日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう・・・なんて思ってない? そんな歌舞伎の世界に触れてもらうこの連載。古典ながら現代にも通じるストーリーということを伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。第41回は、「寿曽我対面(ことぶきそがのたいめん)」に注目します!
恋する歌舞伎 第41回
「寿曽我対面(ことぶきそがのたいめん)」
【1】おめでたい正月に、なにか起こりそうなセレモニーがはじまる
源頼朝から厚い信頼を寄せられている工藤祐経(くどうすけつね)は、富士の裾野で行われる巻狩り(まきがり ※)の総奉行という職に任じられた。
※四方から狩り場を囲み、獲物を中に追い込んで捕らえる狩のこと
今日はそのお祝いにと、祐経の館にたくさんの祝い客が集まっている。小林朝比奈(こばやしあさひな)をはじめとする大名や、美しい傾城(けいせい ※)たちも招かれ、なんとも華やかな雰囲気だ。
※格式のある遊女
やがて祐経が姿を現すと、みんなが口々に祝辞を述べるのだった。そこへ、朝比奈が「祐経に対面させたい若者がいる」と、2人の若者を呼び出す。
【2】華やかなパーティーをぶち壊しにきたのは、節度ある長男と血気盛んな次男坊!
2人の若者は兄弟で、兄の曽我十郎祐成(そがじゅうろうすけなり)と、弟の曽我五郎時政(そがごろうときまさ)だった。穏やかで落ち着いた様子の兄・十郎とはうってかわって、弟・五郎は血気盛んで、今にも祐経に飛びかかろうとしている。
五郎がこんなにも興奮しているのは、2人の父・河津三郎(かわづさぶろう)が祐経に闇討ちをされたという恨みがあるからだ。
めでたい席だからと、島台(しまだい ※)を手にはしているものの、五郎は祝う気などさらさらない。祐経の態度に「堪忍袋の緒が切れた!」と、荒ぶる五郎を十郎は冷静に制している。
※祝儀の飾り物
【3】怒りの感情が隠せない次男に助け舟。しかし相手のさらなる挑発にプッツンと切れてしまい・・・
その様子をみた大名たちは、祐経の肩を持ち兄弟の無礼をとがめる。そこへ朝比奈が助け舟を出し「正月なのでお年玉がわりに盃でも」と勧めるので、祐経は兄弟に盃を授けることにする。
傾城の大磯の虎(実は十郎の恋人)は盃を、化粧坂の少将(けわいざかのしょうしょう・実は五郎の恋人)は酒を用意する。
十郎は品良く飲むが、五郎は盃を受ける時も祐経に反抗的な態度をとる。さらには「父を討たれて悔しいか」と聞かれ、感情がたかぶり、とうとう盃を乗せた台を素手でメリメリと壊してしまう。
【4】うまくことが運び、いよいよ敵討ち!ところが相手は一枚上手だった
五郎がどんなに血気にはやっていても、「友切丸(※)がなければ、敵討ちはかなわないだろう」と祐経は余裕の表情。
※紛失してしまった、源氏の宝剣
するとちょうど良いタイミングで兄弟の家臣がやって来て、刀を差し出す。祐経がその刀を検分すると、まさしく本物の友切丸だった。
五郎は待っていたとばかりに討ちかかろうとするが、祐経は「時節を待て」と制し、「富士の巻狩りでの大事な職を任せられているので、それまで敵討ちはするな。役目を終えた暁には潔く討たれよう」と言うのだ。
納得のいかない2人の元に「私からのお年玉だ」と祐経は何かを投げてきた。開けてみると、それは狩り場の2枚の切手(通行手形)だった。祐経は本当に討たれる気でいるのだ。「恨みを晴らせよ兄弟」と、どこまでも余裕たっぷりの祐経に、五郎と十郎は再会を誓うのだった。
「寿曽我対面(ことぶきそがのたいめん)」とは
本作の元となっている「曽我物語」は中世前期に成立し、謡曲や浄瑠璃、歌舞伎の題材となった。歌舞伎では初春興行で「曽我十郎・五郎の兄弟が父の仇を討つ」という設定の演目を上演することが吉例となり、毎年新しい「曽我狂言」が誕生した。幕切では工藤を鶴、曽我兄弟と朝比奈を富士山、鬼王(兄弟の家臣)を亀に見立てた形できまり、めでたい雰囲気に包まれる。
監修・文/関亜弓
歌舞伎ライター・演者。大学在学中、学習院国劇部(歌舞伎研究会)にて実演をきっかけにライターをはじめ、現在はインタビューの聞き手や歌舞伎と他ジャンルとのクロスイベントなども行う。代表を務める「歌舞伎女子大学」では、現代演劇を通して歌舞伎の裾野を広げる活動をしている。
イラスト/カマタミワ
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