VOICE OF CHEESE 日本のチーズ職人「百人百話」 Vol.9 北海道・道央エリア 日本チーズの“こえ”に出会う旅

更新日:2019/08/20

今、着実に盛り上がりを見せている日本のナチュラルチーズ。国内の工房数は10年前の倍近くに増加し、国際コンクールで入賞を果たすチーズが続々と現れています。生乳を発酵・熟成させて作るナチュラルチーズは、自然の力と職人の製造技術のたまもの。そして何より作り手の想いが込められていることが、美味しさの必須条件です。チーズが生まれる現場から、作り手の“こえ”をお届けする本連載。

VOICE 33 北海道・洞爺湖町「Lake Hill Farm」塩野谷通さん

(画像左)「美しい洞爺湖畔で搾られるいい生乳からいいチーズを。この場所に来てもらうことで、地域の魅力を広めていきたい。」/「Lake Hill Farm」塩野谷通さん(画像右上)羊蹄山を望む絶景。ジェラート作りやバター作り体験ができる他、今後はグランピングの計画も進行中とか。夏にはフェスも開催(画像右下)景色が一望できるレストラン

北海道・洞爺湖畔、羊蹄山を望む広大な土地には花が咲き乱れ、人々が思い思いにくつろぎます。「コンセプトは、この場所でのんびりしてもらうこと。何時間でもいてもらえれば」。そう語る塩野谷通さんは、ここ「レークヒル・ファーム」の4代目。

自社生乳の加工・販売を行いながら、牧場を切り盛りしています。明治時代に始まった歴史あるこの牧場では、72ヘクタールもの敷地に100頭弱の牛を放牧。循環型酪農で自給率100%を目指すなど、先進的なビジネスモデルで数々の賞を受賞してきました。

加工品にもいち早く着手し、まだ牧場でアイスを売ることが珍しかった時代から、イタリア仕込みのアイスを発売。2000年に始めたチーズは、現在、フランスで技術を学んだ塩野谷さんが製造を担っています。しかし、「チーズもアイスも“おまけ”みたいなもの」と語る塩野谷さん。

「基本はやっぱり牧場。加工品の目的は、うちにしかできない生乳からいいものを作って、利益を上げることですから」。塩野谷さんの言葉にのぞくのは、夢物語では語れない現実。日本の一次産業の低迷が叫ばれる中、酪農をベースに生きることと向き合う――「今、平均30分の滞在時間を3時間にしたい」と語る塩野谷さんが目指すのは、多くの人にこの場所に来てもらい、地域の価値を高めること。

だからチーズも、美味しさは言わずもがな、ストリングチーズやモッツァレラを中心に、世代問わず気軽に食べられるものばかり。朝搾った生乳を使った、少量生産のできたてのチーズが並びます。

「この景色を見たら、他の場所に住みたいとは思いませんよ」。目を細めてそう語る塩野谷さんは、言うなればこの地のプロデューサー。チーズの向こう、塩野谷さんが見据えるのは、愛する故郷・洞爺の活気に満ちた姿です。

(画像左上)広大な敷地で、のんびり草を食む牛たち。夏は青々とした牧草が主食(画像右上)「最高の景色に囲まれて、美味しいチーズがあって。この場所は、塩野谷さんの究極のおもてなしですね」と「ルメルシマンオカモト」のシェフ・岡本英樹さん(画像左下)人気の「ストリングチーズ」4種の他、ゴーダなど全7種のチーズを製造。週2日ほど、1日180ℓの生乳で仕込(画像右下)30cmほどの長さの「ロングロングストリングチーズ」(上)648円/100g、店頭のみで限定販売される豆腐のような味わいの「生チーズ」(下)885円(150g)

Lake Hill Farm

TEL.0142-83-3376
住所/北海道虻田郡洞爺湖町花和127
SHOP/直売あり

VOICE 34 北海道・共和町「北海道クレイル」嶋本清美さん

(画像左)「40年以上変わらない「クレイル」の味。熟成の変化も楽しめるカマンベールです。」/「北海道クレイル」嶋本清美さん(画像右上)カマンベールをベースにした3種類を製造(画像右下)強い風と寒暖の激しさが共和町の特徴だそう

今でこそ、日本でも馴染み深い存在となったカマンベールチーズ。その国内の先駆者が、「北海道クレイル」代表の西村公祐さんです。

フランスでチーズ作りの国家資格も取得した西村さんが、カマンベールの故郷・ノルマンディ地方と気候が似た共和町に工房を構えたのは1975年。当時、ナチュラルチーズを食べる機会も、チーズ熟成の概念も乏しかった日本で、頑なに“本物”を作り続けてきました。

現在は、西村さんとは幼少時から家族ぐるみの付き合いという嶋本清美さんが製造を担当。「製法は当時から全く変わりません。加熱殺菌した市販品と違い、うちのカマンベールは“刺身”。

熟成がもたらす味の変化も楽しんで」と嶋本さん。職人気質が伝わるその姿に、レジェンド・西村さんの想いが重なります。

(画像左)近隣の酪農家の生乳を、毎月3tほどチーズに加工。塩分控えめのやさしい味わい(画像右)「カレ」1512円(180g)

北海道クレイル

TEL.0135-62-7457
住所/北海道岩内郡共和町老古美320-3
SHOP/直売あり。その他、札幌市「丸井今井札幌本店」、新千歳空港「丸井今井 きたキッチン」、東京・有楽町「北海道どさんこプラザ」などで販売

VOICE 35 北海道・黒松内町「toit vert」成田隆志さん

(画像左)「自然豊かな黒松内町の高品質な生乳を活かし、ワインに合う本場の味を目指しています。」/「toit vert」成田隆志さん(画像右上)毎月10tほどの生乳を加工。カマンベールやゴーダ、クリームチーズも作る(画像右下)その日の気候により、加える酵素の量も微調整

1993年、地域の物産品加工センターとして誕生した「トワ・ヴェール」。公共施設でありながら、万人受けする食べやすさより、欧州に近い本格的な味を目指す骨太な工房です。

製造チーフの成田隆志さんは、職人歴10年目。「量産しつつ美味しさを保つ」という基本を守る一方、さまざまな製法を貪欲に試すチャレンジャーでもあります。

「技術に満足してはもったいない。自信は持たないようにしています」と話す成田さんが「最近、より美味しくなった」と教えてくれたのが、中を青カビ、外を白カビの力で熟成させた「ホワイトブルーチーズ」。

「他にはないものを」と生まれた工房の原点であり、コンテスト受賞歴も持つ逸品は、クリーミーで複雑味十分。ワイン片手に味わえば、進化のほどがわかるはず。

(画像上)美しい景色の中、古城のような工房が佇む(画像下)「くろまつないホワイトブルーチーズ「カレ」982円(100g) (生タイプ)」928円(90g)

toit vert

TEL.0136-72-4416
住所/北海道寿都郡黒松内町字目名152-4
SHOP/直売あり。その他、黒松内町「道の駅 くろまつないtoit vert Ⅱ」、札幌市「大丸札幌店」、東京・有楽町「北海道どさんこプラザ」などで販売

VOICE 36 北海道・黒松内町「Ange de Fromage」三浦豊史さん・西村聖子さん・射場勇樹さん

(画像上)「個性の全く違う3人。だからこそできるチーズを、食卓に届けたい。」/「Ange de Fromage」三浦豊史さん(左)西村聖子さん(中央)射場勇樹さん(右)(画像左下)それぞれ作りたいチーズを作るというルールで、年間20種以上を製造 (画像右下)同じ黒松町内の生乳を、多い時で月に15t加工する

工房の始まりは、元パティシエのオーナー・西村聖子さんが、チーズの勉強会で出会った三浦豊史さんと射場勇樹さんに声を掛けたことでした。

当時、三浦さんは「北海道クレイル」で25年チーズ作りに携わったベテランチーズ技師、射場さんはその教え子で、知識欲に満ちた学生。

それから8年、現在の「アンジュ」を象徴する存在が、ここにしかない独創的なチーズの数々です。新商品の「カレ」は、製造途中のカマンベールに水分を与え、むっちりした唯一無二の食感を引き出したチーズ。

三浦さんの豊富な経験に、射場さんのユニークなアイデアが加わり、新たな美味しさが誕生しました。立場も年齢も違う3人は、まるで家族のよう。にぎやかな工房から、日々の食卓に寄り添うやさしいチーズが生まれます。

(画像左)あえて空調は付けない。感覚がものをいう作業(画像右)「カレ」982円(100g)

Ange de Fromage

TEL.0136-75-7400 
住所/北海道寿都郡黒松内町字赤井川114
SHOP/直売あり。その他、黒松内町「道の駅 くろまつないtoit vert Ⅱ」、札幌市「フーズバラエティすぎはら」、新千歳空港「Wine&Cheese北海道興農社」などで販売

【東京でも4人のチーズが買えます!】SHOP|清澄白河「チーズのこえ」

今回紹介した4つの工房のチーズを東京で購入するなら、日本で唯一の国産ナチュラルチーズ専門店「チーズのこえ」へ。チーズコンシェルジュが選んだ約40工房、年間300種類以上のチーズを取り揃えています。

TEL.03-5875-8023
住所/東京都江東区平野1-7-7 第一近藤ビル1F
営業時間/11:00~19:00
定休日/不定休

【終了しました】 北海道・道央エリアのチーズを味わうランチ

共創料理 with ルメルシマン・オカモト

Metro min.編集部が独自にセレクトした名店と、日本各地のチーズの生産者とのコラボレーションによるイベント「共創料理」。第9弾は取材陣とともにチーズ工房を訪れたフランス料理店「ルメルシマン オカモト」の岡本英樹シェフが腕を振るいます。まずは「レークヒル・ファーム」の塩野谷通さんのお話をお聞きしながら、ウェルカムシャンパーニュとチーズの食べ比べを。その後、岡本シェフがそのチーズを使用して作る全6皿の特別コースが登場します。

場  所/ルメルシマン オカモト(東京都港区南青山3-6-7 b-town 1F)
日  時/2019年9月29日(日) 11:30 ~14:30(予定)
料  金/3000円(ウェルカムシャンパーニュ、チーズ食べ比べ、全6皿のコース)
募集人数:20名(抽選)※着席スタイル
応募締切/2019年9月6日(金)

イベント実施の様子

概要
北海道・洞爺湖町「Lake Hill Farm」塩野谷通さんのチーズへの想いを聞きつつ、フランス料理店「ルメルシマン オカモト」の岡本英樹シェフによる、「Lake Hill Farm」のチーズを使用した特別料理を味わった。
参加者の感想(抜粋)
そのままで食べるイメージが強い日本のチーズがこのように素敵なお料理に大変身することが大発見でした。

塩野谷さん、今野さんのお話が大変興味深く、心に響きました。インターネットでは得られない生のお話、大満足です。お料理も本当においしかったです。
メトロミニッツ「ラグビーシロウト」特集

メトロミニッツ2019年9月号「ラグビー入門」特集

突然ですが、今、メトロミニッツはすごく焦っています。なぜなら、来る9月20日からラグビーの国際的な大会が日本で開催されるというのに、「ラグビーの素人」だからです。しかし、開催期間は11月2日までと長く、ジョージアやトンガなど、個性豊かな出場国が揃っていることも気になります。やり過ごすなど、もったいないと思いませんか? というわけで、今月号では9月20日が訪れる前に、ラグビーのことを知ろうと、素人ながら準備するという特集を展開。ルール、各国のチームの特徴など、ごく簡単な超入門編の内容です。

後援:独立行政法人 農畜産業振興機構「国産チーズ競争力強化支援対策事業」

Photo 松園多聞 Text 唐澤理恵
※メトロミニッツ2019年9月号「ラグビー入門」特集の記事転載
※本ページで記載の価格は全て「チーズのこえ」の販売価格となります
※掲載店舗や商品などの情報は、取材時と変更になっている場合もございますので、ご了承ください

※記事は2019年8月20日(火)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります