今回は「おちくぼ物語」をピックアップ! 日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう・・・なんて思ってない? そんな歌舞伎の世界に触れてもらうこの連載。古典ながら現代にも通じるストーリーということを伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。
恋する歌舞伎 第1回
「おちくぼ物語」
【1】悲劇のヒロイン、その名も“おちくぼ”姫
才色兼備なのになぜか災難続き。その上、職場や身内からも意地悪をされてつらい日々。でも努力を怠らなければ、いつか白馬に乗った王子様が迎えに来てくれる! そんな少女漫画のようなお話が歌舞伎にもあるのだ。
物語の主人公は高貴な家に生まれたにも関わらず、邸(やしき)内でも劣悪な落ち窪んだ部屋に住まわされ「おちくぼ」と呼ばれているお姫様。実の母親に先立たれ、今は気の弱い父親、意地悪な継母、その娘である妹2人と邸で暮らしている。継母である北の方は、亡き母譲りの美貌を持つ姫のことが心底気に入らない! そのため彼女はまるで召使いのような扱いを受ける日々・・・。
【2】自信が足りない女性の心を開くのはやっぱり恋!
自分に自信が持てないと「どうせ私なんか・・・」と、折角の出会いのチャンスも逃してしまいがち。実際におちくぼ姫も、貴公子と名高い左近少将(さこんのしょうしょう)からのアプローチも「何を好んでわたしなぞに」と取り合おうとしない。そんな彼女の背中を押してくれるのが侍女(じじょ)の阿漕(あこぎ)と、その夫・帯刀(たちわき)。彼らの応援もあり、とうとう姫は白馬の王子こと牛車の貴公子・左近少将と結ばれるのだった。
距離が近くなり打ち解けるにつれ、ついやきもちを焼いたり、嫌味なことをいってしまったりするのはいつの時代も変わらない。しかしそんなところも「明るいだけじゃない、色んな顔を持つ君が好きだ!」と肯定され、まさに幸せの絶頂ともいえる姫なのだった。
【3】ガラスの靴に頼らないシンデレラ、その運命やいかに・・・!?
しかし恋愛において、ピンチは必ずやってくる。おちくぼが自分の留守中に男と密会していたとわかり、怒り心頭に発する継母。しかもそれがよりによって実の娘と縁談を進めていた左近少将だとわかってからは、もう大変!
北の方は酒呑みで放蕩者の兄・典薬助(てんやくのすけ)を、納屋に閉じ込めたおちくぼのところに向かわせ、無理矢理襲わせるという卑劣な計画を実行する。
【4】日本のシンデレラは自ら幸せを掴みとる!
シンデレラのお話は、幸福のまっただ中で12時の鐘が鳴り、魔法はすべて解け、元のみすぼらしい女の子に戻ってしまう。しかし魔法が解けないよう、最後まで自分の手で幸せを掴みにいくのが和製シンデレラ・おちくぼ姫。典薬助にお酒を飲まされ暴行されそうになるところ・・・姫はお酒の力でかえって力が芽生え、なんと相手をこてんぱんに打ちのめしてしまったのだ!
生まれて初めて自分のすべてを受け入れてくれる、心から愛する人のおかげで自信と勇気を得た彼女は、常に萎縮し「お許し遊ばせ」が口癖の女の子ではもはやない。自分のことを認めてくれる人に出会い、肯定されることで自信が芽生えるのは今も昔も変わらないのだ。おちくぼ姫から勇気づけられる女性は多いのでは?
監修・文/関亜弓
歌舞伎ライター・演者。大学在学中、学習院国劇部(歌舞伎研究会)にて実演をきっかけにライターをはじめ、現在はインタビューの聞き手や歌舞伎と他ジャンルとのクロスイベントなども行う。代表を務める「歌舞伎女子大学」では、現代演劇を通して歌舞伎の裾野を広げる活動をしている。
イラスト/カマタミワ
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