編集部の「いい1日」リポート

アートなお出かけ~かわいい上野編~

更新日:2018/08/10

この連載では、編集部員が見つけた「いい1日」のヒントをご紹介していきます。アート好きの編集スドウは、上野の東京都美術館で開催中の「没後50年 藤田嗣治展」に行ってきました。そこには予想以上にかわいい世界が広がっていました。

漫画家・しりあがり寿さんが展覧会のために描き下ろした「フジタ画伯とねこ」のフォトスポット。キラキラした目でこちらを見つめるフジタと、無気力な目をした猫の対比が絶妙(笑)

こんにちは。現在発売中のオズマガジンは、年に一度のアート特集。実は、今年はかなりのアート当たり年。

3年ぶりに越後妻有で開催される「大地の芸術祭」をはじめ、「太陽の塔」の内部一般公開、現在横須賀美術館で個展を開催中の三沢厚彦さんの巨大グマも登場する「道後オンセナート2018」など全国でアートイベントが目白押し。

それだけでも巡りきれず困っているのに、東京近郊の展覧会も総じてレベルが高い・・・!

ミケランジェロやモネ、秋にはフェルメールやムンクなど、誰もが知っている巨匠たちの展覧会が続々開催されます。(詳しくは発売中のアート特集内「解説! 天才展覧会」をご覧ください~)

今回は、現在東京都美術館で行われている藤田嗣治の展覧会に行ってきました。

藤田の作品を見て感じたのは、きっと彼はかわいいものが大好き。

女子的視点も持った藤田の展覧会の魅力を、アート特集の取材でお話を聞いた、学芸員の下倉久美さんの解説を交えながら紹介していきます。

愛猫家の藤田らしく、グッズも猫モチーフがたくさん。しりあがりさんのイラストがゆるかわいいクリアファイル。右は、藤田の絵画に登場する猫をプリントした今治タオル(!)。2種のうち、私はちょっと変顔になってしまっている猫ちゃんをチョイス。こちら、赤ちゃんのスタイとしても使えるそうです

かわいいもの好き男子、藤田が描く猫に悶絶

皆さんは藤田嗣治という画家をどのくらいご存知でしょうか。

おかっぱ頭に丸眼鏡、チョビ髭がトレードマークで、写真を見ればピンとくる人も多いでしょう。(それにしても、表参道あたりに現れたら現代でもまったく違和感なさそうなオシャレ具合です)

彼は今からおよそ100年前、ピカソなどの天才がひしめくパリへとわたり大成功を収めた稀有な日本人画家。

美しい女性像を描くことで有名ですが、今回の展覧会を見て感じたのは、きっと彼は「かわいいもの好き男子」だったということ。

彼の出世作になったという、自室の様子を描いた《私の部屋、目覚まし時計のある静物》には、ピンクのチェック模様のクロスにかわいい絵皿、小さなお人形などが並び、まるで女の子の部屋のよう!

さらに、藤田の絵を見ているとかなりの頻度で登場するものが。

それこそが猫!

生涯を通して描き続けた自画像には、彼の手元や肩に頬ずりする猫、着物の懐から顔をのぞかせる猫など、猫好きにたまらない、甘えん坊な猫の姿が。

ほかにも美しい女性のそばでおすましする猫、闘う猫など、あっちにもこっちにも猫、猫、猫。

近くに寄ってよく見てみると、ふわふわとした毛並みが丁寧に描かれており、「かわいい~」と顔がにやけてしまいます。

「猫のなにげない仕草や生き生きとした姿からは、彼の高い観察力を感じることができますね」と教えてくれた下倉さんの言葉通り、藤田は猫の一瞬のかわいさを確実に切り取ります。

藤田に甘えるあまり顔がつぶれてちょっと不細工になっている瞬間(私が購入したタオルの猫)など、つぶさに猫の様子を観察していなければ捉えられません。

さらに藤田は当時にしては珍しく中南米にも旅行をしていて、ラマやキツネなど現地で出会った動物の姿も書き残しています。


展覧会には、そんな藤田の猫愛を反映したかわいいグッズがたくさん。

私は閉館時間ギリギリに駆け込んだため、かわいい猫のトートバッグを買い逃すという悲しい事態に・・・。

皆さんには、お買い物の時間もきちんと確保できるよう、計画的に鑑賞することをオススメします。

今回の目玉作品のひとつ《カフェ》が大胆に配された公式図録と、私いちばん感動した作品《舞踏会の前》のポストカード。まるで海外のアートブックのような図録は、部屋に飾りたい一心で即購入

もはや神々しいほどの美しき女性たち

藤田のかわいいもの好きな面ばかり押し出してしまいましたが、今回いちばん感動したのは、やはり彼の代名詞ともいえる、まるで陶器のようになめらかな乳白色の肌をした裸婦像。

裸婦像が集められた1階の展示室に足を踏み入れた途端、大げさでなくその輝きに圧倒されました。

図版や画像で見ているだけではわからなかった、内側から輝くような白い肌。

巨匠だらけのパリで藤田が名声を得た理由がすぐに納得できました。

「パリへとわたった藤田は、画家たちの自由な表現に衝撃を受けました。ピカソやブラック、ルソーといった同時代の画家を前に、彼は “自分らしさ”を模索していきました」と下倉さん。

「西洋絵画のスタイルは主に絵の具を厚く塗り、色彩で描くというもの。日本画のような、平面的で色が少ない描き方は、当時のパリでは珍しいものだったのです」

さらに彼は、パリの人々を驚かせた乳白色の下地の作り方を決して明かさなかったため、その方法が議論を呼びさらに話題となったのだとか。

「近年の修復から、独特の白い下地にはタルク(ベビーパウダー)が使われていたことがわかっています。タルクを絵の具に混ぜることで、透明度が増し、藤田作品の特徴である上品で美しい乳白色を生み出す効果がありました」

100年ほど前にパリに旋風を巻き起こした神々しいほどの白い肌が、身近な存在のベビーパウダーによるものとは・・・。

きっとこの美しさは、実際に目にしないと伝わりません。ぜひ皆さんも、同じ日本人が異国の地で生み出した美をその目で確かめてみてください!

お出かけ無精になる夏こそ、美術館でいい1日を

厳しい暑さが続いてる今年の夏。

お出かけするのがつい億劫になってしまいがちですが、そんなときこそ涼しく快適な美術館は夏のお出かけ先にピッタリです。

昼過ぎから出かけて閉館時間までたっぷりアートを鑑賞、そして夕涼みがてら冷えたビールを1杯・・・。

たとえ午前中をダラダラお家で過ごしてしまっても、こんな午後を過ごせば一発逆転。最高にいい1日となるはずです。


今日もここまでお読みいただきありがとうございます。

皆さん、いい夏をお過ごしください。

イベント名
没後50年 藤田嗣治展
開催場所
東京都美術館
開催日程
2018年7月31日~10月8日
ホームページ
没後50年 藤田嗣治展 特設サイト

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※記事は2018年8月10日(金)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります