壮大な物語のはじまり。大恩ある人のため、奔走する人々

更新日:2020/01/27

第54回恋する歌舞伎は、歌舞伎座『二月大歌舞伎』昼の部で上演予定の「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ) 加茂堤/筆法伝授/道明寺」を通して解説します!

日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう・・・なんて思ってない? そんな歌舞伎の世界に触れてもらうこの連載。古典ながら現代にも通じるストーリーということを伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。

恋する歌舞伎 第54回
「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ) 加茂堤/筆法伝授/道明寺」

「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)加茂堤/筆法伝授/道明寺」

【1】発端は出世争い。悪が善を陥れるため、目をつけたのは <加茂堤(かもつつみ)>

時は平安時代、醍醐天皇の御代。朝廷内で一番の権力者である左大臣・藤原時平(ふじわらのしへい)は、天下を我がものにしようと企んでいる。時平に次ぐ地位の右大臣・菅丞相(かんしょうじょう:菅原道真のこと)は高潔な人で、帝からの信頼も厚く、時平は一方的にライバルのように思っていた。

ある日、帝の弟の斎世親王(ときよしんのう)は、帝の病気平癒の祈願のため、賀茂神社に出かけた。大臣も来るはずが、菅丞相も時平も出席せず部下を代わりによこしたので、お供の人たちもどこか気が抜けている。近くの土手に集まっているのは、牛飼舎人(うしかいとねり:帝や貴族に仕える下級の家来のこと。牛車につなぐ牛の世話をしたり、使ったりもした)である三つ子たち。長男の梅王丸は菅丞相、次男の松王丸は時平、三男の桜丸は斎世親王に仕えているのだ。

「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)加茂堤/筆法伝授/道明寺」

【2】のどかな場所であらわになったスキャンダル。この密会が全ての始まり <加茂堤(かもつつみ)>

斎世親王の家来の三男・桜丸は、兄の梅王丸と松王丸を追い払おうとする。これには訳があり、斎世親王は、あの菅丞相の娘である苅谷姫(かりやひめ)と内緒で付き合っていて、桜丸は2人のデートの手引きをしようとしていたのだ。世間の目をはばかるこのカップルを、牛車の中で逢引きさせようという計画だったのだが、このことが時平の家臣に見つかってしまう! しかも斎世親王と苅谷姫はその後牛車を抜け出し駆け落ちをしてしまい、このスキャンダルは、時平に知れることになるのだった・・・。

「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)加茂堤/筆法伝授/道明寺」

【3】高潔な人間にも盲点が。危機を逃れるために、動き出す男たち <筆法伝授(ひっぽうでんじゅ)>

菅丞相は書道の達人であり、菅丞相が参詣に行かなかったのは、筆法を誰に伝授しようか考え、邸に籠っていたからだった。菅丞相が邸に呼び出したのは、かつての弟子だった武部源蔵(たけべげんぞう)という男。源蔵はかつて邸で働いていた腰元の戸浪との恋愛が原因で、破門されたという過去がある。別の弟子である左中弁希世(さちゅうべんのまれよ)は、奥義を伝授されるのは自分だと思っていたので、今では田舎で寺子屋を営む源蔵の身を馬鹿にする。しかし菅丞相は、源蔵に奥義の巻物を授けたのだった。

すると突然、宮廷の役人たちが大勢やってきて、加茂堤の一件を引き合いに出し「菅丞相は斎世親王を帝にして、その后に娘の苅谷姫をつけようと企む謀反人だ」というのだ。源蔵は混乱の中、梅王丸と協力して菅丞相の大切な若君・菅秀才(かんしゅうさい)を救い出し、京都のはずれにある芹生(せりょう)の里の寺子屋を目指すのだった。

「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)加茂堤/筆法伝授/道明寺」

【4】最大のピンチを助けたのは人形!皆の想いを断ち切り、船は南へ出港する<道明寺(どうみょうじ)>

菅丞相の謀反の疑いを晴らすことはできず、太宰府へ島流しになることが決まる。菅丞相を護送する船は出発したが、途中、船の汐待ち(天候待ち)をすることに。護衛の役人・判官代輝国(はんがんだいてるくに)は情け深い人で、土師の里にある菅丞相の伯母・覚寿(かくじゅ)の館に泊まらせることを許可する。行方知れずになっていたあの苅谷姫も、自分の軽率な行動が配流の原因となってしまったことを詫びるため、この館にやってくる。しかし、またもや時平の魔の手が伸びており、菅丞相は苅谷姫の姉・立田前(たつたのまえ)の夫・宿禰太郎(すくねたろう)と、太郎の父・土師兵衛(はじのひょうえ)に命を狙われる。しかし菅丞相は形見にと自分の木像を掘っており、それが本人そっくりだったため、敵はその木像を連れ去ってしまった。つまり木像が菅丞相の身代わりとなったのだ。覚寿は打掛の裾に苅谷姫を隠し、菅丞相との別れをさせるのだった。

菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)とは

竹田出雲、三好松洛、並木千柳の合作。延享三年(1746)年、大阪竹本座で初演。全五段の内、初段、二段目に含まれる。
第49回で紹介した四段目『寺子屋』の発端となる場面。源蔵や三つ子の兄弟と菅丞相の深いつながりや、「寺子屋」に到るまでの経緯や苦悩が本作で明らかになっている。


2020年『二月大歌舞伎』

監修・文/関亜弓
歌舞伎ライター・演者。大学在学中、学習院国劇部(歌舞伎研究会)にて実演をきっかけにライターをはじめ、現在はインタビューの聞き手や歌舞伎と他ジャンルとのクロスイベントなども行う。代表を務める「歌舞伎女子大学」では、現代演劇を通して歌舞伎の裾野を広げる活動をしている。

イラスト/カマタミワ

三大名作のひとつ、菅原道真を描いた壮大な歴史絵巻『菅原伝授手習鑑』をお得に鑑賞

「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)加茂堤/筆法伝授/道明寺」

『二月大歌舞伎』(昼の部)の1等席チケットにお弁当とイヤホンガイド付き

まずは開演前に歌舞伎座の地下2階、木挽町広場のお弁当処「やぐら」で、OZ特典のお弁当「地雷也 徳川」と1等席鑑賞チケット、イヤホンガイド引換券を受け取って。歌舞伎座でイヤホンガイドを借りたら、『二月大歌舞伎』昼の部を1等席から観劇。一度は観てみたい名作「菅原伝授手習鑑」を人間国宝・仁左衛門をはじめ、芝翫、勘九郎の芸で楽しめ、イヤホンガイドで解説も聴けるからビギナーでも安心して満喫できるはず。幕間にはお弁当を広げ、ひと口サイズの美味をどうぞ。見せ場での「松嶋屋!」と呼ぶ声を含め、非日常のひとときを思いっきり味わって。

【特集】初心者でも、ツウでも!たのしい歌舞伎案内

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※記事は2020年1月27日(月)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります