バレエは、台詞や歌詞を伴わない舞踊劇であり、踊り・音楽・美術・衣装・舞台装置などすべてを含めた総合舞台芸術。イタリアの宮廷から発生し、フランスに移入され、ロシアで発達した。日本にはロシア経由でもたらされ、近年では老若男女を問わず楽しまれている。バレエを観たことがあっても、そのルーツを知らない人もいるのでは? そこで今回は、発祥から500年を経てもなお愛され続けるバレエの歴史をご紹介します。
パリ・オペラ座バレエ団『ジゼル』
~第3の誕生からクラシック・バレエまで~
【第3の誕生】ロマンティック・バレエの誕生
前回の記事で紹介した「演劇バレエ」は、パントマイム中心で踊りが少なかったため、退屈だったらしくすぐに廃れてしまった。ここからは第3の誕生からバレエの歴史を紐解いていきます。
19世紀に入ると、誰がどこで最初にやったのかの発祥は不明だが、爪先で立つという技法が生まれた。それまでのバレエでは、男女ともヒールのある靴で踊っていた。「爪先立ち(シュル・レ・ポアント)」は瞬く間に普及し、じきに女性ダンサーが全員やらなくてはならない技法となった。現在でも、誰もが「バレエ」と聞いて最初に思い浮かべるのは爪先立ちだろう。ちょうどその頃、演劇と舞踊を融合させた新しいスタイルのバレエが確立した。現在私たちが観るようなバレエの形式であり、これがバレエの3回目の誕生である。
この新しいバレエはヨーロッパ中で大流行し、たくさんの演目が作られた。この時期のバレエを「ロマンティック・バレエ(ロマン主義時代のバレエ)」と呼ぶ。代表作は、現在でもよく上演される『ジゼル』である。宮廷バレエ以来、中心的なダンサーは常に男性であったが、ロマンティック・バレエの時代に女性が男性に取って代わり、今日に至るまで続いている。しかし、このロマンティック・バレエも19世紀半ばを過ぎるとマンネリ化して衰退し、バレエの中心はフランスからロシアへと移っていく。
バレエの中心はフランスからロシアへ。「クラシック・バレエ」が確立
ロシアはバレエ後進国であったが、19世紀に入るとフランスから呼び寄せたバレエマスター(振付家・教師・監督を兼ねる人)たちによって急速にレベルアップし、ついには西欧を凌駕するようになる。19世紀後半には、フランス人のマリウス・プティパによって「クラシック・バレエ」と呼ばれる形式が確立した。バレエは演劇と舞踊が合成された芸術で、ロマンティック・バレエはかなり演劇的だったが、クラシック・バレエでは舞踊の方に重心が移り、「ソロ」「パ・ド・ドゥ(男女のデュエット)」「ディヴェルティスマン(ストーリーからある程度独立した小組曲)」「群舞」からなる、音楽でいえば管弦楽のような構成になっている。テクニックも飛躍的に発展し、32回フェッテ(一方の足で爪先立ちをし、もう一方の足で空中を蹴りながら回転する技法)に代表されるような、高度なテクニックも作り出された。
1890年、プティパはチャイコフスキーと共同で『眠れる森の美女』を初演。この作品はクラシック・バレエの金字塔である。その2年後には、同じくチャイコフスキーの曲による『くるみ割り人形』が初演された(台本はプティパが書いたが、病気のため、実際に振り付けたのはアシスタントのイワノフ)。そして1895年には、不評で20年近くお蔵入りしていたチャイコフスキー作曲の『白鳥の湖』改訂版を初演した(第1幕と第3幕はプティパ振付、第2幕と第4幕はイワノフ振付)。チャイコフスキーの3大バレエ『眠れる森の美女』『くるみ割り人形』『白鳥の湖』は世界中で親しまれ、現在ではバレエの代名詞的な存在となっている。
しかし、20世紀に入りプティパが引退するとすぐ、新しい世代はクラシック・バレエに反旗を翻し、新たな表現をめざした。そうした反逆者たちを集めてバレエ団を結成し西ヨーロッパに進出したのが、後述するセルゲイ・ディアギレフである。
監修|鈴木 晶(すずき・しょう)
法政大学名誉教授、早稲田大学客員教授、舞踊評論家。東京大学文学部ロシア文学科卒、同大学院博士課程修了。著書に『バレエ誕生』『オペラ座の迷宮』『バレリーナの肖像』(いずれも新書館)、『バレエの魔力』(講談社)など。訳書に『ディアギレフ』(みすず書房)、『ニジンスキーの手記』(新書館)ほか多数。ミュージカルやフィギュアスケートも研究している。
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