VOICE OF CHEESE 日本のチーズ職人「百人百話」 Vol.10 沖縄・九州南部エリア 日本チーズの“こえ”に出会う旅

更新日:2019/09/20

今、着実に盛り上がりを見せている日本のナチュラルチーズ。国内の工房数は10年前の倍近くに増加し、国際コンクールで入賞を果たすチーズが続々と現れています。生乳を発酵・熟成させて作るナチュラルチーズは、自然の力と職人の製造技術のたまもの。そして何より作り手の想いが込められていることが、美味しさの必須条件です。チーズが生まれる現場から、作り手の“こえ”をお届けする本連載。

VOICE 37 沖縄県・南城市「THE CHEESE GUY」ジョン・デイビスさん

(画像左)「クリーミーな生乳と沖縄らしい食材を合わせて。地元の人と気候に助けられ、ここだけのチーズができました。」/「THE CHEESE GUY」ジョン・デイビスさん (画像右上)「試食しながら選ぶひとときにも心躍る (画像右下)見過ごしそうなほどさりげない、わずか数坪の小さな店がジョンさんの城

南国・沖縄産のチーズと聞いて、意外に思う人も多いでしょう。しかも作るのはたっぷりの髭をたくわえたイギリス紳士。さらに言うと、何十種と揃うチーズはどれも他では出合えない、地域性を感じるユニークなものばかり! 

そんなチーズの生みの親、ジョン・デイビスさんが来日したのは1976年。最初は東京、その後、札幌へと移り住んで英会話学校を経営した後、2006年、引退し温かい場所で暮らそうとやってきたのが沖縄でした。チーズ作りを始めたのは8年ほど前、ジョンさんが日常で感じていたちょっとしたストレスがきっかけ。「沖縄にあるのはプロセスチーズばかり。ナチュラルチーズが食べたい!」。

曰く「誰でもアクセスできる巨大図書館」=インターネットで調べながらチーズを作り始めたジョンさんが発見したのは、沖縄の多湿な気候が発酵食品作りに最適なこと。現在は南城市内にある「親泊牧場」の敷地内に工房を設け、搾りたての生乳でチーズを作ります。ジョンさんが「脂肪分が高く、すごくクリーミー」とほれ込む生乳と合わせるのは、フーチバ(よもぎ)やゴーヤ、泡盛、島ニンニクといった沖縄らしい素材の数々。

ローカルなショッピングモールの片隅の小さな店で、ずらりと並ぶチーズの中から好みのものを見繕ってもらうのは、今や地元ファンにはおなじみの楽しみ方となりました。悠々自適な暮らしを求めお金を貯めて沖縄へ来たものの、「チーズ作りのせいで、お金はもうない(笑)。でもこっちの方がずっと楽しいからいいよ」と笑うジョンさん。

スーパーに並ぶプロセスチーズ一辺倒だった沖縄に新たなチーズ文化の火を灯した “チーズおじさん”の頭の中には、まだまだ色々なアイデアが。国産チーズと言えば沖縄、そんな日が来るかもしれません。

(画像左上)微生物を配合し発行させた餌を食べて育つ「親泊牧場」の牛。牧場主の親泊清さんとジョンさんは信頼し合う仲 (画像右上)圧巻のPOP。現在作るのは30種ほど。「親泊牧場」内の工房で、4人のスタッフが製造を担う (画像左下)「見たこともない個性的なチーズばかりえ驚きました」と「イル プロフーモ」のシェフ・永原武史さん。ジョンさんの解説に耳を傾け「チーズへの情熱がすごい」と感心しきり (画像右下)島らっきょうをパウダーにして加えた「島らっきょうチーズ」(右・中央)1200円/100g、米麹と泡盛で作ったジョン版“豆腐よう”の「チーズヨー」(左)1200円/100g

THE CHEESE GUY

TEL.090-2051-5188
住所/沖縄県南城市大里字仲間1155 JAアトール内
SHOP/直売あり、その他、那覇市「デパートリウボウ」などで販売

VOICE 38 沖縄県・宮古島市「宮古島チーズ工房」冨田常子さん

(画像左)「沖縄らしい山羊チーズは奥行きのある美味しさ。特色ある商品作りで地元を盛り上げたい。」/「宮古島チーズ工房」冨田常子さん (画像右上)ドライフルーツや紅芋甘糀を使うなど工夫が光る「まる」  (画像右下)「 スモークスカモルツァ」はシンプルなピザに合う

東京生まれの冨田さんの運命を変えたのは、旅先として選んだ宮古島でのできごと。「釣り中に地元の人に話しかけられて、1日でいっぱい友人ができちゃったの」。思い切って移住を決意した冨田さん、その後、地元酪農家との縁がきっかけでチーズ作りの魅力にハマり、現在は1人で工房を切り盛りします。

力を入れるのが山羊乳100%で作るチーズ「ハイジ」シリーズ。沖縄では昔からたんぱく源として重宝される山羊も生産者が減り、やむなく県外の山羊乳を使いますが、所属する山羊生産組合の活動が実り「来年には宮古島産山羊ミルクのチーズができるかも!」と冨田さん。

一方、牛の生乳で作る「まる」シリーズは南国らしい味のラインアップが自慢。島愛溢れる彼女のチーズは、今やすっかり地域の特産品です。

(画像左)工房には毎週、未殺菌の生乳と山羊のミルクが計80ℓ届く (画像右)ハイジシリーズ「チロル」4000円(160g)

宮古島チーズ工房

TEL.0980-77-8064
住所/沖縄県宮古島市城辺字保良344-9
SHOP/直売あり。その他、宮古島市「Beads and Knit cafe Fika」などで販売

VOICE 39 宮崎県・小林市「ダイワファーム」大窪和利さん(左)誠朗さん(右)

(画像左)「いい生乳ありきで作る「モッツァレラ」は、フレッシュな食感とジューシーさが自慢。」/「ダイワファーム」大窪和利さん、誠朗さん (画像右上)イタリア系のチーズを13種前後揃える (画像右下)熟成タイプも人気。年間約70t作るチーズの多くは飲食店に直接卸される 

広大な牧草地も放牧場も持たない郊外の牧場で、トップクラスのチーズを作り続ける職人がいます。「ダイワファーム」大窪和利さんの信念は「と
にかく美味しい牛乳を作る」こと。牛舎に活性炭を敷く、国有林から引く水を牛に与えるなど独自の工夫で、牛乳の質を追求します。

和利さんがチーズの試作を始めた頃は、国産ナチュラルチーズの黎明期。「『宮崎では無理』と言われ、悔しくて火がついちゃって」。“チーズと言えば北海道”の先入観を覆し、国内外のコンテストの常連受賞者となるのはその6年後。今では息子の誠朗さんも製造に加わり、味を守ります。

和利さんが「作るのは簡単。でも突き詰めると一番難しい」と語る「モッツァレラ」は工房の代表作。驚くほどのミルク感にその実力が伺えます。

(画像左)小さいながら心地良い環境の牛舎で約20頭の牛を飼育 (画像右)「モッツァレラ」630円(100g)

ダイワファーム

TEL.0984-23-5357
住所/宮崎県小林市東方4073
SHOP/直売あり、その他、小林市「コープみやざき 小林店」、宮崎市内「フーデリー」各店舗などで販売

VOICE 40 鹿児島県・鹿屋市「kotobuki CHEESE」景山淳平さん

(画像左)「鹿児島県産生乳100%の食べやすいチーズです。今後は地域性を高めつつ種類も増やしていきたい。」/「kotobuki CHEESE」景山淳平さん (画像右上)現在製造するのは10種前後。優しい味わいのチーズが揃う (画像右下)最新の設備が揃う工房内。400ℓの生乳を仕込める釜も

街中でひときわ目を引くおしゃれな建物の一角が、昨年オープンした「kotobuki CHEESE」の工房。母体は畜産王国・鹿児島県でシェア率No.1の飼料会社です。「生産者と消費者を繋ぐ」をコンセプトに、使われる生乳は全て同社の飼料を食べて育った県産牛のもの。さらに隣接するレストランでは作りたてのチーズが味わえるとあり、連日地元民でにぎわいます。

毎日130ℓの生乳からチーズを仕込む職人が、シェフから転身した経歴を持つ景山さん。「今はフレッシュチーズがメインですが、色々なタイプを試したくて。料理に活用できるような熟成チーズなどもいいですね」。今後、地元産芋焼酎で洗ったウォッシュチーズなどを発売予定。地域に根差した工房として成長を遂げる注目のスポットです。

(画像左)隣はできたてのチーズが味わえるレストラン「TAKE」 (画像右上)現在製造するのは10種前後。優しい味わいのチーズが揃う (画像右)「リコッタチーズ」890円(140g)

kotobuki CHEESE

TEL.0994-45-7321
住所/鹿児島県鹿屋市北田町5-5
SHOP/「TAKE」にて直売あり、その他、鹿児島市「よかど鹿児島」、鹿児島市「アミュプラザ鹿児島 CENTRE」などで販売

【東京でも4人のチーズが買えます!】SHOP|清澄白河「チーズのこえ」

今回紹介した4つの工房のチーズを東京で購入するなら、日本で唯一の国産ナチュラルチーズ専門店「チーズのこえ」へ。チーズコンシェルジュが選んだ約40工房、年間300種類以上のチーズを取り揃えています。

TEL.03-5875-8023
住所/東京都江東区平野1-7-7 第一近藤ビル1F
営業時間/11:00~19:00
定休日/不定休

【終了しました】沖縄・九州南部エリアのチーズを味わうランチ

共創料理 with イル プロフーモ

Metro min.編集部が独自にセレクトした名店と、日本各地のチーズの生産者とのコラボレーションによるイベント「共創料理」。第10弾は取材陣とともにチーズ工房を訪れたイタリア料理店「イル プロフーモ」の永原武史シェフが腕を振るいます。まずは「THE CHEESE GUY」のジョン・デイビスさんのお話をお聞きしながら、ウェルカムドリンクとチーズの食べ比べを。その後、永原シェフがそのチーズを使用して作る全4皿の特別コースが登場します。

場  所/イル プロフーモ(東京都中央区日本橋人形町2-33-4 BPRレジデンス人形町)
日  時/2019年10月19日(土)11:30~14:30(予定)
料  金/3000円(ウェルカムドリンク、チーズ食べ比べ、全4皿のコース、食後の飲み物)
募集人数/16名(抽選)※着席スタイル
応募締切/2019年10月4日(金)

イベント実施の様子

概要
沖縄県・南城市「THE CHEESE GUY」ジョン・デイビスさんのチーズへの想いを聞きつつ、イタリア料理店「イル プロフーモ」の永原武史シェフによる、「THE CHEESE GUY」のチーズを使用した特別料理を味わった。
参加者の感想(抜粋)
とっても美味しかったです。ジョンさんのチーズを買いに沖縄まで行きたくなりました。

まず、料理が素晴らしい。そして主催者の強い思いを同じテーブルの上で聞かせていただくのが、とても良かったです。最後に、バジルチーズには感動しました。
メトロミニッツ「TOKYO温故知新」特集

メトロミニッツ2019年10月号「TOKYO温故知新」特集

2019年9月、2020年を間近に控え、東京の各街で様々な開発が進行している中で立ち上げた特集が「TOKYO温故知新」でした。新しいものへの期待が高まる一方、過去の風景への愛着も交錯する、そんな時に生まれたテーマが「故きをたずねて、新しいものの価値や魅力を再発見してみよう」。新しいものが生まれてはすぐに過去になり、その時代、1つひとつの積み重ねがやがて歴史になってきますが、一度、過去を振り返ってみることで、今のものの価値や魅力を再発見してみませんか?というご提案です。今回は、150周年、130周年など、今年、節目を迎えた店・場所・モノやコトなどを中心にご紹介していきます。

後援:独立行政法人 農畜産業振興機構「国産チーズ競争力強化支援対策事業」

Photo 松園多聞 Text 唐澤理恵
※メトロミニッツ2019年10月号「TOKYO温故知新」特集の記事転載
※本ページで記載の価格は全て「チーズのこえ」の販売価格となります
※掲載店舗や商品などの情報は、取材時と変更になっている場合もございますので、ご了承ください

※記事は2019年9月20日(金)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります