VOICE OF CHEESE 日本のチーズ職人「百人百話」 Vol.4 関東エリア 日本チーズの“こえ”に出会う旅

更新日:2019/06/04

今、着実に盛り上がりを見せている日本のナチュラルチーズ。国内の工房数は10年前の倍近くに増加し、国際コンクールで入賞を果たすチーズが続々と現れています。生乳を発酵・熟成させて作るナチュラルチーズは、自然の力と職人の製造技術のたまもの。そして何より作り手の想いが込められていることが、美味しさの必須条件です。チーズが生まれる現場から、作り手の“こえ”をお届けする本連載。

VOICE 13 千葉県・いすみ市 「haru Fromagerie・Café」吉見真宏さん

(画像左)「普通の人の普通の食卓に並ぶ土地に馴染んだチーズを豊かな里山が広がるいすみの地で作り続けたい。」/「haru Fromagerie・Café」吉見真宏さん(画像右上)整頓が行き届いた工房に、吉見さんの人柄がにじむ。手にするのは、溶接からDIYした自作のカッター。生乳は背後のコンロを使い、少量ずつ直火で仕込む(画像右・中央)自家製チーズを載せたガレットなどを提供するカフェでは、奥様の幸代さんが腕を振るう。「チーズを売るだけでなく、地域に馴染む場所にしたい」と吉見さん(画像右下)毎週20kgほどのペースで、4種のチーズを生産。現在も「牛の健康第一で、真面目に牛乳を作っている」と信頼を寄せる「高秀牧場」の生乳を使用する

温暖な気候と豊かな自然で知られ、近年移住者が増加中の千葉県・いすみ市。田畑に囲まれた工房を営む吉見さんもまた、この地に魅了された1人です。「元々北海道で土地を探していたのですが、難航して。地元の千葉にもチーズ職人がいると聞き、いすみ市内の工房を訪れてみたら、景色がきれいで感動したんです」。

移住を決め、同じ市内の「高秀牧場」でチーズ作りを開始。2014年と2016年の「ジャパンチーズアワード」では2回連続で金賞受賞、さらに2015年のフランスの国際コンクールで最高賞を受賞するなど実績を積み、2018年7月に独立を果たしました。輝かしい経歴を持つ吉見さんですが、酪農学校で理論を学んだことはありません。

チーズに興味を持ったのは20代の頃。ヨーロッパを旅した際、チーズの一大産地・オーヴェルニュの景色に圧倒されたことが、その後の人生を変えたそう。「帰国後、ワーキングホリデー制度に応募し、再び現地のチーズ農家を訪れて住み込みで働きました」。理屈より肌感覚を信じ、コツコツと積み重ねた経験を元に作られるチーズは、製法こそフランス流ですが、「世界も日本もあまり意識しない」と吉見さん。「チーズ好きでもワイン好きでもない人に、美味しいと思って欲しいんです」。

ブルーチーズも、吉見さんが作ればミルクの甘みが際立つ上品な味わいに。毎日朝食で楽しむ常連客がいると聞いて納得です。里山の景色を見渡す店には、今日も“吉見さんのチーズ”を求め、地元の人が次々と訪れます。

(画像左)「エレガントで、日本らしい繊細さがあるチーズ。吉見さんの考え方にも感銘を受けます」と「ビストラン エレネスク」のシェフ・井口和哉さん(画像右上)店名の「haru」はアイヌ語で「豊かな食の恵み」を意味する(画像右下)酵母を使って熟成させる「haru」(工房限定品)。なめらかな口溶けで風味豊か。右は青カビの熟成タイプ「ブルー」2127円/180g

haru Fromagerie・Café

TEL.0470-62-5610 
住所/千葉県いすみ市山田332 
SHOP/直売あり

VOICE 14 千葉県・いすみ市 「高秀牧場」大倉典之さん

(画像左)質の高い生乳の良さを活かしてオリジナルなチーズ開発に挑戦中「高秀牧場」大倉典之さん(画像右上)牛の健康を最優先し、環境にも配慮するのが牧場の方針(画像右下)「草原の青空」 1998円/200g

循環型酪農を心がける「高秀牧場」で、「haru Fromagerie・Café」の吉見さんの後を継ぐのが大倉典之さん。大学でチーズの熟成を研究、大手乳業会社で10年間チーズ製造に携わり、2017年から現職につきました。

「生乳という1つの素材から、アミノ酸や脂肪酸をどう引き出すか。それが楽しいんです」。チーズを語ると専門用語が飛び出し止まらない、生粋の研究者肌。吉見さんの代名詞だった受賞チーズ「草原の青空」などは継承しつつ、オリジナルのチーズも提供したいと、フランスのシェーブルに倣い木炭をまぶした新商品などを続々開発中です。

さらに大倉さんの挑戦を後押しするのが、自身がほれこんだこちらの生乳。「『高秀牧場』の生乳は質が高く、爽やかな味わい。その特徴を活かした熟成チーズを作りたい」。今秋イタリア研修も終えた大倉さん、今後の躍進に期待が高まります。

(画像上)現在は新作含め、6種のチーズをラインアップ(画像下)毎朝搾乳直後の生乳をバケツで運び、直火殺菌でチーズを仕込む

高秀牧場

TEL.0470-62-6669
住所/千葉県いすみ市須賀谷1339-1
SHOP/直売あり(直営ショップ「高秀牧場ミルク工房」)

VOICE 15 神奈川県・厚木市「牧歌 BOCCA」河内賢一さん

(画像左)「甘みと旨みがぎゅっと詰まった日本一小さな牧場のチーズです。」/「牧歌 BOCCA」河内賢一さん(画像右上)工房の所在地・王子から名付けたハードチーズ「プリンス」は、牛の他、羊の生乳でも作る。中には30カ月熟成のものも(画像右下)「牛のプリンス」 1533円/100g

厚木の住宅地からすぐの、盛り土の元資材置き場。まさかと驚くような場所に忽然と現れるのが、「ボッカ」の農場です。牛や羊、山羊たちがのんびり暮らす自称“日本一小さい農場”を管理し、彼らの乳からチーズを作るのが河内賢一さん。ちなみに工房は自宅の1階、個人学習塾の教室だった部屋だとか。

「牧場も工房も、生業と同時に生活の一部。自分でできる範囲で牛乳を搾り、余ったらチーズに加工する。ミニマムな規模でやることで、酪農は誰にでもできる産業なのだと示したいんです」。驚くのは、濃厚で、まるでミルクスープのような牛乳の味! その生乳から作るチーズもまた、凝縮されたミルクの甘みと、出汁のような旨みをたっぷりと感じられます。

トラクターも草刈り機もない街中の牧場から届く、滋味深いチーズ。これからの酪農の1つの形が、ここにあります。

ジャージー牛3頭、羊9頭、山羊2頭を飼育中

牧歌 BOCCA

TEL.046-295-9260
住所/神奈川県厚木市王子1-12-9
SHOP/直売あり。その他、厚木市「JAあつぎファーマーズマーケット夢未市」などで販売

VOICE 16 群馬県・前橋市「チーズ工房 Three Brown」松島薫さん、俊樹さん

(画像左)「長年掛けて叶えたチーズ作りの夢。これからもお客さんと共に歩んでいきたい。」/「チーズ工房 Three Brown」松島薫さん、俊樹さん(画像右上)耕作放棄地を手で開墾した放牧地では、4頭の牛が草を食む(画像右下)「カチョカバロ」 766円/100g

「楽をするより遠回りしたい。その方が自分のためになるから」。そう語る松島夫妻の人生は、まさに波乱万丈。薫さんの両親が所有する赤城山中腹の養豚場跡地に家と牛舎を建て、2人で作り上げたのがこの牧場。3頭のブラウンスイス牛から始まったことが、工房名の由来です。

北海道の有名工房「共働学舎」で修業した俊樹さんでしたが、「乳量も環境も違うし、当初は失敗の連続」。試行錯誤の中、徐々に地元で人気を得たのが、さけるタイプの「モッツアレラ」や食べやすい「カチョカバロ」でした。「群馬はチーズ生産者が少なく、熟成チーズに慣れない人も多い。でも僕らも初心者みたいなものだから、お客さんと一緒に育っていけたら」。

今や扱うチーズは10種以上、本格的な熟成タイプも生産予定ですが、「顔が見えるから」と対面販売を大切にするあたり、誠実な夫妻の人柄がにじみます。

(画像上)標高は600メートル。日照も長く気持ちの良い風が吹く(画像下)新設したショップ兼工房では、ジェラートも販売予定

チーズ工房 Three Brown

TEL.027-285-6862
住所/群馬県前橋市粕川町中之沢384-96
SHOP/直売あり。一部ギフトセットはオンラインで注文可能

【東京でも4人のチーズが買えます!】SHOP|清澄白河「チーズのこえ」

今回紹介した4つの工房のチーズを東京で購入するなら、 日本で唯一の北海道産ナチュラルチーズ専門店「チーズの こえ」へ。チーズコンシェルジュが選んだ約35工房、年間 300種類以上のチーズを取り揃えています。

TEL.03-5875-8023
住所/東京都江東区平野1-7-7 第一近藤ビル1F
営業時間/11:00~19:00
定休日/不定休

【終了しました】2019年1月16日(水)開催! 関東エリアのチーズを味わうディナーイベント

イベント名
共創料理 with エネレスク
開催場所
ビストラン エレネスク(東京都港区麻布十番3-3-9 COMS AZABUJYUBAN 2F)
開催日程
2019年1月16日(水)
開催時間
19: 00~21:30(予定)
料金
3000円(ウェルカムドリンク、チーズ食べ比べ、全6皿のコース)
募集人数
16名(抽選) ※着席スタイル
メトロミニッツWEB「一流の料理人がいる名店案内」に加盟するレストランと、日本各地の生産者とのコラボレーションによるイベント「共創料理」。第4弾は取材陣とともに作り手のこえを聞いたフランス料理店「ビストラン エレネスク」の井口和哉シェフが腕を振るいます。まずは「ハル フロマジュリ・カフェ」の吉見さんのお話をお聞きしながら、ウェルカムドリンクとチーズの食べ比べを。その後、井口シェフがそのチーズを使用して作る全6皿の特別コースが登場します。
メトロミニッツ「日本のさかな」特集

日本のさかな

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後援:独立行政法人 農畜産業振興機構「国産チーズ競争力強化支援対策事業」

Photo 松園多聞 Text 唐澤理恵
※メトロミニッツ2018年12月号「日本のさかな」特集の記事転載
※本ページで記載の価格は全て「チーズのこえ」の販売価格となります
※掲載店舗や商品などの情報は、取材時と変更になっている場合もございますので、ご了承ください

※記事は2019年6月4日(火)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります