人気力士がまさかの八百長!?勝った素人力士はその時・・・

更新日:2020/10/15

日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう・・・なんて思ってない? そんな歌舞伎の世界に触れてもらうこの連載。古典ながら現代にも通じるストーリーということを伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。今回は、2020年『十月大歌舞伎』で上演の「双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)角力場(すもうば)」に注目します!

恋する歌舞伎 第63回
「双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)角力場(すもうば)」

角力場

【1】大関VS米屋の息子の相撲対決。蓋を開けてみると座布団が飛ぶような結果に

大阪・堀江の角力(すもう)小屋では、人気力士の濡髪長五郎(ぬれがみちょうごろう)と、放駒長吉(はなれごまちょうきち)の取り組みが始まろうとしている。大関の濡髪に対して、放駒は素人相撲で名を上げた米屋の息子。プロの力士ではないが、放駒を贔屓にしている侍の平岡郷左衛門(ひらおかごうざえもん)によって、今回の取り組みが実現したのだ。この対決は話題となり、見物客も大勢つめかけている。大方の予想では濡髪の圧勝だと思われたが、長吉が勝利をおさめた。興奮さめやらない放駒が小屋を出ると、郷左衛門が駆け寄ってきて、見事な勝利だったと褒めちぎる。また、話の流れで「遊女・吾妻(あづま)の身請けに協力してほしい」と依頼されるのだった。世話になっている侍の頼みゆえ放駒は快諾するが、この身請けには、一筋縄にはいかない事情があった。

角力場

【2】最強力士はわざと負けた。そこには大人の事情が・・・

実は吾妻には、与五郎(よごろう)という恋人がいる。与五郎は大阪でも有名な山崎屋という商家の若旦那で、放駒の対戦相手である濡髪を大の贔屓にしているのだ。郷左衛門が吾妻を身請けしようとしていることは既に噂になっており、吾妻自身も好きでもない人に身請けされることを心配している。また濡髪は、与五郎からこのことについて相談を受けていたので、若旦那のために一肌脱ごうと考えていた。そこで、郷左衛門は放駒の贔屓なので、彼に吾妻を身請けしないよう取り計らってもらうため、わざと取り組みに負けたのだった。

角力場

【3】試合に勝って勝負に負けた。一気に崖から突き落とされる男

濡髪は事情を打ち明けるために、人を遣って放駒を呼び出す。誰に呼ばれたか知らずにやってきたが、そこにいるのが濡髪と知り驚く放駒。濡髪は、堂々とした出で立ちで早速話を始める。まずは率直に、世話になっている与五郎と吾妻はすでに深い仲なので、郷左衛門に身請けを諦めさせてほしいと頼むが、放駒は、御左衛門は大恩ある侍なのでその頼みは受けられないという。するとなぜか濡髪は、今日の立ち合いの様子をつぶさに話だす・・・。それを聞いて放駒は、自分は全力で挑んだにも関わらず、濡髪は力を抜いていたのだとわかり、途端に怒りを顕にする。そして「なぜ本気の試合をした上で、吾妻の身請けの話をしなかったのか」と、感情的に濡髪を責め立てる。

角力場

【4】力だけでは勝負がつかない、男同士の意地の張り合い

濡髪は全く動じず、真剣勝負をしたならば、濡髪が圧倒的勝利をおさめるのは目に見えている。そうなってしまえば、吾妻の身請け話のことに耳を貸してくれなくなるだろうというのだ。放駒の怒りは頂点に達し、濡髪の願いを頑なに拒絶する。その様子を見ていよいよ濡髪も我慢の限界に達し、力ずくでも頼みを聞いてもらおうと、茶碗を素手で握りつぶしてみせ、己の力を見せつける! これを見た放駒も、負けてはいられないと同じように茶碗を壊そうとするが、到底力は及ばない。濡髪の見ていない隙に、茶碗を脇差の柄で叩き、さも力で壊したかのように振る舞う。互いに譲らぬ2人は、再会を約束し、その場から離れるのだった。

「双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)角力場(すもうば)」とは

寛延二(1749)年大坂竹本座初演。原作は竹田出雲、三好松洛、並木千柳の合作。全九段の中の二段目に当たり、第62回で紹介した八段目の「引窓」につながる。
また本外題の「双蝶々」とは、濡髪「長」五郎と放駒「長」吉の名前を読み込んでいると言われている。舞台となっている堀江は大阪相撲発祥の地であり、近くには一大遊郭があった。上方の世話物の魅力を存分に楽しめる一幕である。

監修・文/関亜弓
歌舞伎ライター・演者。大学在学中、学習院国劇部(歌舞伎研究会)にて実演をきっかけにライターをはじめ、現在はインタビューの聞き手や歌舞伎と他ジャンルとのクロスイベントなども行う。代表を務める「歌舞伎女子大学」では、現代演劇を通して歌舞伎の裾野を広げる活動をしている。

イラスト/カマタミワ

【お知らせ】
「恋する歌舞伎」は約5年間にわたり、63回掲載させていただきましたが、今回で、一度連載をお休みさせていただきます。これまでご愛読いただきましてありがとうございました。

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おうち時間やランチタイム、ちょっとした休憩時間に、歌舞伎のストーリーを動画で勉強してみよう。現代風にアレンジした読みやすい内容と、絶妙に笑える超訳イラストで、初心者でも気軽に楽しめるはず。

第二部では「双蝶々曲輪日記 角力場」を上演!歌舞伎座『十月大歌舞伎』

十月大歌舞伎

歌舞伎座『十月大歌舞伎』には、松本白鸚、片岡仁左衛門、坂東玉三郎や中村芝翫、片岡孝太郎、中村勘九郎、中村七之、坂東彌十郎、中村歌六など、豪華な役者が勢ぞろい。上演されるのは、七之助が人形の精をうっとりするほど美しく演じる「京人形」、白鸚と勘九郎の2人の対照的な力士を描いた「双蝶々曲輪日記 角力場」、智勇を兼ね備えた名将を仁左衛門が演じる「梶原平三誉石切」、夢枕獏が坂東玉三郎のために書き下ろした「楊貴妃(ようきひ)」など。1部につき1幕のみの上演で料金もリーズナブルなので、初心者でも楽しく観られるはず。笑いあり、涙あり、大立廻りありの華やかな演目を鑑賞して、芸術に触れる秋の1日を楽しんで。

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※記事は2020年10月15日(木)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります