VOICE 73 岡山県・真庭市「イル リコッターロ」竹内雄一郎さん
チーズの製造過程で出るホエイ(乳清)を加熱するとできるリコッタ。ホエイの再活用を目的に作ることも多く、日本では少々影の薄いチーズかもしれません。そんなリコッタに惚れ込み光を当てるのが、その名も「イル リコッターロ」なる工房を営む竹内雄一郎さんです。
竹内さんとリコッタの出合いは、北海道のチーズ工房での修業時代。料理に、お菓子作りにと活躍するリコッタは、大好きな料理に関われる仕事で独立を目指していた竹内さんにとって、夢へと背中を押してくれる存在でした。その後イタリアへ渡り、職人の元で働きながら目の当たりにしたのは、現地の豊かな食文化。
「鍋をかき混ぜていると村の人が次々とやってきて、できたてのリコッタをボウルで持ち帰ったり、その場でぱくぱく食べたり。すごく美味しいものが身近に、ごく普通にあることが印象的でした」。帰国後は地元の徳島ではなく、岡山・蒜山高原にある父の別荘の土地で独立を決意。奇しくも蒜山は中国・四国地方を代表する酪農地帯、そしてチーズ製造向きの高脂肪なミルクを出すジャージー牛の飼育で有名な場所でした。
2011年に工房を開くと、その美味しさが料理人に広まり、やがて口コミで人気が拡大。熟成タイプや燻製タイプなどさまざまなリコッタを手掛けますが、やはり真骨頂はフレッシュな「リコッタ フレスカ」です。ホエイを加熱し型にすくい入れるシンプルな工程ながら、「加熱時間が少し長いだけで食感がぼそぼそしますし、いかに組織を壊さず型に入れるかも気を使います」。限界まで水分を保ち、口の中でふるっとほどける食感は、長年リコッタに向き合う竹内さんだからできる極上の体験。
現在は他にも本場仕込みの多彩なチーズを製造。自身の原点、“美味しいものがある幸せ”への追求は、まだまだ終わりません。
VOICE 74 岡山県・岡山市「ルーラルカプリ農場」小林真人さん
絵本の世界のような景色の中、100頭ほどの山羊が暮らす「ルーラルカプリ農場」。家族連れの観光客も訪れるオープンな農場には、ピースフルな空気が漂います。
乳牛を育てる酪農一家の4代目だった小林さん。それまでの設備や販路をすっぱりあきらめ山羊の飼育を始めたのは、栄養豊富で消化の良い山羊のミルクに出合い魅了されたから。搾りたての生乳を低温殺菌し作る「フロマージュブラン」は、軽やかな口溶けとほのかな酸味がさまざまな料理に合うと、全国の有名料理店から注文が入る人気商品に。
実は小林さん自身、料理の腕前は玄人はだし。チーズを使ったメニューや自然派ワインなどが楽しめるカフェでは、愛するヨーロッパの農村の食卓のように、美味しさを介し人々が集う豊かな時間が流れます。
ルーラルカプリ農場
TEL.086-297-5864
住所/岡山県岡山市東区草ケ部1346-1
SHOP/直売あり。その他、大阪府大阪市「パンデュース本店」、「ル シュクレクール」などで販売
VOICE 75 広島県・世羅町「やぎ丸農場」重丸雅紀さん(右)奈弥香さん(左)
米農家の実家の敷地内に農場を作り、裏山も合わせた4haほどの土地で山羊を飼育する重丸夫妻。米ぬかや山の草木、近所の豆腐店から譲り受けるおからを山羊に与えながら、稲作や養鶏を組み合わせた持続的農業に取り組みます。農家である一方、なんと福山市内のバーの経営者でもある2人。
名門・共働学舎で学んだ雅紀さんの作るチーズをお酒と合わせ提供するのは、バーテンダー歴の長い妻・奈弥香さんの担当です。二足のわらじを履くのには、家畜を飼うだけでなく、6次産業化で製造した商品を消費者にきちんと届けたいという想いが。
「うちの生乳は手搾りで機械も最小限。チーズの味も日々変わります。最近気付いたのは、それが自然ということ。昔ながらの“農家のチーズ”を作り、伝えていきたい」
VOICE 76 広島県・庄原市「ふくふく牧場」福元紀生さん
家畜と人間が共存する農家の暮らしに憧れ就農、各地で約7年研修した後、福島県で独立した福元さん。東日本大震災の影響を受け移住した新天地が、古き良き里山の原風景を残す広島県庄原市でした。
実践するのは環境負荷を減らした循環型酪農。通常牛の飼育に使われる輸入飼料や穀物は一切用いず、森に自生する草木や、農薬・化学肥料を使わない自家栽培の干し草を与え育てます。搾ったミルクはそのまま出荷するより「買ってくれる人の表情が見えるから」と、ほとんどをチーズの原料に。
慣行にとらわれず自然体で生きる福元さんの穏やかな人柄同様、チーズの味わいも癖がなく素朴。生乳と生クリームと乳酸菌のみで作る「マスカルポーネ」は、ジャージー牛のミルクらしい濃厚な風味が活きています。
ふくふく牧場
TEL.0824-87-2195
住所/広島県庄原市口和町湯木1390
SHOP/直売あり。その他、庄原市「道の駅 たかの」、「モーモー物産館」などで販売
【東京でも4人のチーズが買えます!】SHOP|清澄白河「チーズのこえ」
今回紹介した4つの工房のチーズを東京で購入するなら、日本で唯一の国産ナチュラルチーズ専門店「チーズのこえ」へ。チーズコンシェルジュが選んだ約40工房、年間300種類以上のチーズを取り揃えています。
TEL.03-5875-8023
住所/東京都江東区平野1-7-7 第一近藤ビル1F
営業時間/11:00~19:00
定休日/不定休
名店のシェフが教える日本チーズを使った絶品レシピ
今回紹介したチーズ工房「イル リコッターロ」のチーズを使ったレシピを、門前仲町の「水のや」の水野涼平シェフに教えていただきました。
メトロミニッツ2020年11月号「トーキョーレトロミニッツ」特集
レトロミニッツ。確かにそう言ってみたかったということもありますが昨年、令和を迎え今年はコロナ禍を迎えて「レトロ」に新たな時代が訪れたのではないかと思うのです。レトロと言えば「懐古的」という意味を連想しますが、最近「平成レトロ」という言葉が生まれ、平成が「懐かしい」の対象に加わりました。一方、純喫茶、銭湯、横丁など、近年「昭和レトロ」が人気ですが、大人になってから触れる機会が増えた文化のせいか、そんなに懐かしいとは感じないような…? レトロとは一体? かくして本特集でメトロミニッツが勝手に解釈した「レトロ」とは「古い風情が心地良い」や「失いたくない・残したい」という思いのこと。そんなレトロな感覚はコロナ禍で「サステナブル」というキーワードが再注目されている今の時代の空気に合うような気がしますし、落ち着かない毎日でもレトロな時間を取り入れたら、穏やかな日常を過ごすためのヒントが見つかりそうです
こちらもチェック!メトロミニッツ「日本チーズの“こえ”に出会う旅」関連記事
後援:独立行政法人 農畜産業振興機構「国産チーズ競争力強化支援対策事業」
Photo 松園多聞 Text 唐澤理恵
※メトロミニッツ2020年11月号「トーキョーレトロミニッツ」特集の記事転載
※本ページで記載の価格は全て「チーズのこえ」の販売価格となります
※掲載店舗や商品などの情報は、取材時と変更になっている場合もございますので、ご了承ください