VOICE 53 東京都・八丈町「八丈島乳業」魚谷孝之さん
太平洋に浮かぶ東京の離島・八丈島。海を眺める牧場のヤシの木陰で、牛たちがパワフルに草を食んでいます。運営元の「八丈島乳業」は、島でたった1つの酪農会社。しかしかつて、八丈島は乳量世界一の牛を輩出する酪農王国でした。
「明治期には国営事業として牛が飼育され、最盛期は2000頭もいたそうです」と語るのは、チーズ職人の魚谷孝之さん。神奈川県出身、大学で食品化学を学び、乳業会社での勤務も経験した魚谷さんは、旅で訪れた八丈島に「船から見た時、すごくわくわくして。上陸時には『ここで何かやろう』と決めていました」と一目ぼれ。経験を活かしたチーズ作りを目標に移住します。
が、晴れて島民となった2013年には、島の酪農も時代の波に呑まれ、風前の灯に。当時、唯一残った乳業会社に就職したものの、経営が行き詰ってしまいます。「島の産業を何とか繋げたい」。そんな魚谷さんの想いを汲んだのが、同じ志を持つホテル経営者・歌川真哉さん。2014年に歌川さんの出資で経営を引き継ぎ、誕生したのが「八丈島乳業」なのです。
「牛を牛舎で飼い、干し草を与える酪農なら本土でもできる。目指すのは、八丈島ならではの味を生み出す“離島酪農”です」。牧場は、元ゴルフ場や耕作放棄地を活用。ホルスタインより体が小さいため、風が強く斜面の多い環境に適したジャージー牛を飼育します。牛たちは、マグサ、アシタバといった島古来の草を主食に自然放牧。そうして生まれるミルクは、飲んでびっくり、まるでクリームのような甘さ!
そこから作られるチーズも、言わずもがなの美味しさに。「島の“ふるさとの味”になれば」と語る魚谷さんですが、近所の人に聞けば「おすすめの土産物は、牛乳とチーズかな」。見事復活した島の酪農は今、八丈島の誇りとなっています。
八丈島乳業
TEL.04996-2-0024
住所/東京都八丈島八丈町大賀郷1536
SHOP/系列店「八丈島ジャージーカフェ」にて直売あり。その他、東京・新宿区「丸正総本店」、東京・練馬区「パーラー江古田」などで販売
VOICE 54 東京都・青梅市「フロマージュ・デュ・テロワール」鶴見和子さん
20年ほど前、チーズ専門店でのアルバイトから始まった鶴見さんのキャリア。その後チーズの専門商社などで働く中、「本場のチーズ事情を見たい」とお金をかき集めフランスへ。現地で人気の専門店に勤務した後、名産地にあるチーズの専門学校へ入学。3校で丸3年間、みっちりと製造を学びました。
帰国後、実家のある青梅に工房を構えた鶴見さんが意識するのが、フランス各地で出合った気候風土を反映したチーズ。近隣で搾られた生乳を使う他、こだわるのが乳酸菌です。
「日本では加熱殺菌した生乳に市販の乳酸菌を添加するのが一般的ですが、土地の特徴は出にくい。地元の生乳から起こす自家製の乳酸菌を使っています」。青梅の地酒でウォッシュしたチーズも開発するなど、技術を柱にテロワールを追求します。
VOICE 55 神奈川県・鎌倉市「Latteria BeBè Kamakura」山崎大志郎さん
店名の「ラッテリア」がイタリア語で乳製品を扱う店を意味する通り、チーズ工房を併設するナポリピッツァの店「ベベ」。料理人歴20年以上の山崎さんがチーズを手掛けたきっかけは、修業先のイタリア・プーリア州での経験でした。「毎日地元の人が、お豆腐感覚でできたてのチーズを買いに行く。これこそ食文化だと驚いたんです」。
サーフィン好きが高じて移住、いつか大好きな地元・鎌倉の人々に愛されるお店をと考えていた山崎さん。チーズの技術を身に付け帰国、2015年に「ベベ」を開店後は、自ら車で取りに行く県内の牧場の生乳を使い、フレッシュチーズを製造します。
最近では、国内のコンテストで数々の賞も受賞。今では容器持参の地元っ子が、店頭にチーズを買いに来るのもおなじみの光景に。
VOICE 56 埼玉県・秩父市「秩父やまなみチーズ工房」高沢徹さん
「30年勤めた会社を体調不良で休職中、新しいことをするなら最後のチャンスだと思ったんです」。50歳を過ぎ一念発起、好きだったチーズの道へ進むことを決めた高沢さん。
北海道「共働学舎」や「白糠酪恵舎」で技術や経営を学び、妻の実家が近い秩父に移住、2018年に工房を建てました。機材は昔地元にあった工場のものを譲り受けて再利用、ご近所「吉田牧場」の搾りたての生乳を使い、製造過程で出るホエーは地域の農家の豚の餌に。
「周りの方々から本当に助けていただいて。自然と地域資源の循環を考えるようになりました」。名産のかぼすを合わせたり、秩父産ウイスキーの樽で燻製したりと、独自商品も開発。「もっと技術を磨きつつ、街の人に気軽に食べてもらえるチーズを作りたい」と意欲を燃やします。
【東京でも4人のチーズが買えます!】SHOP|清澄白河「チーズのこえ」
今回紹介した4つの工房のチーズを東京で購入するなら、日本で唯一の国産ナチュラルチーズ専門店「チーズのこえ」へ。チーズコンシェルジュが選んだ約40工房、年間300種類以上のチーズを取り揃えています。
TEL.03-5875-8023
住所/東京都江東区平野1-7-7 第一近藤ビル1F
営業時間/11:00~19:00
定休日/不定休
【終了しました】関東エリアのチーズを味わうイベント
共創料理 with ロドラント ミノルナキジン
Metro min.編集部が独自にセレクトした名店と、日本各地のチーズの生産者とのコラボレーションによるイベント「共創料理」。第14弾は取材陣とともにチーズ工房を訪れたフランス料理店「ロドラント ミノルナキジン」の今帰仁実シェフが腕を振るいます。まずは「八丈島乳業」の魚谷孝之さんのお話をお聞きしながら、ウェルカムドリンクとチーズの食べ比べを。その後、今帰仁シェフがそのチーズを使用して作る全5皿の特別コースが登場します。
場 所/ロドラント ミノルナキジン(東京都中央区銀座7-7-19 ニューセンタービルB1)
日 時/2020年2月29日(土)11:30~14:30
料 金/3000円(ウェルカムドリンク、チーズ食べ比べ、全5皿のコース)
募集人数/18名(抽選)※着席スタイル
応募締切/2020年2月5日(水)
イベント実施の様子
- 概要
- 東京都・八丈町「八丈島乳業」魚谷孝之さんのチーズへの想いを聞きつつ、フランス料理店「ロドラント ミノルナキジン」の今帰仁実シェフによる、「八丈島乳業」のチーズを使用した特別料理を味わった。
- 参加者の感想(抜粋)
- 生産者さんの貴重な体験を伺い、国産チーズのおいしさを知りお料理のクオリティも高かったので、大変満足しました。
もともとチーズ好きですが、生産から販売に至るまでの様々な人のかかわり方が増えて大変楽しかったです。
メトロミニッツ2020年2月号「日本のチーズ」特集
近所のスーパーに行けば、棚には多彩なプロセスチーズが並んでいます。デパ地下のチーズ売り場に行くと、様々な海外のナチュラルチーズを買うことができます。では、日本のチーズ工房が作ったナチュラルチーズと出会うことは? 今や日本各地には本格的なナチュラルチーズの作り手が大勢います。出会う機会が少ないなら会いに行き、チーズ作りに傾ける情熱を集めて、東京の皆さんにご紹介しよう・・・。そんな思いを胸に、ネズミ年の2020年は「日本のチーズ」特集から始めます。
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後援:独立行政法人 農畜産業振興機構「国産チーズ競争力強化支援対策事業」
Photo 松園多聞 Text 唐澤理恵
※メトロミニッツ2020年2月号「日本のチーズ」特集の記事転載
※本ページで記載の価格は全て「チーズのこえ」の販売価格となります
※掲載店舗や商品などの情報は、取材時と変更になっている場合もございますので、ご了承ください