VOICE OF CHEESE 日本のチーズ職人「百人百話」 Vol.8 京都・兵庫エリア 日本チーズの“こえ”に出会う旅

更新日:2019/07/20

今、着実に盛り上がりを見せている日本のナチュラルチーズ。国内の工房数は10年前の倍近くに増加し、国際コンクールで入賞を果たすチーズが続々と現れています。生乳を発酵・熟成させて作るナチュラルチーズは、自然の力と職人の製造技術のたまもの。そして何より作り手の想いが込められていることが、美味しさの必須条件です。チーズが生まれる現場から、作り手の“こえ”をお届けする本連載。

VOICE 29 京都・京丹波町「ミルクファームすぎやま」杉山牧さん

(画像左)「減少する京丹波町の酪農を未来に何世代にもわたって受け継がれるものにするためチーズをその原動力にしたい。」/「ミルクファームすぎやま」杉山牧さん(画像右上)「“搾りたて、できたて”でやっています」と杉山さんが語るモッツァレラは、奥からじゅわりとミルク感があふれ出る逸品(画像右下)150頭ほどの牛が暮らす牛舎。牛の腸内環境を重視した飼育方法により、全くにおいが気にならない

家族経営の農場「ミルクファームすぎやま」があるのは、京丹波町の静かな里山。4人兄弟の長女・杉山牧さんは、高校の食品科学科を卒業、北海道の「共働学舎」や「チーズ工房NEEDS」などで約10年間チーズ製造に関わってから帰郷し、現在は兄・裕亮さんが牛を飼育し搾る牛乳で、モッツァレラや「さけるチーズ」を製造しています。

モッツァレラを作るきっかけは、視察で行った本場イタリアでのできごと。「直売所のおばちゃんが袋に入れてぽんと渡してくれるモッツァレラが、もう美味し過ぎて。ミルクの旨みをこんなにも引き出せるんだと驚いて、これを追求しようと決めたんです。

うちの牛乳は特別なものではないけれど、兄が毎朝搾ってくれる。それを活かすのは自分の腕次第ですから」と杉山さん。熟成タイプのチーズは作りませんが、「ヨーロッパの山岳部だと製造中のチーズを常温で寝かせることもあるけれど、高温多湿な丹波で同じことをするのは違う気がして」というのが理由。根底にあるのは、「チーズは地域の生活の一環にあるもの」という想いです。

地元の販売先は近所の道の駅のみですが、それでも定期的に買いに来るリピーターが多いのは、杉山さんの技術力のなせる技。噛むほどにミルクの甘みが広がるモッツァレラや、絹糸のようにほどける「さけるチーズ」の繊細さに、丁寧な仕事が伺えます。

「昔から何か作るのが好きで、放課後になるとアイスクリームやチーズを作るような高校生でした。今もチーズが売れたかより、『今日はいいのができたな』って満足しちゃう。高校時代と全然変わっていないんです(笑)」。

飾らなくてまっすぐで、何より楽しそう。難しいこと抜きで「美味しい!」と思えるチーズの味わいに、そんな杉山さんの人柄が重なります。

(画像左)「やっぱりできたてが一番。いつか、それを味わってもらえるカフェも作りたい」と杉山さん (画像右上)一帯には、他にも数軒の酪農家が集まる(画像右下・中央)「クリマ ディ トスカーナ」のシェフ佐藤真一さんも、チーズの味わいに感激!「美味しさはもちろん、杉山さんの考え方もすばらしく、共感することばかり。来てよかったです」(画像右下)上から「京丹波の白いモッツアレラ」540円(60g)、木桶仕込みの醤油で味付けした「京丹波のさけるチーズ(醤油味)」334円(30g)

ミルクファームすぎやま

TEL.0771-83-0282
住所/京都府船井郡京丹波町下山中野51-2
SHOP/直売なし その他、京丹波町「道の駅 京丹波 味夢の里」、東京・世田谷区「信濃屋食品館」(PB商品のためパッケージは異なる)などで販売

VOICE 30 兵庫・丹波市「婦木農場」婦木敬介さん

(画像左)「代々続けてきたのは風土に根差した農業。いいチーズを作るため、まじめに酪農しています。」/「婦木農場」婦木敬介さん(画像右上)周辺にはのどかな里山の景色が(画像右下)現在は8頭のジャージー牛を飼育。餌には旬の野菜も混ぜる

四季折々の野菜や米を栽培し、味噌や醤油、杵でついた餅を仕込む。家畜を飼い、堆肥の栄養分を畑に還元する。江戸時代から続く「婦木農場」では、今もそんな昔ながらの農業を実践しています。

牛の飼育から搾乳、チーズ製造、販売までをひとりで一手に担うのは、長男の婦木敬介さん。農業高校卒業後に各地の農家や北海道「さらべつチーズ工房」で学び、4年前、自分たちの牛乳でチーズを作るという夢を実現させました。

販売中の「サンマルセラン」は、ふわりとした口どけの酵母熟成タイプ。熟成が進むと風味が一段と増し、味の変化もたのしめます。「農業もチーズ作りも、勝手に身体が動く感じ。自分の性に合っている」と婦木さん。「婦木農場」らしい丹波の風土に根差した味わいを、自然体で追及します。

(画像左)熟成庫も新設し、秋にはゴーダチーズも発売予定。乳酸菌は自家培養する(画像右)「サンマルセラン」1080円(80g)

婦木農場

TEL.0795-74-0820 
住所/兵庫県丹波市春日町野村83
SHOP/直売なし

VOICE 31 兵庫・神戸市「弓削牧場」弓削太郎さん

(画像左)「神戸の街中の牧場から、家族に受け継がれるここにしかない美味しさをお届けします。」/「弓削牧場」弓削太郎さん(画像右上)敷地内にはレストランも。4種前後のチーズをさまざまなアレンジで提供する(画像右下)現在は43頭の牛を飼育

緑の丘陵を走る放牧牛の姿。神戸の住宅街のすぐ奥に、都市部とは思えない牧歌的な景色が広がります。いち早く持続可能な都市型酪農に取り組み、先進的な活動で全国に知られる「弓削牧場」。

1985年、西日本初となるナチュラルチーズの製造を始めたのは、現在工房を切り盛りする弓削太郎さんの両親、忠生さんと和子さんでした。まだ文献さえも少ない時代、2人が手探りで作りあげたのは、他にはない独自の味。

カマンベール製造時の失敗から生まれたフレッシュチーズ「フロマージュ・フレ」は、今や多くのシェフに支持される代表作に。「これまでの味を守りつつ新たな挑戦を」と太郎さん。家族に受け継がれる情熱が美味しさの源です。

(画像上)左から太郎さん、忠生さん、和子さん、太郎さんの妹・麻子さん(画像下)「フロマージュ・フレ」1004円(200g)

弓削牧場

TEL.078-581-3220
住所/兵庫県神戸市北区山田町下谷上西丸山5-2
SHOP/直売あり。その他、神戸市「そごう神戸店」、東京・豊島区「西武池袋本店」、台東区「まるごとにっぽん 蔵」などで販売

VOICE 32 兵庫・神戸市「スイミー牛乳店」水門輝美さん

(画像左)「肩の力を抜いて暮らせる昔ながらの商店街で、豆腐のように気軽に買える日常のチーズを作りたい。」/「スイミー牛乳店」水門輝美さん(画像右上)とろりとしたウォッシュチーズ「ハイカラー」は脂肪分の高い冬の牛乳で作る限定品(画像右下)いつも常連客でにぎわう人気店

昭和感満載の商店街にわずか数坪の店ができたのは2018年1月。看板商品はヨーグルトに似たアイスランドのチーズ、“スキール”がベースの「スイミー!!」です。

「日本だと、国産のナチュラルチーズは一部の人しか買わない“たいそうなもの”のイメージ。豆腐みたいに気軽に買ってもらいたくて」と語るのは、店主の水門輝美さん。

20代で渡英しチーズ作りを勉強、その後北海道の工房や東京の商社で乳製品に携わった水門さんが、食べやすい「スイミー!!」をこの地で作るのは、「もっとチーズを日常に」という想いから。

一方、その腕前がいかんなく発揮された熟成タイプのウォッシュチーズも販売。曰く「みんなの日々の選択肢に、いつかウォッシュが入ればいいな」。人情味溢れる下町に、新たなチーズ文化が芽吹きます。

(画像左)コクのある「スイミー!!」。酸味を抑えたヨーグルトも販売(画像右)「スイミー!!」1036円(220g)

スイミー牛乳店

TEL.078-381-9763
住所/兵庫県神戸市中央区北長狭通8-8-9
SHOP/直売のみ

【東京でも4人のチーズが買えます!】SHOP|清澄白河「チーズのこえ」

今回紹介した4つの工房のチーズを東京で購入するなら、日本で唯一の国産ナチュラルチーズ専門店「チーズのこえ」へ。チーズコンシェルジュが選んだ約40工房、年間300種類以上のチーズを取り揃えています。

TEL.03-5875-8023
住所/東京都江東区平野1-7-7 第一近藤ビル1F
営業時間/11:00~19:00
定休日/不定休

【終了しました】 関西地方エリアのチーズを味わうランチ


共創料理 with クリマ ディ トスカーナ

Metro min.編集部が独自にセレクトした名店と、日本各地のチーズの生産者とのコラボレーションによるイベント「共創料理」。第8弾は取材陣とともにチーズ工房を訪れたイタリア料理店「クリマ ディ トスカーナ」の佐藤真一シェフが腕を振るいます。まずは「ミルクファームすぎやま」の杉山牧さんのお話をお聞きしながら、ウェルカムドリンクとチーズの食べ比べを。その後、佐藤シェフがそのチーズを使用して作る全4皿の特別コースが登場します。

場  所/クリマ ディ トスカーナ(東京都文京区本郷1-28-32-101)
日  時/2019年8月31日(土) 11:30 ~14:30(予定)
料  金/3000円(ウェルカムドリンク、チーズ食べ比べ、全4皿のコース)
募集人数/22名(抽選) ※着席スタイル
応募締切/2019年8月4日(日)

イベント実施の様子

概要
京都・京丹波町の「ミルクファームすぎやま」杉山牧さんのチーズへの想いを聞きつつ、イタリア料理店「クリマ ディ トスカーナ」の佐藤真一シェフによる、「ミルクファームすぎやま」のチーズを使用した特別料理を味わった。
参加者の感想(抜粋)
生産者の方とお会いする機会はなかなかないので、色々な話を聞きつつ、その素材を使った料理が食べられて、大変楽しい時間を過ごすことが出来ました。

チーズについて、知識が深まった。実際に京丹波を訪れたくなった。今野さんのお話も杉山さんのお話も素晴らしかった。本日のチーズにあった料理もすべて美味しく、甘いものが苦手でもデザートまですべて頂きました。
メトロミニッツ「ハンバーガー」特集

メトロミニッツ2019年8月号「ハンバーガー」特集

2019年8月号は、アメリカ生まれ「ハンバーガー」の特集。ハンバーガーは、建国から243年の間に生み出された、数少ないアメリカの食文化。アメリカが大国へ成長するにつれ、ハンバーガーも国境も越えて世界各地へと広がっていきました。それは、もちろんここ日本でも同様で、1970年代頃からハンバーガー業界は急成長。日本全国、老若男女、誰にでも親しまれている国民食になりました。本特集では、そんなハンバーガーのこれまでの成長ぶりをご紹介。あと、美味しそうな写真も満載。月面着陸から50周年なんてことも軽く登場します。

後援:独立行政法人 農畜産業振興機構「国産チーズ競争力強化支援対策事業」

Photo よねくらりょう Text 唐澤理恵
※メトロミニッツ2019年8月号「ハンバーガー」特集の記事転載
※本ページで記載の価格は全て「チーズのこえ」の販売価格となります
※掲載店舗や商品などの情報は、取材時と変更になっている場合もございますので、ご了承ください

※記事は2019年7月20日(土)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります