VOICE77 北海道・滝上町「月のチーズ」月村良崇さん
舌に乗せた瞬間すっと溶けるきめの細かさ、口中に広がる爽やかな酸味・・・既存のクリームチーズ像を覆すそんな口当たりと風味が、「月のチーズ」の持ち味です。「安定剤や増粘剤は使いません。立ち上げ当初はそういう作り方を知っている人がいなくて、イメージに近い輸入チーズの乳酸菌や水分量を分析するところから始めました」。そう話すのは代表の月村良崇さん。
2005年に家族で人口2500人の小さな町・滝上に移住、工房を始めた月村さんですが、出身地は東京都。滝上町との所縁は小学生時代に遡ります。「町内で開催される課外キャンプで農作業を手伝ったら面白くて。休みのたびに滝上を訪れ、中学生になる頃には住み込みで手伝いをしていました」。
当時、酪農作業に触れた経験こそが月村さんの原点。その後、農業高校で酪農を学び、農家をサポートする“酪農ヘルパー”として働いた後「チーズの製造は30代でもできるけど、営業は身体が動くうちだけ」と、東京の大手チーズ商社に就職。4年間でチーズの目利きと経営をみっちり勉強し、晴れて“第二の故郷”で独立、職人デビューを果たしました。
子どもの頃からの夢を着実に実現させるぶれない行動力に加え、世界中の生産現場や流通事情を知るグローバルな観点が、月村さんの強み。「チーズに使用している村田牧場の生乳は、脂肪分、たんぱく質などの無脂固形分が多く、風味がめちゃくちゃ良いんです。その特性をそのまま生かすなら、やっぱりフレッシュタイプがいい」と、主力はクリームチーズとフロマージュブランに。
開業当初から欧州での販売も視野に入れています。「本当に美味しいものは、日本人が食べても海外の人が食べても美味しいはず」。日本の小さな工房のチーズが、欧州の食卓に並ぶ。ちょっと誇らしくなれるそんな光景が、実現する日も近いかも。
月のチーズ
TEL.0158-29-2852
住所/北海道紋別郡滝上町札久留
SHOP/直売なし、FAXでの注文可(FAX 0158-29-2852)
その他、滝上町「道の駅 香りの里たきのうえ」、新千歳空港「Wine & Cheese北海道興農社」などで販売
VOICE 78 北海道・豊富町「あぐりネット宗谷 工房レティエ」久世薫嗣さん(左)田中あもさん(右)
工房の創立者の薫嗣さんと、経営を引き継いだ娘・あもさん。にぎやかで笑いの絶えない2人ですが、その半生は波乱万丈です。大量生産化が進む農業に異を唱えた薫嗣さんが、家族を連れ兵庫県から豊富町へ移住したのは1989年のこと。家も農地も一から作る自給自足生活を始めた一家はやがて酪農家として地域に馴染み、薫嗣さんは地元の社会貢献活動を牽引してきました。
その後、酪農家仲間と共にチーズの技術を学び、自家製“農家チーズ”を作り始めたのが「工房レティエ」発足のきっかけ。数年前にがんを患った薫嗣さんに代わり、家族の歴史が詰まった工房を引き受けたあもさんは、「若い人にも食べてほしい」と、クセのないチーズを目指します。
最近では、あもさんの夫・真生さんが近所に牧場を設立、100%道産飼料で牛を育て、生乳を搾る計画も。「酪農は“無”から“有”を生み出す素晴らしい仕事」と薫嗣さん。その想いを託したチーズには、全国に顔の見えるファンがついています。
VOICE 79 北海道・美深町「チーズ工房 プティフロマージュ」須藤民篤さん(右)目黒英二さん(左)
秋は錦に織りなす紅葉、冬は一面の銀世界に包まれる美深町。豊かな自然の中に佇む「プティフロマージュ」は、何人もの志が繋がり誕生した工房です。以前ここにあったのは、埼玉から移住しこだわりのチーズを作っていた田中孝幸さんの「チーズ工房 羊飼い」。田中さんが工房をたたむ際、「美深産チーズの味を守りたい」と動いたのが、近隣の名寄市でイタリア料理店を営む須藤さんでした。
地元出身の友人・目黒さんを職人にスカウトし、2018年、設備と技術を引き継ぎ「プティフロマージュ」を開業。チーズ製造は初挑戦の2人の強力な後押しとなったのは、「個性的で、他のミルクとは別物!」と声を揃える「塩崎牧場」の生乳との出合いです。
牛に高カロリーな穀物飼料を与えず、1年を通じ牧草のみを食べさせる「塩崎牧場」では有機認証も取得。業界内でも注目の生乳の複雑な味わいは、チーズの唯一無二の魅力に。同世代の料理人、職人、酪農家のタッグが生んだ美深の名産品です。
チーズ工房 プティフロマージュ
TEL.01656-8-7719
住所/北海道中川郡美深町仁宇布215・2
SHOP/直売なし。美深町「道の駅びふか」、札幌市「チーズの店コンテ」などで販売
VOICE 80 北海道・興部町「パインランドデーリィ」佐藤愛弓さん
1954年に1頭の乳牛から始まった「パインランドファーム」は、今や1700頭の牛が暮らす界隈一のメガファーム。牛の管理をスマートフォンで行うシステムの導入や糞尿のバイオガスエネルギー化など、さまざまな取り組みを行う傍ら、乳製品加工にも力を入れてきました。
チーズやソフトクリームなどの加工部門で主任を務める佐藤さんは、現在入社3年目。東京で働いた後、故郷・北海道へUターンした佐藤さんですが、「どうせ戻るなら知らない場所へ」と、出身地の空知から離れた興部で未経験の職種に就いたバイタリティの持ち主です。
一番人気のチーズ「おやつだよ。こどもッツァレラ」は、ころんと小さく食感はむっちり。ぱくぱくつまめば、童心に帰るような楽しさが。「凝ったチーズより、優しく年齢を選ばない味にしたい。作り方を少し変えるだけで味に反映されるのが、チーズ作りの面白さ」と佐藤さん。勉強熱心な職人の今後に期待が高まります。
パインランドデーリィ
TEL.0158-82-2033
住所/北海道紋別郡興部町字北興40
SHOP/敷地内のショップ「パインランドファクトリー仔牛のはなさき店」で直売あり。その他、興部町「道の駅おこっぺ」、東京都・千代田区「北海道どさんこプラザ有楽町店」(12月まで)などで販売
【東京でも4人のチーズが買えます!】SHOP|清澄白河「チーズのこえ」
今回紹介した4つの工房のチーズを東京で購入するなら、日本で唯一の国産ナチュラルチーズ専門店「チーズのこえ」へ。チーズコンシェルジュが選んだ約40工房、年間300種類以上のチーズを取り揃えています。
TEL.03-5875-8023
住所/東京都江東区平野1-7-7 第一近藤ビル1F
営業時間/11:00~19:00
定休日/不定休
名店のシェフが教える日本チーズを使った絶品レシピ
今回紹介したチーズ工房「月のチーズ」の「フレッシュクリームチーズ」を使ったレシピを、銀座「GINZA chez tomo」の副料理長・柳澤秀司さんに教えていただきました。
メトロミニッツ2020年12月号「TOKYO FOOD JOURNAL 2020」特集
今年の「食」のシーンを振り返り、時代のキーワードをピックアップ。東京の「食」の豊かさを総決算してみよう、というテーマで、2015年の年末に始まった特集「東京フードジャーナル(TFJ)」。今回で3回目となります。本当は、今年オリンピックが来て、東京の「食」のシーンに新たな動きがあるはずだと、この特集に再び挑戦する予定でした。しかし、今、想像していたのとは全く違う世の中に。それでもメトロミニッツは東京の豊かな「食」の話題を求め、街へ出ることにしました。今、何かに取り組む人々に会いに行き、コロナ禍でも光っている時代のキーワードを見つける、東京の「食」めぐり2020をお届けします。
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後援:独立行政法人 農畜産業振興機構「国産チーズ競争力強化支援対策事業」
Photo 松園多聞 Text 唐澤理恵
※メトロミニッツ2020年12月号「TOKYO FOOD JOURNAL 2020」特集の記事転載
※本ページで記載の価格は全て「チーズのこえ」の販売価格となります
※掲載店舗や商品などの情報は、取材時と変更になっている場合もございますので、ご了承ください