単純明快、これぞ歌舞伎。江戸のヒーローと一緒にストレス発散!

更新日:2020/06/17

日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう・・・なんて思ってない? そんな歌舞伎の世界に触れてもらうこの連載。古典ながら現代にも通じるストーリーということを伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。今回は、歌舞伎十八番の内「暫(しばらく)」に注目します!

恋する歌舞伎 第59回
歌舞伎十八番の内「暫(しばらく)」

歌舞伎十八番の内『暫(しばらく)』

【1】わかりやすい善VS悪の構図。ピンチの時やってくるのはもちろん正義の味方

ここは鎌倉の鶴岡八幡宮の社前。悪人・清原武衡(きよはらのたけひら)と、善人・加茂次郎義綱(かもじろうよしつな)の家来同士がもめている。発端は善人グループが八幡宮の額堂(がくどう)に奉納した品に、悪人グループが難癖をつけたこと。そして、自分たちが用意した宝剣<雷丸(いかづちまる)>こそ奉納するに相応しい! と主張したため、争いになったのだ。そこへ現れたのは、悪人側のリーダー・武衡。天下を我が物にしようとしているこの男は、義綱に自分の家来になるよう脅す。さらにこの場には、義綱の許嫁・桂の前がいるが、この美女にも自分に従うよう迫る。2人が拒絶すると、怒った武衡は全員の首をはねるよう命じるが・・・。

歌舞伎十八番の内『暫(しばらく)』

【2】大男だけど実はまだ少年!図々しいくらい動じないヒーロー

その時、どこからともなく「しばらく」という大きな声が聞こえてくる。弱気を助け、強気をくじく正義のヒーロー・鎌倉権五郎景政(かまくらごんごろうかげまさ)の登場だ。まず花道にどっかと座り、掛詞(かけことば)や先祖由来の文句を盛り込んだ長ぜりふ(「ツラネ」という)を一気に語る。とんだ邪魔が入ったと武衡は、この大男を追い払えと家来たちに命じる。個性的な家来たちが代わる代わる追い返そうとするが、権五郎は動じないどころか、軽くあしらってしまう。そして悠然とした歩みで舞台中央まで進み、豪快な「元禄見得(げんろくみえ)」を見せる。善人側の義綱たちは、この最強の男が到着したことを喜ぶのだった。

歌舞伎十八番の内『暫(しばらく)』

【3】きわめつけにスパイの存在発覚。気持ち良すぎる大団円

権五郎は武衡に向かい、無礼な態度の数々を非難する。さらに奉納しようとしている宝刀・雷丸は実は偽物で、謀反の呪いをかけていることを暴く。また義綱が紛失したという重宝も、武衡が持っているはずだと詰め寄る。すると、武衡側にいた女性・照葉が、すでにこの重宝を自分が持ち出したと言うのだ! 照葉は実は権五郎のいとこで、悪人方のふりをしたスパイだったのだ。照葉のおかげで、武衡が国家転覆を狙っているという証拠が揃った。大事なお家の重宝も義綱に渡され、義綱一行は権五郎に後を託して帰路につく。

歌舞伎十八番の内『暫(しばらく)』

【4】誰も止められない超・わんぱく坊やのおかげで悪者退散。めでたしめでたし

武衡は最後の悪あがきと言わんばかりに、再び家来たちに権五郎を襲うよう命令する。だが権五郎は、2メートルもある巨大な太刀を抜き、敵たちを片っ端から斬り捨てていく。権五郎の人間離れした強さに圧倒され、勝ち目はないと悟った悪人たちには、もはや為す術もない。権五郎は意気揚々と、引きあげていくのだった。

「暫(しばらく)」 とは

1697(元禄10)年1月中村座にて『参会名護屋』の中の一場面とし初演。歌舞伎十八番のひとつ。毎年11月の顔見世興行で役名や演出を変えて上演されることが恒例となっていたが、1878(明治11)年11月に新富座で九代目團十郎が上演して以来『暫』の題で独立上演されるようになる。主人公を女性にした『女暫』も度々上演される。

監修・文/関亜弓
歌舞伎ライター・演者。大学在学中、学習院国劇部(歌舞伎研究会)にて実演をきっかけにライターをはじめ、現在はインタビューの聞き手や歌舞伎と他ジャンルとのクロスイベントなども行う。代表を務める「歌舞伎女子大学」では、現代演劇を通して歌舞伎の裾野を広げる活動をしている。

イラスト/カマタミワ

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※記事は2020年6月17日(水)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります