産量も5倍に。そのほとんどが地元のファンに売れる地域の名産品となりました。

「幸せに暮らす牛からは、いい生乳が出るはず」と美幸さん。フレッシュなミルクの風味が溢れ出る代表作のモッツァレラに、笑顔の絶えない牧場の景色が重なります。

(画像左)約50頭の牛が暮らす牛舎。隣の工房で、週5日、1日約40ℓの生乳を加工する (画像右)「そのままおいしいソフトモッツァレラ」864円/100g(「チーズのこえ(下記参照)」での販売価格)

ロイアルヒルホルスタインズ

TEL.090-4746-6670
住所/新潟県新潟市江南区横越東町2-24-2
SHOP/直売なし。新潟市「新潟伊勢丹」、新潟市「ナチュレ片山 本店」などで販売

VOICE 88 新潟県・佐渡市「佐渡乳業」後藤美佐子さん

(画像左)「万人受けする味わいに加え熟成の楽しみも提案したい。コンクール受賞経験を糧に島のチーズ文化を支えます」/「佐渡乳業」後藤美佐子さん (画像右上)モッツァレラやゴーダなど、食べやすく奇をてらわないラ
インアップが揃う (画像右下)漁業のイメージが強い佐渡島だが、実は酪農も盛ん

明治期から乳製品加工が行われるなど、酪農が盛んな佐渡島。島内の酪農家が共同経営する「佐渡乳業」では、厳しい衛生基準による高品質な生乳を生産・加工しています。

10年前からチーズ製造を担う後藤さんは佐渡出身。北海道の農業大学を卒業後、新潟市内の食品会社で働いていましたが、「いつか地元に帰ったら、慣れ親しんだ『佐渡乳業』の製品作りに関りたい」と考えていたそう。

適材適所とはまさにこのこと、食べやすさの中に確かな技術が光るチーズは、国内外で賞を受賞。カマンベールを県産たまり味噌に漬け込んだ「雪の花みそ漬け」は2020年、26カ国が参加する権威ある国際コンクールで銀賞を受賞し話題となりました。「地元にチーズの奥深さを広めたい。ぜひ、熟成が進んだ味わいも楽しんで」

(画像左)工房に近い酪農家の生乳を6時間以内に加工 (画像右)「農場カマンベール雪の花みそ漬け」1242円/100g(「チーズのこえ(下記参照)」での販売価格)

佐渡乳業

TEL.0259-63-3151
住所/新潟県佐渡市中興122-1
SHOP/直売あり(直売所「みるく・ぽっと」)。その他、新潟市「ぽんしゅ館 新潟驛店」、東京都・千代田区「上越妙高 雪國商店 新潟食の蔵」(「東京交通会館」内)で販売

【東京でも4人のチーズが買えます!】SHOP|清澄白河「チーズのこえ」

今回紹介した4つの工房のチーズを東京で購入するなら、日本で唯一の国産ナチュラルチーズ専門店「チーズのこえ」へ。チーズコンシェルジュが選んだ約40工房、年間300種類以上のチーズを取り揃えています。

TEL.03-5875-8023
住所/東京都江東区平野1-7-7 第一近藤ビル1F
営業時間/11:00~19:00
定休日/不定休

名店のシェフが教える日本チーズを使った絶品レシピ

今回紹介したチーズ工房「ヤギチーズ専門店 Y&Co.」のチーズを使ったレシピを、東京・市ケ谷のイタリア料理店「Trattoria Suolo dal Suolo」のシェフ・吉田博之さんに教えていただきました。

メトロミニッツ「タイムカプセル2020」特集

メトロミニッツ2021年1月号「タイムカプセル2020」特集

2020年は予期せぬ事態に見舞われ、誰にとっても歴史に残る1年だったのではないでしょうか。だからこそ、2020年の記録や記憶を残しておきませんか? と言うわけで、今月のテーマは、「メトロミニッツが“タイムカプセル”になる」。メトロミニッツを“タイムカプセル”として、10年間、本棚に保管しておいてください、というご提案をします。10年後、再びページをめくってみると「2020年」がよみがえってくるという1冊です。ページの大半は、インタビュー記事。様々な方のお話を通じて、“タイムカプセル”に入れるべく集めたのは「2020年の記憶」です。「今年、思ったこと。取り組んだこと」や「10年後は、どうなっていてほしいか。自分がどうなっていたいか」をお聞きしました。そこには今年らしい発想や価値観が詰まっていると思いますので、10年後に読み返し、時代の節目であったであろう2020年の記憶をぜひ呼び起こしていただけたら幸いです。

後援:独立行政法人 農畜産業振興機構「国産チーズ競争力強化支援対策事業」

Photo 松園多聞 Text 唐澤理恵
※メトロミニッツ2021年1月号「タイムカプセル2020」特集の記事転載
※本ページで記載の価格は全て「チーズのこえ」の販売価格となります
※掲載店舗や商品などの情報は、取材時と変更になっている場合もございますので、ご了承ください

※記事は2020年12月20日(日)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります