編集部の「いい1日」リポート

1冊の本で知るニューヨークの素顔

更新日:2018/05/11

この連載では、編集部員が見つけた「いい1日」のヒントをご紹介していきます。特集のためのリサーチから、個人的な趣味の散歩、その他もろもろ、よりみちで出会ったことや感じたことをつづります。今日の担当は編集長・井上が1冊の本をご紹介します。写真はニューヨークでの1枚(2013年撮影)

NYの「食べる」を支える人々
フィルムアート社 2300円+税
アイナ・イエロフ:著/石原薫:訳
発売日:2017年9月25日

今すぐ役に立たない本を読むのは、いいものだ

みなさんこんにちは。オズマガジン編集長の井上です。今日は、1冊の本をご紹介したいと思います。アイナ・イエロフさん著、石原薫さん訳『NYの「食べる」を支える人々』です。

この本は、調査報道ジャーナリストであり、ノンフィクション作家である著者が、ニューヨークの飲食業界に携わる人々の仕事を聞いて回った1冊。一流レストランのシェフからパティシエ、ケータラー、老舗の食材店オーナー、牡蠣の殻剥き職人などなど、スポットライトが当たることはあまりないであろう人たちの半生をつづっています。

登場する約50人の中で、僕が知っている名前はドミニク・アンセルさんと、テレビ番組の『情熱大陸』で拝見したことのある寿司職人の中澤さんくらい。グルメ通や、ニューヨーク通の方でも、おそらくほとんどの名前を知らないと思います。

そんな、市井の人たちの仕事の話、しかも華やかなステージではなく舞台裏。驚きのエピソードが満載というよりは、本当にちょっとしたインタビュー集という感じです。どれだけ下積みがきつかったかとか、家賃が高すぎるとか、時代とともにお客さんも変わったとか。その一つひとつは、正直なところあまりおもしろい話だとは思いませんでした。

けれど、読み進めるうちにちょっと印象が変わってきます。

一人ひとりのドラマそのものは、異国の他人のものでしかないので、その内容に興味を抱く人は多くないと思います。でも、同じ街、同じ飲食業界なのに、本当にさまざまなルーツを持った人たちが出てくることで、そのエピソードの連なりが徐々にニューヨークと言うメガシティを織りなす大河ドラマのように感じられてくるのです。

世界中からやってきた移民の子孫もいれば、マンハッタン育ちもいて、まさしく人種のるつぼ。全員が主役であり、脇役であり、そして裏方でもある。それがニューヨークという街なのかもしれません。

「どんな人にも語るべき物語がある」が、オズマガジンの信条だったりするのですが、まさにそれを地でいったような内容でした。そして、それに気付くと、ニューヨークにはあまりにも膨大な物語が秘められていることに気付いて、静かに胸が高鳴ります。

飲食だけでなく、どんなに小さな業界でも、華やかでも地味でも、きっと同じだけの物語が紡がれているのでしょうね。というかニューヨークに限らず、ここ東京もそうでしょう。電車の中で隣り合わせたその人は、日々どんな朝を迎え、なにを食べ、どんな人生を歩んでいるのでしょうね。

最近は、読書よりもネット記事やSNSを見る時間が多くなっていましたが、まとまった本を読むのは改めていいな、と思いました。しかも、とりたてて役に立つわけでもなんでもない本というのがよかったように思います。右脳に効く感じといいますか。そういうことってありませんか?

ということで、ニューヨークがお好きな方には、手に取ってみてほしい1冊でした。手放しでおもしろい!というのともちょっと違うので、超オススメ!とは言いにくいのですが。

みなさんの最近読んでおもしろかった本があれば、ぜひ教えてください。それではどうぞ、いい1日を。

本作に登場する老舗の「Peter Luger Steak House」。先代オーナーの娘さんが切り盛りしているそうで、女性が経営者というのがちょっと意外でした
本作と関係ありませんが、僕の好きな「Dough Doughnuts」のドーナツです。個人的にニューヨークもドーナツも大好きです

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※記事は2018年5月11日(金)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります