小悪党の巧みな計画にハラハラドキドキ。江戸下町の世界へようこそ

更新日:2019/10/09

第51回 恋する歌舞伎は、歌舞伎座吉例顔見世大歌舞伎で上演予定の「梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)髪結新三(かみゆいしんざ)」に注目します!

日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう・・・なんて思ってない? そんな歌舞伎の世界に触れてもらうこの連載。古典ながら現代にも通じるストーリーということを伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。

恋する歌舞伎 第51回
「梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)髪結新三(かみゆいしんざ)」

「梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)髪結新三(かみゆいしんざ)」

【1】ノーと言えない縁談話。雇われの身の彼氏も口が出せず・・・

ここは材木問屋を営む白子屋。一人娘のお熊は、家に結納の目録が届けられるので、誰の婚礼があるのかと不思議に思う。すると母・お常が「店の経営が困難なため、持参金付きのいい縁談を受けてくれないか」と突然言い出すではないか。寝耳に水の縁談話を嫌がるが、「受けられないなら店を傾けてしまった申し訳なさに身を投げる」とまでいうので、首を縦に振るしかなくなってしまう。実は彼女は店の手代の忠七(ちゅうしち)という若者と隠れて付き合っていたのだ。泣き崩れるお熊は、ちょうど帰宅をした忠七に「私を連れて逃げて欲しい」というが、お互いの立場もあり、縁談を受け入れるべきだと説得される。

「梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)髪結新三(かみゆいしんざ)」

【2】悩める男女に忍び寄る、聞き上手な床屋さん。そそのかされた2人は⁉

そこへやってきたのは家々をまわって髪を結う廻り髪結いの新三(しんざ)。新三は忠七の髪をなでつけながら「このままではお熊が嫌な縁談を進めざるを得ない。彼女のことが好きなら駆け落ちをすればいい」と勧めてくる。しかも自分が手引きをし、しばらくは家でかくまってやるというのだ。悩んだ末に、忠七は新三の親切を受けることにする。

その日の夜、永代橋の川端で新三の弟分の勝奴(かつやっこ)が、お熊を乗せた駕籠を新三の家へと向かわせている。後についてくるのは相合傘をした新三と忠七。しかし先ほどまでの親切な髪結はどこへ行ったのか、新三は忠七の傘を自分の傘だと言い突き放したり、お熊のことを自分の女と言ったり、対応が妙に冷たいのだ。忠七が本当に家に連れて行く気があるのかと聞くと「そんな約束はしていない」と、眉間に傷までつけられる! 新三は、元からお熊だけを誘拐するつもりだったのだ。騙されたことに気づいた忠七は、途方に暮れ、川へ身を投げようとする。しかし弥田五郎源七(やたごろうげんしち)という男に助けられ、一命を取り止める。この男は乗物町で有名な親分で、白子屋からお熊を取り戻して欲しいと頼まれていたのだ。さっそく源七は新三の家へ向かう。

「梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)髪結新三(かみゆいしんざ)」

【3】多少高くても旬の鰹を迷わずお買い上げ。なぜなら大金が入るから!

自分の計画がうまくいき、この時期値の張る初鰹まで買う余裕っぷりの新三。そこへやってきたのは源七。十両でお熊を返せと交渉をするが、新三はそんなはした金で渡せるかといい、親分も落ちぶれたものだと馬鹿にする。それを聞いて思わず頭に血がのぼる源七だが、白子屋に出入りの伝八にも止められたのでここはこらえて、一旦引き上げることにする。
困った伝八は、新三の住む長屋の家主・長兵衛に泣きつく。源七でもケリをつけられなかったこの一件を片付けられたら、白子屋から褒美の金を釣り上げられるだろうと考える強欲なこの夫婦。長兵衛は「前科者のお前が部屋を借りていられるのは誰のお陰だ」と追い込み、大家さんには頭が上がらないと新三に言わしめ、渋々三十両でお熊を解放させることに成功する。

「梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)髪結新三(かみゆいしんざ)」

【4】力より、悪知恵。それでも結局、因果は巡る糸車

交渉が成立したので、長兵衛は新三の目の前で三十両の小判を数え始めるが「鰹は半分もらったよ」という言葉を繰り返し、十五両の金を渡そうとする。今しがた三十両と約束をしたではないかと言い張る新三。しかし大家さんは呆れ顔。どうやら鰹=仲介手数料として半分もらったよという意味らしいのだ。さらには今まで滞納していた家賃の二両も引かれ、大金を出して買った初鰹も持って行かれてしまう! 結局手元に残ったお金は十三両。一番得をしたのは部外者である長兵衛だった・・・。とはいかず、ホクホクした顔で帰ろうとしたところ、「大家さんの家に泥棒が入った!」という報告が。結局大家さんも大損をしたことがわかり、新三の溜飲は下がる。

それから数ヵ月後、親分としての面子をつぶされた弥太五郎源七は、落目で羽振りも悪くなってしまった。遺恨を晴らそうとした源七に、新三は斬りつられるのだった。

「髪結新三(かみゆいしんざ)」とは

明治六年六月中村座。河竹黙阿弥作。春から夏の季節に江戸の人々が好んだものを詠んだ「目には青葉 山ホトトギス 初鰹」という句が有名となり、江戸っ子の間では、初夏に出回る「初鰹」を食べるのが粋の証となった。江戸の風俗を生き生きと描いた作品。

2019年 『吉例顔見世大歌舞伎』

監修・文/関亜弓
歌舞伎ライター・演者。大学在学中、学習院国劇部(歌舞伎研究会)にて実演をきっかけにライターをはじめ、現在はインタビューの聞き手や歌舞伎と他ジャンルとのクロスイベントなども行う。代表を務める「歌舞伎女子大学」では、現代演劇を通して歌舞伎の裾野を広げる活動をしている。

イラスト/カマタミワ

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※記事は2019年10月9日(水)時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります