証言が真実なら楽器を弾け。この風流な拷問に耐えられるか!?

更新日:2019/11/27

第52回 恋する歌舞伎は、今回は十二月大歌舞伎で上演予定の「壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき)阿古屋(あこや)」に注目します!


日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう・・・なんて思ってない? そんな歌舞伎の世界に触れてもらうこの連載。古典ながら現代にも通じるストーリーということを伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。

恋する歌舞伎 第52回
「壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき)阿古屋(あこや)」

「壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき)阿古屋(あこや)」

【1】恋人の居場所を強く詮議される女。知りたいのはこちらのほうなのに

壇ノ浦の合戦で、平家は滅亡。しかし平家の残党・悪七兵衛景清(あくしちびょうえかげきよ)は、一門の恨みを晴らそうと、源頼朝の命を狙っていた。
頼朝は景清の行方を何としても突き止めるため、恋人である遊女・阿古屋(あこや)を捕らえさせ連行する。待っていたのは、頼朝に任命された役人・秩父庄司重忠と、助役の岩永左衛門。この2人は見た目も性格も対照的で、重忠は思慮深く誠意があり、岩永は粗忽で乱暴な物言いをする男だ。「居場所は知らない」という阿古屋に対し、岩永は「自分が拷問して白状させる!」という。重忠はそれを制しながら「義理と情を表に立つるのが遊君の習いであるから言いにくいかもしれないが、景清の居場所を教えてほしい」と気遣いある言葉で阿古屋に語りかける。

「壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき)阿古屋(あこや)」

【2】楽器の演奏が嘘発見器に!?なんとも風流な拷問を強いられて・・・

阿古屋は重忠の言葉に心を許し始めたのか、閉ざしていた口を開く。しかし、知らないのが真実であり、それでも疑いが晴れないのならいつまでも責めを受ける覚悟であるという。それを聞いた岩永は、懐妊している阿古屋に向かって「塩煎責(しおいりぜめ)※にする」というが、「そんな脅しに屈するようでは、遊女はつとまらない」と高笑いし、気丈に振る舞う。この様子を見た重忠は、改めて拷問にかけるための攻め道具を用意する。それは、琴、三味線、胡弓だった。「楽器を弾かせ、清らかに演奏ができたら阿古屋の心に偽りはないだろう」という意図があったのだ。阿古屋はその命令を聞き入れ、まず琴を弾き始める。

※煎って熱くなった塩を皮膚に当てるという拷問

「壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき)阿古屋(あこや)」

【3】思い出すたびに切ない、楽器の音色に寄せた恋人への想い

琴の名曲「蕗組(ふきぐみ)」を演奏するが、阿古屋は即興で歌詞を変える。「かげというも月の縁 清しというも月の縁」という歌詞は、影は月がないとできない。月があったら影が出る。月がいても、私の袖に影は映らない。つまり何があろうとも景清はいない、行方は知らないと訴えたのだ。
重忠はその歌に託した阿古屋の言い分を理解した上で、今度は景清との馴れ初めを訪ねるので、阿古屋はその出会いと別れを語る。
次に重忠は三味線を弾くよう命じる。阿古屋は「班女」(漢の武帝に捨てられた班女という女性を題材にした謡曲)の一節を弾き、景清とは美しい関係であったが、平家滅亡の後、人目を忍ぶ景清との逢瀬は格子先でたった一言交わすだけだったと嘆く。この様子を見た重忠は、趣を変え、胡弓を弾くように命じる。

「壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき)阿古屋(あこや)」

【4】一糸乱れぬ演奏に、心に一点の曇りもないと証明される!

胡弓を手にした阿古屋は、景清との恋は儚いものだったと語る。重忠はこれまでの演奏を聴き、景清の行方を知らないという阿古屋の言葉に偽りはないと判断する。もしも阿古屋が嘘をついていれば、演奏の音色が乱れるはずだが、琴・三味線・胡弓すべてにおいて狂いがなく、心に曇りがないと判断したのだ。
阿古屋はその裁きに感謝しながら、釈放されるのだった。

「壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき)阿古屋(あこや)とは」とは

享保17(1732)年大阪竹本座初演。歌舞伎では寛政8年5月江戸桐座初演。文耕堂・長谷川千四合作。全五段の打ち、三段目の「阿古屋琴責め」の場だけが残り上演を重ねている。阿古屋を演じるには三曲(琴、三味線、胡弓)を演奏する高度な技術と、傾城の品格や心情を表現が求められ、女方屈指の大役といわれている。

2019年 『十二月大歌舞伎』

監修・文/関亜弓
歌舞伎ライター・演者。大学在学中、学習院国劇部(歌舞伎研究会)にて実演をきっかけにライターをはじめ、現在はインタビューの聞き手や歌舞伎と他ジャンルとのクロスイベントなども行う。代表を務める「歌舞伎女子大学」では、現代演劇を通して歌舞伎の裾野を広げる活動をしている。

イラスト/カマタミワ

名作の阿古屋が観られる!玉三郎、松緑、獅童、中車など豪華役者が揃う『十二月大歌舞伎』

『十二月大歌舞伎』

『十二月大歌舞伎』の1等席にお弁当&イヤホンガイド付き

『十二月大歌舞伎』昼の部では、人気演目「壇浦兜軍記 阿古屋」(だんのうらかぶとぐんき あこや)や、亡き恋人の幻を追い求める人気舞踊「保名」(やすな)を玉三郎が演じるほか、ユーモアあふれる人情喜劇「たぬき」に登場する市川中車にも注目。夜の部「本朝白雪姫譚話」(ほんちょうしらゆきひめものがたり)では、玉三郎演じる美しい白雪姫にうっとり。さらに松緑や獅童なども出演する。2019年の締めくくりに、豪華役者と有名演目が観られる絶好の舞台で歌舞伎デビューを果たして。

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※記事は2019年11月27日(水)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります