恋する歌舞伎:第5回「与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)」
【1】目と目があったそのとき恋は始まる!が、一筋縄ではいかない大人の恋愛
出会った瞬間、ビビビときた恋の衝動は止められないもの。このお話の主人公・与三郎(よさぶろう)も、お富(おとみ)という女性と目が合い一瞬で恋に落ち、着ていた羽織が落ちたことも気付かない程その色香に魅了されてしまう。一方お富も、この木更津では見かけない都会のイイ男である与三郎に一目惚れ。瞬時に互いの気持ちを見抜いた2人は、やがて恋仲となる。
しかしこの美男美女、それぞれちょっと訳アリの身分なのだ。与三郎は、江戸の商家の息子であるものの、養子であるため、実子である弟に遠慮してか、わざとグレた振りをして、今は木更津の親戚のもとへ預けられ謹慎中。お富は元深川の芸者で、今はやくざの親分・赤間源左衛門の妾(愛人)なのだった。
【2】密会がダンナに見つかり絶体絶命大ピンチ!
危険な恋とわかりつつも隠れて逢瀬を楽しむ2人だが、とうとうお富を囲っている源左衛門に密会がバレてしまう! 怒り心頭の源左衛門とその手下たちによって、与三郎は刀で散々に斬りつけられる。お富はその場から必死で逃げるものの、運悪く子分にみつかって八方ふさがりとなり、とうとう海に飛び込む。
助かるはずがないと思われたお富だったが、幸運にも偶然通りかかった舟に助けられ、命を繋ぐのだった。
【3】月日は流れ、死んだはずのお富と再会した与三郎は・・・
それから3年後、舞台は鎌倉に移る。お富はといえば、助けられた多左衛門という男の妾となり暮らす日々。ある日お富の家へ、蝙蝠安(こうもりやす)と呼ばれるゴロツキが、全身傷だらけの男と金をねだりにやってくる。実はこの傷だらけの男は変わり果てた与三郎。3年前、源左衛門から体に受けた傷は34カ所にも渡り、その上実家からは勘当。今はならず者になり下がり、金を無心に来てみたが、そこはかつて命がけで愛し合ったお富の家だったのだ。
与三郎にとっては、死に別れたと思ったあの日から片時も忘れたこともなかった恋人が、商人の愛人として優雅な暮らしを送っていることが腹立たしくてたまらない。恨みつらみをぶつけ、お富をなじる与三郎。そこへ折よく多左衛門が帰ってくる。
【4】運命に翻弄されてもお互い引き寄せ合う、不思議な2人の結末
何者かと問われた与三郎は、お富と深い仲であることを主張しようとするが、お富が機転を利かせ自分の兄だと言って紹介する。すべてを察した多左衛門は、与三郎に対し、まずは堅気になれと金を渡し、商売でも始めてから再び来るようにいう。実はこの多左衛門、実はお富の実の兄であり、助けたときからその事実に気づき、こうして妾宅に住まわせ妹のことを守っていたのだった。そのことを知った2人は、今度こそ誰に邪魔されることなく、2人で幸せに暮らすことができる。「生涯お前を離しはしない」と固く誓う与三郎なのだった。
と、歌舞伎ではここで幕となることが多いが、実はこの後またもや引き裂かれる2人。しかし、命の危機にさらされようとも、傷だらけになろうとも、磁石のように引きつけあってしまう2人。3度目となる奇跡の再会を果たし、お富と与三郎の大人の恋愛はついに成就されるのであった。
監修・文/関亜弓
歌舞伎ライター・演者。大学在学中、学習院国劇部(歌舞伎研究会)にて実演をきっかけにライターをはじめ、現在はインタビューの聞き手や歌舞伎と他ジャンルとのクロスイベントなども行う。代表を務める「歌舞伎女子大学」では、現代演劇を通して歌舞伎の裾野を広げる活動をしている。
イラスト/カマタミワ
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