第40回 恋する歌舞伎は、十二月京都南座で上演予定の『弁天娘女男白浪(べんてんむすめめおのしらなみ)』に注目します! 日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう・・・なんて思ってない? そんな歌舞伎の世界に触れてもらうこの連載。古典ながら現代にも通じるストーリーということを伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。
恋する歌舞伎 第40回
『弁天娘女男白浪(べんてんむすめめおのしらなみ)』
【1】美しいお嬢様は万引き犯!?呉服屋で起こった謎の事件
鎌倉にある呉服屋・浜松屋。そこへ、若く美しい武家の娘が家来を伴ってやってくる。娘は婚礼のために買い物をしたいとのこと。恥じらいを見せながら店の者が持ってくる高級な品々を物色する娘だが、ふと赤い小布を懐へしのばせる仕草をする。それを店の者が「万引きだ!」と見つけたので大騒ぎに。番頭は、店を出ようとする娘たちを無理やり引き戻し、取り囲んだ上、額に傷までつけてしまう。ところが娘の家来は「万引きとは言いがかりだ。証拠に別の店で買ったという符牒(ふちょう:タグ)があるから見てみろ」というのだ。確かに娘が万引きしたと見間違えた小布には、浜松屋ではなく、山形屋の符牒がついている。
「嫁入り前のお嬢様の顔に傷を負わされ、このままでは屋敷に戻れないので、皆の首を打った上ここで切腹をする!」という家来の男。騒ぎを聞きつけたこの店の若旦那がやってきて、十両の金を包み、なんとか穏便に済まそうとするがそれでは納得しない。なんと先方は百両の金を要求する! そこで店の主人がやってきて、これ以上騒ぎが大きくなってはと言われた通り百両を渡すが・・・。
【2】お嬢様の正体は女装をした美少年!一同呆気にとられる展開に
そこへ登場したのは玉島逸当(たましまいっとう)という侍。「この二人は詐欺師である。娘の二の腕には桜の彫り物があるので本当は男に違いない」と指摘する!
最初は言い逃れをしようとする娘だが、急に開き直り「もう化けちゃいられねぇ」と言い、口調も仕草も途端に荒っぽくなる。娘の正体は、弁天小僧菊之助(べんてんこぞうきくのすけ)という、世間で名高い盗賊だったのだ。自分の名前を知らないという店の者たちに「知らざぁ言って、聞かせやしょう」と、自らの生まれや育ちを朗々と語り出す。お供の侍のふりをしていたのも、同じ盗賊仲間の南郷力丸(なんごうりきまる)。悪事が露見したというのにどこまでもふてぶてしい態度をとる二人だが、最終的に額につけられた傷の薬代として二十両をもらい、渋々帰るのであった。
【3】救世主と思いきや、一連の首謀者だった!しかし悪運は尽きるもの
浜松屋の主人は、危うく悪者に騙されるところだったと玉島逸当を奥へと招き、存分にもてなす。しかしこの男も、侍というのは真っ赤な嘘。実は菊之助ら盗賊を束ねるリーダー・日本駄右衛門(にっぽんだえもん)で、先の二人とはグルだったのだ。一連の芝居で自分をすっかり信用させ、果ては店の金を洗いざらい巻き上げようという計画だったのだ。
駄右衛門の手引きで、白浪(盗賊)五人男たちは浜松屋に集結するが、とうとう悪運も尽きる。すでに詮議の手が伸びており、ここにはいられないと、浜松屋を後にするのであった。
【4】揃いの着物で華々しく散る。悪ゴレンジャーここに極まれり
稲瀬川に勢ぞろいをする白浪五人男。「志(し)ら浪(なみ)」と書かれた番傘をさし、揃いの小袖を着て一人ずつ名乗りを上げる。「盗みはするが、人の道に外れたことはしない」賊徒の首領・日本駄右衛門。女装をして悪事を働いてきた、誰をも虜にする美少年・弁天小僧菊之助。元は武家の出、盗賊になっても色気のある赤星十三郎(あかぼしじゅうざぶろう)。剣術の腕と忠誠心はあるものの、物心ついたときから悪さがやめられない、忠信利平(ただのぶりへい)。元漁師で、船での強盗はじめ背負いきれない罪を犯してきた、一味の舵取り役の南郷力丸。
五人の男たちは、颯爽と捕手に立ち向かっていくのだった。
『弁天娘女男白浪(べんてんむすめめおのしらなみ)』とは
河竹黙阿弥作。1862(文久二)年三月市村座初演。七五調の名台詞の数々、錦絵のようなシーン(実際に豊国の錦絵から発想された作品といわれている)が展開される。個性の強い五人のキャラクターは、史実や作者が見かけた実在の人物などをもとに生まれた。スーパー戦隊シリーズ(特撮テレビドラマ)の第一作も本作をモデルにしており、名乗りが取り入れられている。
當る亥歳 吉例顔見世興行
監修・文/関亜弓
歌舞伎ライター・演者。大学在学中、学習院国劇部(歌舞伎研究会)にて実演をきっかけにライターをはじめ、現在はインタビューの聞き手や歌舞伎と他ジャンルとのクロスイベントなども行う。代表を務める「歌舞伎女子大学」では、現代演劇を通して歌舞伎の裾野を広げる活動をしている。
イラスト/カマタミワ
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